背表紙は歌う
「背表紙は歌う」大崎梢 東京創元社
出版社のタイプからして、これはミステリーの連作短編集なんです。
ミステリー臭さは消えていて、業界のお話しの臭いが強くしています。
主人公は弱小出版社の営業、書店をまわって、自社の本が売れるようにプッシュするのが仕事です。
当然、営業対象の書店員はいっぱい出てきます。
驚くのは、出版社各社の営業が顔見知りなことです。それだけじゃなく、飲み会も開きます。
へぇぇ、わたしの在職していた業界では営業同士が言葉を交わすなどあるはずもない世界だったのにね。
5篇ありますが、一番気に入ったのは「君とぼくの待機会」
芥川賞とおぼしき大きな賞で、かの弱小出版社の作品がノミネートされます。
さぁ、ノミネートの段階で、営業員は書店にプロモーションをかけます。
書店のなかで、今年の大賞はすでに決まっている、選考委員会での選考は出来レースだ、こんな噂が飛び交います。
これはとんでもないこと、悪意のあるデマだ、発表の前に、デマの発信地を捕まえて究明しなけらばならない。
出版社、編集者、作者は、レストランなり、バーなり、それぞれが集まって、発表を待機します。
その会合が待機会、謎解きをするにも、時間の制約がある、そういう緊迫感のあるお話しです。
このへんがミステリーの対象なんですね。
ミステリーにも、殺人事件ばかりじゃなく、この手の他愛もない犯人探しがあってもええ。
出版社にとって、出版社営業にとって、業界の死命を制す大事件なんです。
一般人にとっては、どうでもええお話しなんですがね。
その種の、ゆるいお話しが、当人にとってはガチガチのお話しがひろがっています。
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