俳風三麗花
「俳風三麗花」三田完 文芸春秋
句会に集まるのは、中年から初老のおじさんばっかりなんですがね
三麗花とあるように、三人の若い女性が句会に参加するようになります。
良家のお嬢さん、女子医専の医学生、浅草の芸者、この三人です。
この三人の身辺雑記が章ごとに展開していきます。
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「では、本日の席題を-------」
気分を変えるように先生がつぶやき、卓上の大硯に筆を浸した。
半紙にさらさらと楷書をしるす。
席題 端居 守宮
投句 各一句
〆切 二時
選句 三句(うち天一句)
暮憂先生は立ち上がって、半紙を襖の鴨居に鋲で刺した。
「端居」とは(はしい)、暑い季節に縁側で涼をとることである。
「守宮」とは(やもり)、よく家の壁にじっとはりついている爬虫類だ。
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時代は昭和初期、満州国の建国を非難され、国際連盟を脱退した時代のお話なんです。
戦争の兆しはあっても、まだまだ、のんびりしたころのお話です。
ほれたはれたとか、だましただまされた、とか、殺すの叩くの、といった切迫した場面が全然出てこないのもええもんです。
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つぎに句座は清記と呼ばれる作業に進む。
合計十四枚の短冊をトランプを切るように順不同にし、全句を清記の担当者があらためて半紙にかきうつす。
清記することによって、だれがどの句を作ったのか筆跡で判断できなくなる。
その上で清記された句を互選をしていくのである。
(中略)
三句のなかで一番傑作と思うものを<天>とする。
ちゑは迷わず「守宮いて------」の句の上に<天>と書き入れた。
(中略)
各人が選んだ句を読み上げることを披講という。
だれがどの句を選んだか、その句はだれの作品かが、この場ではじめて明らかになる。
暮憂庵の句会で朗々と披講をおこなうのは、男性の中で一番若くて声のいい政雄さんの役目である。
(中略)
「最初にわたくし、政雄の選からご披露申し上げます。
端居どき主ゐぬ部屋払う笑ひ声」
「銀渓」
すかさず大きな声で名乗りをあげた銀渓さんの声に一座の面々は各様の反応を見せる。
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このあと、もう一句と天の句が披露される、こんな段取りです。
句会の様子など知らないので新鮮でした。
思えば、奈良県曽爾村の屏風岩で、句会の一行が吟行しているのに出会ったことを思い出します。
ははぁ、その後はこんな様子で、披講・選評したのだろうなと想像します。
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