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2009年11月 6日 (金)

借金取りの王子

「借金取りの王子」垣根涼介 新潮文庫
サブタイトルに、君たちに明日はない2
前作の「君たちに明日はない」がすばらしかった。
文庫本で2が刊行されました。すぐに買いました。
ホテルストーリーと同様で、ゲストに味があるからええのです。
リストラを請け負う会社で、社員を次々と退職するように持って行く仕事です。
「二億円の女」デパートの外商部門の縮小
「女難の相」生保会社の総合職の退職
「借金取りの王子」サラ金会社の店長を解雇
「山里の娘」温泉旅館の人員整理
「人にやさしく」派遣の雇い入れ
最後の章だけはリストラ話しではない、ひとを雇うお話しです
30代の男、40代の女、8歳の年の差はあるが、ふたりの中はうまくいっている、結婚するのかなぁ、たぶんしないだろうなぁ。
狂言回しに二人がからむが、魅力的なのはリストラされるほの人物群像なんです。
リストラは切ないお話しだが、なんとなく先に光が見えるかたちにもっていっている。
そういうところがええのです。
どうやら、「君たちに明日はない3」は今後とも無いでしょう。
垣根涼介の作品の傾向が変わっていまったから。

2009年11月 5日 (木)

外事警察

「外事警察」麻生幾 NHK出版
チルギスタンから来たテロ集団が日本に潜んでいる。
兆候をつかんで摘発に乗り出す。
警察庁の警備部がそれを統括している。
警備警察は理解しにくく、公安、外事を担当する。
内閣官房長官が介入してきて、混乱をまねく。
最後は、破滅的なストーリーにはなりません、めでたしめでたしのお話しになります。

目次の次のページに主な登場人物の一覧表があります。
ちょいちょいそれを見ないと、今会話している人物が誰なのか、役職は何なのか、訳が判らなくなります。

2009年11月 2日 (月)

これが日本人だ!

「これが日本人だ!」王志強 小林さゆり(翻訳) バジリコ
中国での題名は「如此日本人」
サブタイトルは、中国人によって中国人のために書かれた日本および日本人の解説書、こうあります。

新聞の書評で知ったのか、ネットの評判で知ったのか、書評の本にめぐり合えました。

著者の王志強は、IT関連の業界で、日中間を往復しながら、時には日本企業に籍を置きながら、日本と中国について注目してきたようです。
翻訳者の小林さゆり
「北京メディアウオッチ」 http://pekin-media.jugem.jp/
というブログの管理者で、ずっと彼女の記事を愛読していました。
パソコンが不調になり、フォーマットして、彼女のURLは行方不明になっておりました。
ブログ主としての名前は「しゃおりん」
そうか、小林をそのまま中国語で発音していたのかと納得しました。
おかげで、「しゃおりん」のブログを再びお気に入りに組み込みました。

中国人の日本人論ということで、もっと攻撃的なものだろうと身構えていました。
肩透かしするほど、客観的な見方をしています。
客観的ということは、中国人の民族の生理に逆らうことでもあります。
日本人がこの本を読んでも、違和感を抱くことはないでしょう。
中国人には、抗日教育・愛国教育の理念から外れていて、飲み込みやすいものではないでしょう。

ただね、日本人が読んでみて、中国人として決して譲っていないなと感じるのは
日本は中国文明の周辺部じゃないか、鎖国したりで独立世界を築いても、文明を作って放出したことはないじゃないか
いかにもおっしゃる通りです。
これは過去の文明の中心の民族が誇る点です。
こればっかりは歴史だから誇られてもしょうがないね。

学者・言論人の著作ではなく、市井のコンサルタント業者の本なのです。
中国の趨勢になるとは思えませんが、日中間の認識を変えるひとつであればうれしいなと思います。

2009年10月31日 (土)

道絶えずば、また

「道絶えずば、また」松井今朝子 集英社
「家、家にあらず」「非道、行ずべからず」歌舞伎の世界の三部作です。
江戸歌舞伎中村座のなかでのお話です。
中村座の太夫元は中村勘三郎、老齢の役者に荻野沢之丞
沢之丞は引退興行の舞台で、すっぽんの穴から落ちて死んでしまいます。
名跡を継がせるのは養子だったはず、実子はそれで納得しているのか。
続いて、道具方の棟梁も死んでしまいます。
一連の殺人の背景には、寺がでてくる、大奥がでてくる
八丁堀の町奉行の範囲を越えて、寺社奉行も巻き込み、大奥にも探りを入れ、収拾をつけるのが大変です。
一連の三部作、全部読んでいるはずなんです。
「非道、行ずべからず」は中村座のなかでのお話し、「道絶えずば、また」の数年後のお話です。
「家、家にあらず」は刊行は第2作ですが、時代は一番古い時代で、今となってはどんなお話しだったかなぁ、大奥が舞台のお話しなんです。
松井今朝子の本を連続して読んでいると、芝居の世界には詳しくなります。
空気が伝わってきます。
今回の作品では、寺に逗留して修行する、その雰囲気が味わえます。
在家の修行で寺篭り、こんな味わいは他では味わえない。
おすすめの作品です。

2009年10月26日 (月)

覇天の歌

「覇天の歌」岩井三四二 講談社
岩井三四二の小説には荘園の管理者や陰陽師、伊勢神宮の御師など、古文書の片隅に出てくる人物が登場します。
作品群にちょいちょい連歌師があちこちに出てますが、これは連歌師が主人公
紹巴(じょうは)が主人公です。
奈良興福寺の召使の子だが、次男坊で生きる手立てとして、連歌師になることを志す。
弟子入りしたが、修行といってカリキュラムがあるわけでもなく、なんとなく空気をすっているうち、最初の師匠は死んでしまう。
拾われて、紹巴は二度目の師匠を得た。
この修行時代が読んでいて一番快いなぁ。
連歌の座は十人程度で、主催者が発句をよむ、付け句、三句は上手(じょうず)がつける。
句を執筆(しゅひつ)が記録し、指合(さしあい)という連歌のルールに合うか合わぬかを点検しながら座を進めていく。
二番目の師匠が死んで、順番があがって、宗匠として世に出ることになる。
覇天とは業界のトップを目指すことで、この場合は連歌の道でのことなのだ。
公家衆に出入りして、足利幕府の管領などの高官の連歌の席に出入りするようになる。
信長の時代、明智との親交、秀吉の知己を得ることになる。
関白英次の屋敷に出入りしていたので、斬首はまぬかれたものの、追放となる。
サブの主人公は細川幽斎、和歌の道は敷島の道、連歌の道は筑波の道、幽斎は古今伝授を得た敷島の道の達者です。
紹巴の限界をよく知っていて、世の渡り方にそっとヒントをくれることもあります。

2009年10月24日 (土)

「反日嫌韓」の謎88

「反日嫌韓」の謎88 小滝透 飛鳥新社
従来から繰り返された「反日嫌韓」の記述で、あまり目新しいものはありません。
類書によくある、読んでいて胸が悪くなる、そのような不公平はありません。
嫌韓についてはよく判っているので、深い記述はありません。
なぜ反日に向かうのか、韓国の心情について多くを割いています。
この先、日韓両国が「反日嫌韓」を溶け合えるのか、疑問ですねぇ。
韓国側は一方的にやられっぱなしで、回復の機会を得ておりません。
韓国が軍事的に勝利しないかぎり、「反日嫌韓」はどこまでも続いていくことでしょう。

2009年10月17日 (土)

毛利は残った

「毛利は残った」近衛龍春 毎日新聞社
第1章呑気な二代目
第2章なに!わし儂が総大将?
第3章空弁当のつけ
第4章六ヶ国減封命令
第5章家臣の扶持は五分の一に
第6章領土が増えぬ戦
第7章長く生きた方が勝ち
第8章重臣誅伐
第9章検地の挑戦
第十章敗将の勝利
終章 和解
成り行きで関が原の戦で、西軍の総大将に担がれ、まんざらでもない気分でいたところ
みごとに西軍は負けてしまった。
もともと中国の大々名120万5千石の領土だったのが、周防長門の27万8480石に磨り減ってしまった。
次々と幕府の普請手伝いの命令が出て、借金に借金で、どうにもならないところまで行き詰ってしまった。
再検地して、石高を捻出しなければならない。
強行して、53万9200石で再評価して幕府に届け出る。
大名間の釣り合いもあるので、36万9411石と定まることになる。
そこに至るまでには、重臣を切腹させ、一揆をおしつぶし、並大抵のことではなかった。
関が原までは馬鹿殿様、石高が減ってからは、じっと我慢の賢い殿様
馬鹿殿様の印象しかなかったが、大阪冬の陣夏の陣までに盛り返した、そんな経過があるとは始めて知りました。

2009年10月 5日 (月)

忍者烈伝

「忍者烈伝」稲葉博一 角川学芸出版
忍者ものというと、白土三平のサスケや、村山知義の「忍びの者」が名高くて、それを越えるものはなかなか生まれません。

赤ん坊が捨てられ、拾ったのは誘拐を業とするもの、下忍を養成するため、子供の頃から仕込んでいくのです。
子供は成長するにつれ、競争にさらされ、劣った子供は間引かれていきます。
そこへ、たまたま、上野のヒダリ、見込みがあるということで、その子は買われて上野のヒダリのもとで忍者の鍛錬を続けていきます。
ここからが長いお話し
こどもの名前は段蔵、成長しての名前は、加藤段蔵、飛びの段蔵、鳶段蔵
上野のヒダリは別の名前は持たないなぁ
ひとさらいの名前は東夭坊、またあるときは赤兵衛、あるいは暗夜軒
もちろん、上忍の百地丹波も出てきます
メインのストーリーは、段蔵が伊賀から抜け忍して修験者のもとで修行して、北条家、上杉家、武田家で仕官を求めること
腕を見せて売り込むのだが、技が切れすぎて、どこでも抹殺されようとする
最後は、武田家で命を落とすことになる
サイドストーリーは、上野のヒダリと赤兵衛、暗夜軒の戦い

あまり本気にならずに気楽にページをめくってください。
間違っても、人生とは、青春とは、そのようなお話しではなく、忍者のお話しです。

2009年9月27日 (日)

街場の中国論

街場の中国論 内田樹 ミシマ社

第1講チャイナ・リスクー誰が13億人を統治できるのか
第2講中国の「脱亜入欧」ーどうしてホワイトハウスは首相の靖国参拝を止めないのか
第3講中華思想ーナショナリズムではない自民族中心主義
第4講もしもアヘン戦争がなかったらー日中の近代化比較
第5講文化大革命ー無責任な言説を思い出す
第6講東西の文化交流ーファンタジーがもたらすもの
第7講中国の環境問題ーこのままなら破局?
第8講台湾ー重要な外交カードなのに、、、
第9講中国の愛国教育ーやっぱり記憶にない
第10講留日学生に見る愛国ナショナリズムー人類館問題をめぐって

第3講の中華思想にこの本のキモがあるので採録しておきますね。
-------
中国とは「ここからここまでの国のことである」というふうに国境線を確定してしまうと、その外側は「王土(おうど)」ではないということになる。
それは中華思想に背馳する。
中華から発信する「王化(おうか)」の光があり、それが届かないところには「化外(けがい)の民」がいる。
でも、その境涯までは周縁部を含めてすべて「王土」に含まれる。
その広大無辺なる「王土」には、いろいろな人種的要素が全部含まれます。
ですから、「王土」はさまざまなファクターを含んでいないと成立しない共同体幻想です。
日本の場合は、均質的な共同体がのっぺりと広がっているとうイメージですが、中華思想の場合は、中心から周辺にむかってゆるやかなグラデーションがあり、どこで終わるのかがはっきりしない。
-------
ずっと読んでいて、第9講の愛国教育でムカムカしてきます。
そんな政策を国内で施しているなど知らない、突然、過激な愛国反日運動が起きて、驚いてしまいます。

2009年9月22日 (火)

武士道シックスティーン

高校県道部の女子部員の友情と対立のお話しです。
かたっぽ、宮本武蔵を崇拝するコテコテの勝負重視の女の子
もうかたっぽ、日本舞踊から剣道に方向を変えた女の子
剣道硬派は幼稚園のころから鍛えてきた
軟派のほうは、中学校から剣道を始めたばかり
高校で一緒になり、剣道部に所属するようになる。
最初の試合
------
なんだ、打てば応じるのか。
さらにメン。メンメン、ドウ。やはり、すべて普通に捌く。ただ、反撃はしてこない。遠間を保って、なお中断の構えを崩そうとしない。剣先は、ずっとあたしの喉元、突き垂れに向けられている。
こいつ、おかしい。すごい変わっている。でも、どこがだろう。何がだろう。
そういえば、こいつはここまで、一度も鍔迫り合いになっていない。もう一度、何本か続けて打ち込んでみる。
メンメン、引きゴテ、メン、引きドウ、コテメンーーー。
やっぱり。こいつは、きた攻撃を竹刀で受けはするけど、ほぼ同時に自分で動いて、こっちの体当たりまで、セットでかわしているのだ。体が当たらなければ、当然鍔迫り合いになどなるはずもない。
中略
こい。こないなら、こっちからいくぞ。
「ンメァァーッ」
と、そのときだ。
相手の姿が、急に膨らんだように見えた。
真っ直ぐくる。剣先がありえない大きさに膨張する。
「メェーンッ」
次の瞬間、あたしの脳天が緑色に爆ぜた。
「メンあり」
視界の右隅に、白い旗が、さっと上がるのが映った。
------
剣道の世界とはこういう風なものなのか。
途中で中断してテレビドラマを見ていましたが、つまらん、小説のお話しの方がずっと面白い。
読み始めて、一気に読み終えてしまいました。

著者の名前、誉田哲也は、ほんだてつやと読むのだそうです。

医学のたまご

「医学のたまご」海堂尊 理論社
ぼくは中学生、潜在能力試験で全国で一番になった。
あたりまえ、問題の出題者はぼくのパパなんだ。
パパは、いまアメリカで大学の教授をしている。
東城大学医学部に中学生のまま、大学生として通うことになった。
(東城大学はチームバチスタから始まる海堂尊の作品の舞台になっている大学です)
指導する教授が悪い教授で、論文の執筆者はぼくということになった。
まだ論証が終わっていない論文をあせって発送してしまったのだ。
論文の不備を突かれて、ぼくが記者会見で謝罪することになった。
ぼくは、大学に通うようになってから、パパとメールをやりとりしていた。
そのメールで、悪い教授は企みがばれて、恥を掻くことになった。

大学医学部とはどのようなものか
論文提出には、世界的な学術雑誌がピンからキリまであって、どのレベルで折り合いをつけるか、とか
文部科学省やそのほかから、研究の資金をどんな段取りで引き出すか、とか
かなり、へぇ、と始めて知る事柄がいろいろです。
体裁は、横書きです。
「日経メディカル」に連載したもので、医師や医療関係者から好評だったものです。
内容が中学生を対象、ということで、理論社から出版されたものです。

2009年9月18日 (金)

アフリカにょろり旅

「アフリカにょろり旅」青山潤 講談社
東京大学海洋研究所、そのうなぎグループのアフリカでうなぎを探すお話です。
うなぎには18種類があって、17種類までは採取されているが、最後のラビアータという種類だけはまだ採取されたことがないのだそうです。
これは、ラビアータを探してアフリカでもだえ苦しむお話しです。
アフリカ大陸でもマダガスカル島に近いあたり、マダガスカルの海峡に流れ込むザンベジ川があります。
海岸を持つ国がモザンビーク、内戦があって、混乱が収まらず治安の悪い国です。
その上流に、マラウイ、海に面していない内陸の国です。
さらに、モザンビークの南のジンバブエ、この三国を、うなぎを探してのたうちまわります。
実態はノンフィクションなんですが、味加減はフィクション、アフリカの臭いとうなぎの臭いが伝わってくるような書き味です。
この三つの国を歩くのに、すべてバスとヒッチハイク、えらいことだなぁ。
水に棲む住血吸虫とマラリヤにおびえながらの旅です。
なんとか探し出せた、標本としてうなぎ数匹を手に入れました。
とまぁ、めでたしめでたしのお話しですが、めでたしに至るまでの苦労は大変だ。
苦労話ではなく、明るく読めるところがさわやかです。

2009年9月17日 (木)

青雲の梯

「青雲の梯」高任和夫 講談社
著者はビジネス小説で世に出たひとです。
今度は時代小説に新しいジャンルを開いております。
老中と狂歌師、これがサブタイトルです。
老中田沼意次と狂歌師大田南畝、筆名四方赤良、このふたりです。
五分の四、あと70ページまで読み進んで、どうにも読み続けられなくなりました。
老中田沼のせいではありません。
大田南畝、この主人公の品格が卑しいので、読む気がしなくなりました。
徳川幕府には御家人という雇い人がおります。
大田南畝は御家人で、御徒歩組に所属し、門番をしたり、行列の先触れで下に下にぃと駆け回ったり、鷹狩りで犬の役目を果たしたり。
月に5日6日の出仕で、あとは非番、だから給金はべらぼうに安い。
内職をしなくては食えないが、黄表紙、読み本などの稿料で支えているが、この稿料も安いもんだ。
たまたま狂歌を出版したら当たって、(やはり稿料は安い)もてはやされることになる。
他人の金で酒を呑み、あげく、遊女を身請けし、金は知人に出してもらう。
遊女を身請けしたはええが、住まわせるところもなく、めかけを囲うのに裏長屋に住まわせることになる。

なんだかメチャクチャの世渡りだなぁ。
たいがい主人公に感情移入して、応援したりハラハラしたりするもんだが、感情移入どころか、勝手にせぇ、と突き放したくなる。
この先、老中と狂歌師が出会うのか、出会わないのか、もうどうでもよくなって、この先を読むのを放棄しました。

2009年8月21日 (金)

地取り

「地取り」飯田裕久 朝日新聞出版
元刑事で、刑事経歴20年、退職後は、刑事ドラマなどの監修を仕事にしているひとだそうです。
現役当時の捜査のありさまを小説仕立てで展開しております。
お話しは殺人事件で、犯人を絞り込んで逮捕するまでが書いてあります。
タイトルが「地取り」、現場の周辺を升目に区切ってそれぞれが担当し、要するに、聞き込みをするわけです。
この地取りが捜査の基本、王道なんだそうです。
へぇぇ、むやみやたらに駆け回るのではなく、縄張りが区切ってあって、そのなかを集中的に掘り下げるのとは知らなかった。
刑事ドラマで、係長、主任、と出てきますが
一般の会社では、係長、主任は、ぺぇぺぇの若者です。
警察では、係長は警部クラス、主任は警部補クラスなんだそうです。
むちゃくちゃ昇進が遅い世界なんですねぇ。
理事官、管理官、というのがあります。
係長よりエライのでしょうが、どの程度エライのか、出世を狙えば届く役職なのか、そこのところはわからない。
作者は、部長刑事で終始して、退職時に警部補を拝命してやめた、とこんな経歴です。
理事官、管理官になれるなど思いもしなかったので、書きようもなかったのでしょうね。

2009年8月15日 (土)

三番手の男

「三番手の男」童門冬二 NHK出版
サブタイトルに、山内一豊とその妻
山内一豊については、司馬遼太郎でほとんど尽きております。
それでも、読む気になったのは、書き方のスタイルが変わっているから。
小説仕立てなんですが、ときおり、解説が入るのです。
時代背景だったり、信長についての注釈、秀吉についても注釈、箇条書きだったり、黒丸マークで要約してくれていたり
いうならば
小説を読んでいる途中で、ウィキペディアを参照しながら読み進めているようなもんです。
三番手の男とは三番手の男、人間のキレが三流なんだから、一流、二流の男が振舞うようなことは決してしないこと
よめさんが亭主に懇々と教え込んでおります。
亭主も自分がよくわかっていて、もっともだもっともだと納得しております。
そんな三流の男のお話しなど面白いはずがない、それでも面白いのは、童門冬二のコメントなんですね。
NHKも「そのとき、歴史が動いた」などの番組で、お話しを語っているのだが、大事なのは、コメントであり、解釈なんですね。
ドキュメンタリ番組を小説仕立てで読んでいるようです。
決して文学賞の候補には挙がることがない作品です。

2009年8月14日 (金)

晋平の矢立

「晋平の矢立」山本一力 徳間書店
主人公は壊しの棟梁です。
ほら、今でも解体業があるでしょう、その壊しを統べる頭です。
主人公も晋平で、どの章にも顔を出す、状況設定は同じです。
これは長編なのだと読み始めたら、違った、ひとつひとつの章は独立したお話しでした。
晋平の矢立とタイトルにあるが、矢立が出てくる場面はひとつもないがなぁ。

お話しがどうとかこうとか、そんなところを上げ下げしてはいけません。
職人のやりとり、頭、中頭の采配を味わうんですよ。
一力ワールドは、ストーリーの切れ冴えで売っているんじゃありません、読者は、深川が醸し出す味・雰囲気を何度も味わうために繰り返し新作にとびつくのです。
でもねぇ
連作だとは理解しますよ、最初に切れのあるお話しだったので、章が変わるたびにもっと話しに切迫感があってもええのに、だんだんとだれたお話しで終わるのだもの、もうちょっと精進していただきたいものですね。

2009年8月13日 (木)

マネーロンダリング・ビジネス

「マネーロンダリング・ビジネス」志摩峻 ダイヤモンド社
以前はビジネス小説が好きでよく読んでいました。
とりわけ、金融業界のものは大好物で、ストーリーの展開とは関係なしに、データとか背景とか、そっちのほうに眼を光らせて読んでいました。
いつのまにか、読まなくなってしまいました。
事件があざとすぎる、嵌め込まれた人が気の毒でたまらない、通常の状況を書いていては前作と変わらないので、どんどんとエスカレートしていく、進化しすぎたので、わたしにはもうついていけない世界になってしまいました。

このお話しは損保の業界です。しかも、M&Aで得た外国の損保会社のお話しです。
手に入れたテキサスの損保会社がちっとも儲からない、ということで、腕利きの若手社員を派遣することにします。
テキサスの社長は、保険を再保険して、再保険先はバミューダのダミー会社、そこでばらばらにして食ってしまっています。
一番の得意先は、パナマ系のマフィアのフロント企業で、麻薬、地上げ、要するにダーティなビジネスを保険料を払うことでマネーロンダリングしています。
わからんでしょ、こういうことです。
高額の保険料を支払います。保険は再保険して、再再保険して、ばらばらにして、キックバックして、クリーンマネーに変身するわけです。
この子細を明らかにすることがストーリーで、だんだんとスキームが明らかになってくるところが面白いのです。

作者は、損保会社の取締役を経たひとで、だから、業界事情に詳しいのでしょうね。
これが日本国内のお話しなら、気の毒だとかあざといだとかで、読む気がしなくなるとこですが、外国が舞台のお話しで、そこは気の毒感は消えてしまって、ドライに読めるというものです。

前々からの癖は抜けないもので、本筋のお話しではない、ちょっとしたことを拾い出しました。
日本では労災保険は国営ですが、アメリカでは損保会社が扱います、ワークメンズ・コンプと言います。
日本の労災保険は料率が決まっているが、アメリカのワークメンズ・コンプは自由設定みたい、これはほんまかいな。
マフィアはイタリア系がアメリカ全土を仕切っているのではなく、コロンビア、パナマなど中南米のマフィアが食い込んで、カポネの時代とは大違いなんだそうな。
というわけで、このお話し、おもろい、感動の大作とまではいえないが、読んで損した、時間を返せ、などと叫ぶことはありません。

2009年8月11日 (火)

舶来屋

「舶来屋」幸田真音 新潮社
幸田真音は初期の頃の国際金融のお話しが最高で、そこからは尻すぼみの状態です。
ニュービジネスのタネを探り当てて、お話しを広げても、そのビジネスの底が浅いから、いまいちですねぇ。
伝記でええものをみつけました。
銀座のサンモトヤマの創業者、茂登山長市郎の伝記です。
茂登山長市郎は、銀座の商人の子息ですが、店は弟に譲って、闇市で新しい仕事をみつけます。
外国にでかけ、エルメス、グッチを知り、取引できるようになります。
取引できるようになるまでが大変で、そのへんの経過は長い章立てになっております。
ブランド品を輸入してショップを建設して販売するわけですが
ヨーロッパのブランドオーナーが直営店を進出させるので、駆逐される羽目になる。
取り扱い商品、売上高は縮小して、致命的な打撃を受けるが
中近東の産品、アジアの産品、稀少品、ラグジュアリーグッズですね
そっちのほうへ転換して行く。
茂登山長市郎、サンモトヤマ、この名前を変えて、架空のお話しを創造することなく
あったことをあったように書いて伝える、主人公の行動こそが読者を感動させるのでしょうね。
その意味では
幸田真音の筆のちからではなく、茂登山長市郎の人物のありように興味がありますね。
小説なんだけど、自由な展開を控えたところが、この小説の読みどころなんでしょうね。

2009年8月 9日 (日)

小堀遠州

「小堀遠州」中尾実信 鳥影社
小堀遠州の一代記です。
小堀遠州は茶の湯の世界で、遠州流の始祖として崇められています。
政治的には、伏見奉行、近江奉行、五畿専断、として、朝廷との連絡調整が役割です。
ほかの一面に、作事奉行があります。
社寺の建築、城郭の補修建築、家康、秀忠、家光の三代にわたって、着実に作事奉行としての業績を伸ばしていきます。
建築は総合事業で、障壁画、天井画、釘隠しなどの金具、作庭、塀、まで範囲の多い仕事です。
俵屋宗達、狩野探幽、など、を世に出し、光悦門下で隠れた人材を前田家金沢に紹介し、加賀工芸の基礎を作るのにも貢献します。
要するに、キュレーターなんですね。
850ページにもわたる大部の本で、面白いか、と聞かれると、返事に困る。
血湧き肉踊るような面白みはありません。
退屈といえば退屈、エピソードのひとつひとつで、面白い部分を拾って、つまらない部分は読み捨ててください。
建築のお話し、作庭のお話し、襖絵のお話しでは興味が尽きないのですが
茶の湯のお話しになると、どこがええのかユニークなのか、判断のつけようがありません。
自分が茶の湯に疎いと、理解する部分、感動する箇所がほとんどないのに驚きます。

2009年7月10日 (金)

千世と与一郎の関ヶ原

「千世と与一郎の関ヶ原」講談社 佐藤雅美
歴史小説に、史談と歴史小説があります。
歴史小説には狂言回しに架空の人物をはめこんだり、独自の解釈でストーリーを運ぶものですが、史談にはそんな自由はありません。
このお話しは史談に近いね。
細川幽斎藤孝、細川忠興、細川与一郎忠隆、祖父と父と子です。
太閤秀吉の晩年、前田家の姫、千世を細川忠隆にめあわせます。
秀吉の死後、徳川家康は、細川家と前田家の親戚つきあいを禁じます。
離縁せぇと命じているわけです。
忠隆は千世がかわいくて、離縁の申し渡しなどできない。
上杉征伐で大名家は関東に集結します。
大阪の石田三成方は、人質に大名の奥方を集めようとします。
忠興の妻、細川ガラシャ珠は抵抗して自害した。
千世は逃げ出して、前田家の屋敷に逃げ込んだ。
ここまでが小説の三分の一くらい。
ここからは、延々と関ヶ原のいくさで、いやぁ、お話しが長いなぁ。
終わり十分の一くらい、戦後、忠興は忠隆に牢人するよううながす。
しかたなく、忠隆は祖父幽斎の居候となる。
前田家を頼ったが、前田家も徳川が怖くて、寄せ付けない。
結局、千世と忠隆は離縁することになる。

このお話し、どこが面白い?
細川家も前田家も徳川を恐れた、こういうお話しじゃないか。
板ばさみになった千世と与一郎は散々な目にあいました、こういうお話し。
他の作品では、自由にストーリーを展開するのに、この作品に限っては窮屈なお話しの運び方で、無理して、我慢して読んだよなぁ。

2009年7月 2日 (木)

一手千両

「一手千両」岩井三四二 文芸春秋
サブタイトルに「なにわ堂島米合戦」
岩井三四二は中世の荘園や戦国時代のあれこれのお話が多いのに、これは珍しく近世のものです。
おさななじみが遊女と心中して、さらしものになっています。
心中する、その前の日に相談顔で訴えかけそうになっています。
どうも雰囲気は好いた惚れたの心中話しではなかったような。
商人の学塾の懐徳堂での同部屋だった四人がそんな気配を感じていた。
調べ始めると、死んだ友達は米会所の年行事の言いつけで何やら探っていたようなーーー
最近、米会所の外に、現銀店が現れた。
米会所の相場の上げ下げを予想して、金を張る場外取引のようなしろものらしい。
(今でもありますよね、ロンドン金相場を予想して、上げ下げを競うインチキ相場)
どうも、この現銀店、米の仲買商が裏で操っているものらしい。
ハイライトは、その大物米商人と若者米商人の相場の対決
米会所とはいっても、建物の中じゃありません、青天井、広場でのやりとりです。
やった、やったぁ、とった、とったぁ
やったの掛け声は売るぞ売るぞ、とったの掛け声は買うぞ買うぞの掛け声
値段と数量が一致すると、双方がてのひらをぶつけて売買成立
こんな姿なんだそうです。
面白い、先物相場の商いは世界で始めて、この堂島の米相場からなんだそうです。

2009年7月 1日 (水)

煙霞

「煙霞」黒川博行 文芸春秋
黒川博行の作品では、(自称)建設コンサルタント・二宮と、二蝶会のヤクザ・桑原のコンビが活躍するシリーズが一番好みです。
勲章を得るためだったかな、学士院の会員選挙だったかな、シロウトの世界のほうがはるかに汚い、読むのにへきえきした、そんなシロウト世界のお話もあります。
これは、私立学校の理事長と臨時講師のお話
正教員に登用するために、理事長を誘拐するところからお話は始まります。
これはシロウトの汚い世界のお話かいな、うんざりするな、そう思ってページが進まなかったのだが、ところが思わぬ展開
さらった理事長は誰かにさらわれてしまいます。
ヤクザの登場です。
ここからお話は面白くなってくる。ヤクザが出るとなんでもあり、蓋然性もあるし、展開がなんぼ無茶苦茶でも、それはそれでええのです。
ヤクザは、理事長の金塊を管理会社から引き出してしまう。
巻き込まれた臨時講師たちがヤクザに立ち向かって、ヤクザから金塊を取り戻すお話し
上質のエンタテインメントです。
題名の煙霞はえんかと振り仮名がある、こんな題名ではなく、もっとずばりの題名になんでしなかったんだろ。

2009年6月18日 (木)

ほうき星

「ほうき星」山本一力 角川書店
長屋の子供がりりしく生きていくお話しだったり、ええしの衆の子が親の生き方を学んで生きていくお話しだったり、このお話は後者です。
ほうき星の出る夜に女の子がおぎゃぁと生まれてきます。
父は絵師、母は鰹節問屋の次女、どうして長屋住まいの絵師に嫁いだのかは読み流してしまった。
山本一力は不幸を混ぜ込んで人生に試練を与える筋立てが多いです。
船が難破して両親とも亡くなったり、隠居していた祖母が亡くなったり、展開の度に不幸に包まれます。
不幸を書いても、山本一力のええところは、これでもかこれでもかと不幸の上塗りを描かないこと。
不幸を糧に希望をみつめていくこと。
成功譚や立身出世譚ではないのです。
終章で幼なじみと夫婦になるのを決心していますが、この先はどうなるんだろう。
話しの展開の糸口をいっぱい並べて収束しきれぬまま終わっています。
予定調和でめでたしめでたしのお話しが多いのに、ここでは未消化感が残るのは否定できないよね。

サンケイ新聞連載でした。
出版社が角川書店で、なんぼ新聞連載でも出版権はまた別なのか、こういうこともあるんですねぇ。

2009年6月15日 (月)

はて、面妖

「はて、面妖」岩井三四二 光文社
はて、面妖をテーマに集めた短編集です。
「地いくさの星」伊予の里侍、侍と百姓の中間ですね。
土佐勢の乱暴刈り、収穫寸前に米を刈り取っていく行為、これに反撃するお話し
「善住坊の迷い」信長狙撃を命じられて、ひとつ玉でやるか、ふたつ玉でやるか、迷いに迷う。
ふたつ玉とは弾丸を半分に切って、紙で包んだもの
結局、ふたつ玉で射撃したが、信長を真ん中にして左右に玉が散って失敗するお話し。
「花落尽(みやこづくし)をあの人に」信長が上洛して仕事を得ようとするお話し、狩野永徳の若き頃のお話し。
絵のサンプルを上覧に呈するに、何を差し出すか。
室町幕府当時の注文流れの洛中洛外屏風図を差し出すことにする。
「母の覚悟」関白豊臣勢に囲まれた北条家、その傘下の由良家でのお話し
領主と精鋭は小田原城に監禁状態、豊臣勢はひたひたと攻め寄せてくる
ご隠居のお袋さまの打った手は、結論、裏切り。
「松山城を守れ」
「人を呪わば穴ひとつ」
「修理亮の本懐」
全部は解題しません。
古文書の片言隻語から着想して、お話しをひろげる岩井三四二です。
どんでん返しが愉快で、はて、面妖、面妖であればこそ面白いです。

2009年6月11日 (木)

信長の棺

「信長の棺」加藤廣 日本経済新聞社
織田信長が本能寺で明智光秀に討たれて、世の中は関白豊臣秀吉が天下を敷いています。
大田牛一は信長に仕えていました。
北陸に逼塞していたが、秀吉に召しだされて、伝記、物語などのお追従記録を書くよう求められます。
「たいこうさまくんき」
太閤さま軍記か、太閤さま薫記か、心ならずも筆をまげて書いた代物です。
牛一は、信長公の伝記を書こうと資料を集め聞き取りを重ねていました。
秀吉が聞きつけ、信長公記を書くように言いつけます。
秀吉の真意は、信長を賞賛するのではなく、信長の悪辣非業を書いて、自分の悪辣以上のものがいる、と弁解するものでした。

8割がた読み進めて話しは急転します。
それまでは、どちらかというと退屈、面白いとはおもえませんでした。
信長はどこで死んだのか、遺体はどこに隠したのか、ここが「信長の棺」のテーマで、やっと序破急の急の部分にさしかかります。
「空白の桶狭間」で木下藤吉郎を「山の民」の出身と書いています。
明智の反乱に手を打って、秀吉が施した手が「山の民」の作業です。

8割がたまでは本気で読まなくてよろしい。
最後になると、へぇ、そんなお話し、とページを閉じられなくなります。

2009年6月 3日 (水)

くじら組

「くじら組」山本一力 文芸春秋
山本一力にしては珍しいことに、江戸深川を離れて土佐が舞台です。
土佐の浜では鯨の漁をなりわいにしています。
ある日、鯨を探す見張り所で黒い煙を吐いて走る早い船を見つけました。
高知の藩庁に報告に八丁櫓の勢子舟を出すことになります。
海を走らせているうち、舟は鯨に襲われ、鯨に噛まれてひとり死んでしまいます。
土佐藩は大目付に詳細すべてを報告することにし、黒船と名付けて、見取った絵を大目付に差し出します。
浜では鯨へのかたき討ちに燃え、かたきの鯨に黒船と名前を付けて探索します。
土佐藩からの報告があって間も無く、江戸湾に黒船が侵入して威嚇砲撃をします。
とまぁ、こんなお話し
鯨を狩る浜の組織・仕組みにへぇと驚くものがあります。
山本一力、深川ものを離れて、故郷の土佐のお話しもええもんです。

2009年5月28日 (木)

謎手本忠臣蔵

「謎手本忠臣蔵」加藤廣 新潮社
赤穂四十七士のあだ討ちのお話しです。
ももとも、忠臣蔵のお話しは好きではありません。
自分と全然つながるものがないからです。
ながながと上下2巻で語っていますが
謎とタイトルにあるのに、謎の部分が少ない。
将軍綱吉が生母桂昌院のために従一位の位階をもらおうとする
その工作に携わった吉良上野介に浅野内匠頭がひとこと言葉を挟む
余計なことを、と反撃侮辱された浅野は吉良を殿中で討つ、切り掛かる
謎の要点はそこにあるのです。
ただね、浅野が吉良に何を言ったのか、そこのところが書かれていない、ここのところは伝聞と推定で探るわけです。
巻頭と巻末で触れているが、大部分は大石内蔵助を追うお話しですから、謎に焦点が当たっているわけでもない。
看板と中身が違うよねぇ。

2009年5月20日 (水)

空白の桶狭間

「空白の桶狭間」加藤廣 新潮社
「信長の棺」で世に出た著者ですが
その本を読まない前に、最新作を読むことになりました。
桶狭間の合戦は無かった、信長は義元に降伏すると申し出て、降伏の対面のときに謀略を果たしたのだ、こんなお話です。
この謀略の根回しは、木下藤吉郎です。
かれは、山の民の生まれで、里に出た二代目、蜂須賀小六も山の民の出ですが、四代目なので、縁が薄くなっています。
桶狭間の合戦も、山の民のちからを借りておこなったもの、こんなお話に仕立てております。
なんぼ山の民でも天気を嵐に変えられるものかしら、あるいは、山の民だからこそ天気予報に詳しいとするのかしら。
すると、「信長の棺」「秀吉の枷」などの前作も、同じシチュエーションで貫くものかもしれません。

2009年5月12日 (火)

ホルモー六景

「ホルモー六景」万城目学 角川書店
万城目学は「まきめまなぶ」と読むのだそうです。
歌謡曲の作曲家に万城目正がいて、「まんじょうめただし」
てっきり、万城目はまんじょうめと読むのだと刷り込まれていましたが、まきめとは、へぇぇ、そうなの。
万城目学にはじめて会ったのはテレビドラマ、鹿男あおによし、でした。
意外なところからお話を繰り出して、展開が思いも寄らず、上質のストーリーテラーだな、と感服したもんでした。
じつは、この作品、ホルモーではなく、ホルモンと読み違えて、焼肉か恋愛ものか、ホルモン関連のお話だろうと馬鹿にしていました。
違った。
ホルモーの意味はわからないが、鬼を駆使して、殲滅を挑み、団体戦で勝負を決する、そんなものでした。
京都大学青竜会、立命館大学白虎隊、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックス(旧名朱雀団)、ほかに、同志社大学黄竜陣、これは休眠中
京都の大学に限ったお話かいな、と思っていたら
卒業して、OB、社会人になって、同じように鬼を駆使する、青竜お茶の水、白虎一橋、を知る。
6編ありますが、それぞれに相互関連はないのです。独立したお話。
前の編でちらっと出たキャラクターがまたちらっと姿を見せるのは、ご愛嬌、サービスですかね。
この連作、終章に出し抜け感はありますね。
これでおしまい、といったカタルシスはない。もっともっと、と期待感を煽って置き去りにした感じはあります。
ま、それもしょうがないか、うそとまことの、うその部分を語っているんですからね
予定調和で落ち着こうにも、落ち着くべきところがないよね。
万城目学は稀代のストーリーテラーです、これからも万城目学に注目して、目を離さないようにします。

2009年5月 8日 (金)

土井徹先生の診療事件簿

「土井徹先生の診療事件簿」五十嵐貴久 幻冬社
ヒロインは警察の副署長、東大出でキャリアで二年目での赴任先が警察の副署長
当然、なにもできないが、場合に当たっては任に当たるというか、任される場合もある。
やくざが狙っているという警察OBの訴えだったり
猫屋敷で困っているから説得せよという要請だったり
獣医の土井徹先生を頼りにして、トラブルを解決するお話です。
ワトソン役はあっちで、ホームズ役はこっちですね。
短編集なので、このようにゆるいお話ばかり連ねていますが
長編ではサスペンスで息詰まるお話をひろげています。
そうか、ゆるいお話も語れるということを示したのか。

2009年5月 6日 (水)

笑う招き猫

「笑う招き猫」山本幸久 集英社
売れない漫才コンビが売れ始める、芽を出すころの話しです。
アカコとヒトミ、これがコンビ名
アカコが年上小太り小柄、ヒトミは背丈の高い大女
吉本や松竹のような大手所属ではなく
グラビヤアイドルで稼いでいて、演芸は、こんなのもやってます、と言う程度のプロダクション
東京での芸能プロの実態はこんなもんなんでしょうね
エヌエッチケイの深夜番組で新人の漫才バトル、ここで売れ始める経過を書いたお話しです。
上昇志向のお話しなので、読んでいてアトクチがよろしい
つぶれていくお話しなら、途中で読むのを止めてしまいます。
志が高い、志が明るい、これが一番です。

2009年5月 4日 (月)

利休にたずねよ

「利休にたずねよ」山本兼一 PHP
利休切腹の日からお話しはスタートします。
不思議なことに、だんだんと年月はさかのぼって、ついには、与四郎と名乗っていた19歳の当時までさかのぼります。
エピローグは、切腹したあとの場面です。
利休と秀吉の対立ですが、美の意識の違い、これに尽きます。
瑠璃色の香合、これが重要な小道具として要所要所に出てきます。
大名物として、秀吉は買い上げを命じますが、利休はそれに応じません。
利休の美意識の根源は、高麗の姫の意にかなうものかどうか、それが芯になっております。
19歳の当時、人身売買でさらわれてきた高麗の姫、これを助けます。
助けきれず、最後は毒を飲ませて死なせてしまいます。
その形見が瑠璃色の香合、他人に見せることなく身に付けて忍ばせていたものです。

正直、利休の美意識も、利休と秀吉の抗争も、わたしには縁の無い世界ですが
話しがどんどんと過去へ過去へと遡って行くお話しの展開にはひきつけられました。

2009年4月21日 (火)

素行調査官

「素行調査官」笹本稜平 光文社
キャリアで警備、監察の仕事をしているAは同級生を警察官にスカウトする。
監察の仕事をする警官は尾行が下手なので、民間のプロ(私立探偵)を採用することにする。
監察とは、警察官の服務規程違反を取り締まるのが仕事
単純な素行不良のほかに、大掛かりなキャリアの汚職の摘発がある。
正しくは、摘発ではない、明るみに出ないように密かに退職させることを目指している。
警察庁長官、警視総監、それが目前に迫っているナンバー3の犯罪を追っている。名前をBとする。
Bも反撃に出て、痕跡を隠そうとする。
おなじくナンバー3の位置にいるCも排斥の行動に出る。
もちろん、名前はありますよ、面倒だから、ABCで表記しただけです。
人物像とかキャラクターとか、そんなものはともかく、テレビゲーム、PCゲームのように局面が展開してしていくところがよろしいね。
ストーリーテリング、いやぁ、なかなかのものでした。

2009年4月10日 (金)

いかだ満月

「いかだ満月」山本一力 角川春樹事務所
「がってんだ」職人の言葉で親方や兄貴分への返事です。
山本ワールドでは、随所で「がってんだ」が飛び交います。
普通なら、山本一力の本なら飛びつくように読み終えてしまうものですが
今回は違った、てこずった、数週間かかりました。
鼠小僧と相棒を組んで、正業として材木屋を営んでいる新宮屋のあるじが主人公です。
熊野ヒノキを大問屋に売り込んで、熊野から江戸まで回漕することを請け負います。
同じ船に水戸の藩士が乗り合わせて、やはり、彼らも熊野ヒノキの買い付けをめざしています。
読み終えるのが数週間もかかったのは、鼠小僧の縁者だとばれそうになります。
主人公に感情移入しすぎて、ハラハラして読み続けられなくなるのですよ。
結末は、思いがけない解決方法で、そりゃそうだよなぁ、市力ワールドで悲劇の結末などないものね、必ず明るい結末に持って行くものね。
大筋で言えば、予定調和のお話しの運びなんです。
予定調和とはとても言えない最後の結末で、これはネタバラシしてはいけないでしょう。ここは黙っときます。

2009年3月20日 (金)

風は山河より

「風は山河より」宮城野昌光 新潮社
全部で5巻にも及ぶ長編小説です。
武田信玄が京へ長征する軍を、1ヶ月にも渡って4百人の手勢で城に篭もって食い止めた
その人物は、菅沼新八郎定盈
彼の業績を述べるまでに、千代、先々代の歴史から述べております。
当然、三河の徳川家の勃興が語られるわけで、家康の先代、先々代から説き起こしております。
あまりに長編で、3巻の巻末あたりで、桶狭間の合戦、今川義元が首を取られて、家康は今川から独立するわけです。
当時の名乗りは、松平次郎三郎元康、家康と名前を変え、徳川と家名を変えていくわけです。
地名、地の名前などは一つ一つ覚えられるわけもなく、読み流したまま、ページをめくっていきます。
5巻で武田信玄が遠征に出て、やっと馴染みの史実に出会えます。
ほとんど、郷土史からのお話しを読んでいるようなもので、かなり地味な作品です。
著者は、中国の作品から世に出ただけに、難しい漢語・難文字を駆使しています。
フリガナがあるから読めるのですよ。

2009年3月10日 (火)

弥勒の月

「弥勒の月」あさのあつこ 光文社
バッテリーのあさのあつこです。
バッテリーは気に入って全部読みましたが
このお話しは時代劇、八丁堀の捕り物帳です。
八丁堀同心の小暮信次郎と岡っ引き伊佐治は、同心が切れすぎるので、手下としては心が通い難い。
小間物屋の若いおかみさんが川に身投げして死んでしまいます。
身投げを見た履物屋の主人、橋のたもとでそばの屋台を開いていた主も殺されてしまいます。
小間物屋の若主人は婿養子で、なにやら過去があると同心は睨みます。
下手人は思わぬ筋道で現れますが、若主人の過去に縁があって、それが動機となっております。
児童小説の世界ならおなじみですが、時代劇でデビューするとは思わなかった。
あさのあつこ、これからの主戦場を変えるのでしょうか。

長生き競争!

「長生き競争!」星野伸一 小学館
住んでいた家が古くなったので、中古物件を買って引っ越してきた。
少年時代、父親の転勤で転々と引っ越したが、そこは小学校5年のころに住んでいたところだった。
コンビニでたまたま同級生にであった。
クラス会、毎年、数人で集まっているのだそうな。
クラス会においでよ。今年も近々あるからさ。
話しの流れで、だれが一番長生きするか、賭け金を集めて、最後まで生き残ったものが総取りすることにする、そんなことになった。
一口を440円、二口は4400円、三口は44000円、四口は44万円、五口は4百4十万円、六口は4千4百万円
一口上がるたび、金の単位が一桁繰り上がるのだ。
賛同者は6人、4人が4百4十万円、一人が4千4百万円、一人は貧しいので4万4千円。
小学校の同級生も70歳を越えると、ヒストリーさまざま、懐事情も様々、健康事情、これは似たり寄ったり、というところか。
ちょっと脇道の展開があって、二十歳の若い女の子が主人公に家にかくまわれることになる。
その子は、HIVに感染していて、長くは生きられないという診断なのだそうだ。
わたしも混ぜてください。賭け金は、4400円。
次々と死んでいく、若い女の子も死んでいく。
最後、二人が残って、主人公も肺癌で死んでいくことになる。
最後は、同級生で今はおばあちゃんが金を受け取ることになる。
年寄り、それぞれが死んでいく経過があるんですよ。
ひとが死ぬことについて、ひとりひとりを解剖しながら回顧しながら記録していくには、こんな方法もええもんですね。
ところで
わたしも50年ぶりの小学校のクラス会に出たことがあります。
このお話のようにすぐ溶け込める、そんなもんじゃなかったぞ。
同じクラスなのに、同時代を生きたとは思えない、経験がそれぞれ違うので、語り難いのなんの。
数年後の二度目のクラス会は出席を断りました。
気を使いながら、探り探り会話の糸口を掘り出して、なるべく無難な会話に終始する、そんな会合にはもう出たくない。

2009年2月27日 (金)

粗茶を一服

「粗茶を一服」山本一力 文芸春秋
損料屋喜八郎始末控え
損料屋とは、いまでいうレンタル屋ですね。貸し道具屋。
シリーズ三冊目、シリーズというのはお馴染みだから読みやすくてよろしい。
損料屋とは表の姿、裏では、札差の周辺で、サポートしたり、難問を解決しています。
というのも、もともとは奉行所の同心で、札差を取り締まる立場にいたからです。
この本では、喜三郎は主役ではない、札差の伊勢屋が主人公です。
数年前の棄捐令で札差に痛手を負わせてから、世間は不景気、札差はもう武士に追い貸しはしなくなりました。
打開するため、お上から救助米を施し、札差はもともと米が商売、儲けさせて、棄捐令の損失をカバーさせてやろうという政策です。
これを巡って、札差仲間の暗闘があり、陥れたり、仕掛けたり、伊勢屋がそれをはねかえす、こんなお話しです。
「粗茶を一服」この題名を解きほぐすと
伊勢屋が仕掛けた側の札差を茶席に招待して、茶席の献立で、宣戦布告する、暗示する、こんな意味合いです。

2009年2月25日 (水)

はじまりのうたをさがす旅

「はじまりのうたをさがす旅」川端裕人 文芸春秋
サブタイトルが、赤い風のソングライン
舞台はオーストラリア、そこでの道中記です。
遺産を分配するからオーストラリアへ来い、アボリジニのコミッティから招待状が届きます。
主人公は、歌を目指しているのだが、今は会社勤めで世過ぎをしています。
曽祖父が妻子を残したまま、オーストラリアに渡って、そっちでも妻子を大勢養っています。
孫の世代、ひ孫の世代には大勢の人数になっています。
遺産を相続するには条件があって、オーストラリアの砂漠を横断しなければならない。
同じ孫世代、ひ孫世代で、オーストラリア在住のシンガー、バリ島のストリートミュージシャン、アメリカの物理学者、同じ曽祖父の子孫が旅に同行したり、別れて別行動になったり。
曽祖父のこどもで、主人公たちと対立軸にあるものがいます。
曽祖父の威光を僭称して、族長としてふるまう。
アボリジニはオーストラリアから独立して、国家を建設する。
そのための武器として、原子炉を支配する。

基本的には道中記なんです。
サブタイトルのソングスライン、アボリジニは文字を持たない、歌に部族の歴史・伝承があるのです。
過去から今へのソングスラインという意味と、旅の道筋としてのソングスラインという意味と、両方の寓意です。

読みながら、ここはオーストラリアのどこ、今話題に出ている人物はだれ、訳が判らなくなることがあります。
著者は、オーストラリアのアボリジニの家庭に滞在した経験があるようです。
略歴を読むと、自分はミュージシャンだと規定しています。

本気で書いた本なんでしょうが、熱が伝わるには、なにか間に膜がある。
わたしが膜を作っているのか、著者が膜を突き抜け切れないのか、読み続けるのに苦労しました。

2009年2月13日 (金)

川の名前

「川の名前」川端裕人 早川書房
小学校5年生の世界のお話しです。
この世界のお話しなら、ゼッタイ嫌な結末にはならないだろうと踏んで、読み始めました。
夏休みの自由研究に川を探ることに決めた、怪物が川に住んでいるかもしれない。
川を歩いているうち、暗渠を通って、池にたどりついた。
そこには、ペンギンが棲みついていた。
卵を産んで、ひなは成長していく。
テレビ局に嗅ぎつけられて、24時間チャリティ生放送に、ペンギン捜索が組み込まれていく。
やらせ、しかけ、を得意とするディレクターからペンギンを護るために- - -

ハッピーエンドになるのですが、なかなか面白い。
5年生の主人公たちのキャラが、ゆるキャラ、きつめのキャラ、あといろいろ、優等生じゃないところ、優等生なところ、子供の世界もいろんな色があるのですね。

2009年2月 1日 (日)

夜のピクニック

「夜のピクニック」恩田陸 新潮文庫
今まで読んだ恩田陸作品は、お話しの筋立てが込み入っていて、入り組んでいて、そんな作品が多かったものです。
この「夜のピクニック」80キロの道を、朝8時に出発して、一昼夜歩いて、翌朝8時までに戻ってくる
きわめて単純明快なお話です。
こんな単純なお話なのに、高校生たちにすっかり感情移入してしまうのです。
異父きょうだいというのがあります。
男が浮気してよそで子供を生ませてしまう。
男は早く死んだけど、男の子と女の子は同じ高校の同級生になってしまう。
当然、どっちも平静ではいられません。
恨み言を言いたいような、かえってそんな自分の狭量さが情けないような。
一昼夜の行進で、理解しあえる、打ち解ける、そんな流れのお話です。

2009年1月29日 (木)

宇根山、自転車で登山

最初の予定では登る気はなかったのですよ。
道路標識につられて、頂上まで登ってしまいました。
ネットでは、宇根山に登りました、こんなお話しはほとんどありません。
登山対象の山ではないからです。
自転車で登りました。これなら、お話としてあげてもええでしょう。
山よりも麓の道、この道は行けるかどうか、勘を働かせて、当たった、どんぴしゃりの道を行った、というのが気持ちがええです。

http://sherpaland.net/bike/2009/bike-090128-uneym/bike-090128-uneym.htm

2009年1月24日 (土)

帰化日本人

「帰化日本人」黄文雄+呉善花+石平 李白社
サブタイトルが、帰化日本人だから解る日本人の美点・弱点
黄文雄(台湾出身、高雄県)、呉善花(韓国出身、済州島)、石平(中国出身、四川省)この三名の座談会です。

第1章 マスコミ
日・中・台のマスコミの特徴 活字メディアの台湾と映像メディアの韓国 台湾の政治記事で本当のことは1%しかない 中・韓・台マスコミのいうことはどこまで信じられるか 日本のマスメディアをどう見るか 日本のマスメディアに顕著な自己批判 日本のマスメディアを監督・指導している中国 お笑い番組が氾濫する日本のテレビを批判する 韓国の親日言論・親北言論の現状 金銭をもらって記事を書く中国・韓国のマスコミ
第2章 教育
日本とはこれだけ違う我々が受けた教育 台湾の近代教育、中国の反近代教育 中・韓・台の密告制度 国語、国文教育はこうだった 中・韓・台の歴史教育 日本語の禁止、日本文化の制限 日本の戦後教育への苦言
第3章 道徳
道徳教育は復活させるべきか 儒教倫理教育の大きな弊害 道徳の源泉にある宗教性と美意識 美は普遍性をもてるのか これこそ日・中・韓・台の土俗的宗教だ 日本をはじめ、それぞれの国がかかえる青少年問題
第4章 食事
食は香港・広東にありから台湾にありへ 中華・韓食・和食--風土から生まれた食文化 蓼食う虫も好き好きの郷土料理の自慢話 日本のラーメン文化は「道」の域に達している 稲作民の文化的な性格 和食は目で食べる?私の味わった和食 激辛の腕比べ 長寿国としての和食の世界的人気の真偽 これからの食文化はグローバル化かエスニック化か 朝食か夕食か
第5章
風習
私が誇る国自慢としての美風 伝統生活の崩壊で失われた心の拠りどころ 日本の祭・神仏・皇室の意義 「寅さん」「おしん」人気の秘密 日流・韓流・中国流 カラオケ、マンガ、アニメが世界性を獲得した理由 おもてなしと仏教 それぞれの義理・人情観 「日本大好き族」は台湾以外にも生まれるか? これだけは永遠に残したい日本の文化、風習
第6章 夢
なぜか儒教国家の若者だけがでっかい夢ばかりを育てる 今の日本にはユース・ビー・アンビシャスがない この道一筋何十年という日本人の夢 天下国家の夢なき日本 求められている精神的な豊かさの夢 自国を批判すれば売国奴になるのか

それぞれ出身生育歴は違っても、基準を日本において、そこからの尺度で語っています。
現地基準で語られて、あまりにかけ離れた妄想を語られて戸惑う、そんな事態にはなりません。
それぞれの誕生国の限界・欠陥が解っているので、発言に内容があります。
実は、このお三方、国籍を日本に変えたということを、この本を読んで始めて知りました。
それでこそ、最後の「自国を批判すれば売国奴になるのか」
この項目が深い意味を持つのです。

2009年1月23日 (金)

苛立つ中国

「苛立つ中国」富坂聰 文春文庫
第1章 膨張する半日エネルギー
反日のさまざまなサイン サッカー・アジアカップの夜 反日活動家への説得工作 警戒感を強める中国当局 いわく言い難い「苛立ち」 一触即発 反日問題の複雑化
第2章 西安の日本人狩り
西安大学の寸劇事件 恐怖体験の始まり 中国人が感じる「侮辱」 日本と欧米、ビジネス環境の違い 自殺する日本人ビジネスマン 歴史問題では説明できない
第3章 反日運動の「七勇士」
七人の不法入国者 反日組織リーダーとの会見 尖閣列島に眠るエネルギー資源 政府に認められていない組織 日本からも中国からも危険人物 同情されない広島・長崎
第4章 迷走する香港
「尖閣列島は中国領土である」 「日本の沖縄領有は非合法である」 「世論」という悪循環 香港メディアの反日キャンペーン 憂慮する台湾と中国政府 死者を出した航海 返還前のストレスのはけ口
第5章 靖国神社参拝の是非
靖国神社への訪問者 小泉首相の靖国参拝の裏側 張本人は中曽根元総理 中国にかけられた呪縛 A級戦犯の矛盾 日本の軍拡に寛大だった鄧小平 日中間に尽きない火種
第6章 中国人を味方にできない日本企業
恐るべき中国特需 経済が導く「反日」と「嫌中」 中国人民を悩ます将来不安 中国人を追い込む日本企業 政府が恐れる本当のもの 夥しい数の檄文 デモの変質 二つの「ねじれ」 台頭する中国の「世論」 「民主化」の波を受け入れよ 八万七千件の官民衝突 デモ隊との息詰まる攻防

フィクションをリライトするのは大変だが、ノンフィクションをリライトするのは簡単だ、目次を写せばええ。

この本を読むのにとっても苛立ちます。
何度も何度も本を置いて、苛立ちを鎮めないと、あるいは、時間を置かないと、読む進むことができません。
今後、日本と中国は融和しあえるか、どうでしょう。
中国の民衆は社会保障が未発達なので、将来への不安が絶えません。
貯蓄して備えていますが、どこまで貯蓄すればええのか限度が見えません。
日本から見ると、中国の民主化に希望を持ちたいところですが
民主化は中国共産党の否定につながるので
反日を抑えてくれるのは中国共産党です、中国共産党の抑えが無くなると、反日のエネルギーはどれだけ暴発するか予測もできません。
日本としては、民主化を望みながらも、共産党コントロール下での民主化、という矛盾したことを望むことになります。

2009年1月20日 (火)

中国てなもんや商社

「中国てなもんや商社」谷崎光 文春文庫
「北京大学てなもんや留学記」この本を台湾への飛行機のなかで読んでいて、うっかり座席に置き去りにしてしまいました。
半分程度まで読んでいて、残りが読みたいので、アマゾンに注文してお取り寄せしたものです。
送料を無料にするため、ついでに注文したのがこの本です。
ハードカバーで出版した当時、すでに読んでいました。
もう一度読み直しましたが、いやぁ、おもろい、パワフルな限りです。
天安門事件が挟まるころのお話しです。
天安門事件は1989年、そのころ、著者はルーキーから脱していましたから、その数年前から話しは始まります。
今でこそ、技術水準も上がっていますが、その当時はむちゃくちゃ、箸にも棒にもかからないところを、しのいでしのいで、奮闘努力しています。
技術水準が世界標準に達したか、と思えるのに、毒ギョウザ、メラミン牛乳が出てくる世界です。
このあと、著者は、物書きの職業から、北京大学へ留学、という遍歴を遂げていきます。
今はもう大学は終えましたが、そのまま、北京に留まっています。
谷崎光を再発見したのはネット
「谷崎光ブログ 中国てなもんや日記」
http://blog.goo.ne.jp/tanizakihikari
中国・北京に在住なのに、遠慮会釈無く中国をえぐっております。
中国ワールドにはまりこんだのが「中国てなもんや商社」、以来、中国から抜けることなく行き続けています。

2009年1月19日 (月)

イノセント・ゲリラの祝祭

「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊 宝島社
バチスタ以来の田口・白鳥コンビが登場しますが、今回は犯罪を暴くのではありません。
田口医師は厚生労働省の「医療事故調・創設検討会」に委員として招請されます。
厚労省官僚の白鳥の下工作によるものです。
医療事故の実態を極めようというものですが、白鳥・田口は遺体解剖に代えて、エーアイを導入しようともくろんでいます。
エーアイとはAi、オートプシー・イメージング(英語表記Autopsy imaging、略語Ai)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%B0
CTやMRIなどで解剖せずに事故原因を突き止めようというものです。
海堂尊は、小説と言うカタチでエーアイの普及を提唱しています。
「死因不明社会 Aiが拓く新しい医療」講談社ブルーバックスB-1578(新書)
小説ではなく解説書、この新書では、田口・白鳥コンビのはちゃめちゃな活躍ではなく、真面目な論理を展開しております。

2009年1月17日 (土)

駅神ふたたび

「駅神ふたたび」図子慧 早川書房
前に、駅神を読みましたが、評判がええのか、その続編です。
ヨンバンセンと呼ばれている老人がいます。
そのひとは駅の4番線ホームで易を立ててくれます。
料金は取りません、易で生計を立てているひとではないのです。
お話しは前と同様
ヨンバンセンに立ててもらった卦と易断を易占学院に持って帰り、四人のメンバーで解釈する
こんなお話しの運びです。
こんなお話しのどこが面白いのか
四人と易を立ててもらったひとの間には何の関係もありません
だから、切迫感がない、感情のもつれがない、どだい、ヨンバンセンさえ登場することがない
相続を誰に指名するか、家出の原因を除くにはどうすべきか、浮気しているかどうか
当事者が直に訴え始めると、そりゃもう、しっちゃかめっちゃかになります。
第三者が判断を下す、こんなスタイルがええのかおしれません。
当たるも八卦当たらぬも八卦
この場合、けと読みますよね。
卦(か)と易では読むのだそうです。

地火明夷〓上九。之卦 山火費〓
(〓とは仮に置いたもので、ほんとは、長短の積み木の六組の組み合わせ)

易や占に興味も関心もありませんが、ヨンバンセンのたったこれだけの易を、ああだこうだとそれぞれが解釈をほどこす
論戦が尽きたところで、ヨンバンセンの易断を開いて、四人の解釈と付き合わせる
こんな段取りです。

2009年1月16日 (金)

韓国に嫌われた私

「韓国に嫌われた私」金子恵美 アールズ出版
韓国の梨花女子大学に留学して、タレント活動をしていた著者です。
スポニチ新潟版に「金子恵美の韓国通信」というコラムを連載していました。
その内容が、翻訳され、ネットに公表されて酷いバッシングを受けました。
ネットでバッシングは燃え上がり、通常の新聞にまで取り上げられるようになりました。
どう収束したのかわかりませんが、結局、韓国でのタレント生命は消え、留学も一年で終えて帰国することになりました。
日本語ではたいしたことは書いてないのですが、翻訳すると、ゆがんでしまうのです。
国民性の違い、この差は大きいですね。

問題になったコラム
「洋服までどっぷりコリア」
日本に帰国する際、毎回必ず守っていることがあります。
それは帰国3日前からキムチやにんにくたっぷりの”韓国料理”は口にしないこと。
以前、成田に着いて家に帰るまでの電車の中で「何かニオウなぁ?」と思ったら、ニオイの元は韓国臭が染み付いた自分自身でショック!!
聞くところによると日本人の体質は、キムチなどのニオイが3日間位体内に留まって、皮膚からもニオイを放出するのだそうです。
それ以来気をつけていたものの、今回の帰国でまた次の課題が---
スタイリストを職業にしている姉から「変わった服装をしてるね」と辛口な指摘。
韓国人の独特なファッションセンス、色彩感覚に段々と感化され、いつの間にやら私も「韓国スタイル」になっていたようです。
韓国人のスーツ姿は「100%韓国人」と識別できるほど特徴的です。
8割かたストライプ柄のスーツで(笑)、それに合わせるネクタイがこれまた個性的。
強面のおじ様が、一見ドット柄と思いきや、よく見るとカワイイ熊やパンダが無数にプリントされたものを絞めていたり、さわやか系が「どちらの組のお方?」とお伺いしたくなるような白地にバラが刺繍されていたものをしていたり----
女性はといえば、若い子の間ではなぜかジャージ姿にキャップが圧倒的に人気です。
(韓国に旅行された方はお分かりですよね?)そして、そのカラーセンスは「黄緑Xピンク」や「オレンジX紫」というあわせ方で、私は首をかしげてしまいます。
でもそれを着こなすのだからたいしたものです。
それでも私は「日本人スタイル」貫きたい。
(2005年5月9日)

これがスポニチ紙面に載ったコラム、改行はわたしが加えました。

軽い観察で、ひょうきんな比較をしたに過ぎませんが
韓国語に翻訳されて、一点だけをハイライト浴びせられたら、そりゃぁ持ちません。

2009年1月 9日 (金)

駅神

「駅神」図子慧 早川書房
駅のプラットホームで無料で占ってくれるおじいさんがいます。
雨の日にしか占ってくれない。なかなか出会えないひとなのです。
そのひとのあだ名がヨンバンセン、いつも四番線プラットホームにいるからです。
登場人物はアルバイトの大学生、占ってもらったんだが、意味不明で持て余しています。
たまたま、易占学院の美人学院長が意味を解釈してあげよう、ただし、勉強仲間がいるのよ、解釈をそれぞれする、それでかまわないよね。
プロの易者。退職した大学教授、易占を勉強中。女子プロレスの現役、易占を勉強中。肩書きは学院長だが、亭主が死んだから職を引き継いだわけ、わたしも勉強中。
〓長短の棒が六本重なった易占の姿がありますよね、そのカタチをしめす
これを見て、乾為天、坤為地、水雷屯、などと卦を立てる
これに、それぞれが解釈を加え
最後に、ヨンバンセンの易の結果を聞いて、それぞれの解釈が当たっているか外れているか、引き比べる

父は生きていますか
幽霊に恋したけど、この恋は実りますか
犯人はみつかりますか

なかなか面白い。
ちゃんと希望の持てる方向に開けていくんです、絶望や失望には話しのオチを持っていかない。そういうのがええのです。

2009年1月 2日 (金)

異端の大義

「異端の大義」楡周平 毎日新聞社
小説の題名と内容と、ちょっとそぐわないような気がしますが、それはともかく
外国暮らしの長いサラリーマンが、工場閉鎖の人員整理を命じられ、次に、業績不振の子会社の営業部長を命じられ
ついに、ヘッドハンティングの会社に登録を申請するようになる。
同期のよしみで、同族会社の身内で常務人事本部長に行状を身奇麗にするようにたしなめて、怒りを買って、左遷から左遷へと動かされていったのだ。
アメリカ在住のころの縁で、外資企業に転職して、もとの会社を買収して改革に乗り出す、大雑把なストーリーはこういうこと。
楡周平は作家になる以前、外資企業に勤務した経験があるということだが
工場閉鎖、人員整理の経験があるのだろうか、ディテールまで書き込まれていて、きわめて臨場的で説得力があります。
上下巻の大部なのだが、読みやすい。
経済小説を読んでいると、切なくなってもうこれ以上読み続けられない、と読むのを放棄してしまうのもあるが
あざとさを抑えて、主人公の心情正義を真っ直ぐ掲げているところがええのです。

2008年12月25日 (木)

始末屋清七 縁かいな

「始末屋清七 縁かいな」樋口修吉 徳間書店
始末屋とはどんな商売かというと、ま、トラブルコンサルタントみたいなもんです。
ひと探しをしたり、もめごとをなだめたりまとめたり、そんな仕事です。
時代は明治37年、明治もだいぶ更けてきている時代です。
時代は明治でも、心情は江戸のころとまったく変わっちゃいません。
鉄道馬車があったり、渡し舟が蒸気船だったり、まだ陸蒸気が走る前の時代だから、のんびりとした風情でいられるのでしょうね。
お話しのひとつひとつはどうってことはありません。
江戸落語の人情話、これと似たようなお話しが連なります。
長屋があって、長屋話しがあって、居酒屋でくつろいだりあばれたり、しています。
商家のご隠居のごひいきがあって、始末屋の仕事をつないでもらえます。
せっぱつまったところは全然無い、そんなゆるぅいお話しです。
作家の樋口修吉がこの先人気が出るかって?
地味だもの、沸き立つ人気は出ませんよ、じわーっと一部のファンの支持を得るに留まるでしょうね。

2008年12月23日 (火)

ブルー・ローズ

「ブルー・ローズ」駆星周 中央公論新社
お話しの始まりは、警察庁のトップから、嫁に行っている娘を探してほしい、という依頼があった。
退職警察官で、法律事務所の調査をするのが仕事なのだ。
調べ始めると、主婦売春の仲間らしいと解ってくる。
依頼者は刑事警察のトップ、対立すのは公安警察のトップ、どちらかが警察庁長官の座に着くと対立・競争している。
主婦売春と穏当な表現より、SM倶楽部といったほうが当たっているのかね。
なにしろ、連載紙が東京スポーツなので、その気じゅうぶんで、いやらしく、汚く、救いがない。
何人殺して、巻き添えで何人死んでいくんだろうね。
警察官僚のトップ争いも絡まって、命令で繰り出された警官が大勢死んでいく。
たいがい、主人公には感情移入して、後押しする気になるもんだが、全然同情しようもないね。
上下巻の長いお話しなのだが、読み終わって、暗澹として、後味が悪い、悪い。
小道具として、ニフティサーブのパソコン通信が出てくるんですよ。
東京スポーツへの連載が、平成16年から17年にかけて
平成12年(2000年)には、パソコン通信は下火になっていた。
その数年前まではインターネットがまだ世間には広まっていなかったんですよ。
一挙に通信の世界が変わっていったのですよ、小説の小道具に使うにはちょっと道具の使い方が古いなぁ。

2008年12月20日 (土)

平台がおまちかね

「平台がおまちかね」大崎梢 東京創元社
わたしの大崎梢遍歴は「片耳うさぎ」「サイン会はいかが? -成風堂書店事件メモ-」「夏のくじら」の順番です。
デビューは本屋の女店員が事件を解決する成風堂書店事件メモ
「平台がおまちかね」はそこからスピンアウトして
出版社の営業がシャーロック・ホームズとなるお話です。
ただし、殺しも盗みも出てはきません。
○平台がおまちかね
○マドンナの憂鬱な棚
○贈呈式で会いましょう
○絵本の神さま
○ときめきポップスター
最初のは、書店主の本に対する思い入れ
二番目は、女店員が突然やる気を失い、出版社各社の営業が失意の原因を探るお話し
三番目、大賞の贈呈式に受賞者が出て来ない、行方不明に、なんで、どうして
四番目、地方の書店が店を閉じた。絵本のコーナーにちからを入れていたのに
五番目、文庫本のコーナーで、各社営業が別の会社のオススメの本を選定してポップ(宣伝文句)を書く
売れ行き一番を推薦した会社は、翌月の平台全部を獲得する。
文庫本の並び方にちょっとした異常が出る、その異常を探ると

おもろい。
客として本屋に入ると、出版社の営業が売り込みリサーチに来ているのが見えています。
へぇぇ、かれらはそんな仕事をしていたのかい。
本棚の占拠をめぐっての出版社の角逐ですが、これはスーパーなどでも棚を奪うか奪われるかは同じです。
ただし
本には値引きがない。そこがスーパーやコンビニと違うところ。
なかなかに面白い世界でした。

ラブコメ今昔

「ラブコメ今昔」有川浩 角川書店
ご存知、図書館戦争シリーズの有川浩です。
彼女の自衛隊ものは、「塩の街」「クジラの彼」しか読んでいないのです。もっともっと読みたいところです。
つべこべ言うより、カバーの袖裏に、紹介があります。
手っ取り早くコピーしてしまおう。
○ラブコメ今昔
突っ走り系広報自衛官の女子が鬼の上官に情報開示を迫るのは、「奥様とのナレソメ」
双方一歩もひかない攻防戦の行方は?
○軍事とオタクと彼
出張中新幹線の中で釣り上げた、超かわいい年下の彼は自衛官。
遠距離も恋する二人にはトキメキの促進剤。けれど、、、
○広報官、走る
「広報官には女たらしが向いている」と言われつつも彼女のいない政屋一尉が、仕事先で出会ったいい感じの女の子。
だが現場はトラブル続きで、、、
○青い衝撃
旦那がかっこいいのはいいことだ。旦那がもてるのもまあまあ赦せる。
しかし今度ばかりは洒落にならない事態が。
○秘め事
よりによって上官の愛娘と恋に落ちてしまった彼。
彼女への思いは真剣なのに、最後の一歩が踏み出せない。
○ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ篇
「ラブコメ今昔」では攻めに回った元気自衛官、千尋ちゃんも自分の恋はいっこうにままならず、、、

そう、短編集なんです。
角川書店の雑誌、野生時代に飛び飛び連載したものです。
自衛隊のお話しでも、出てくるのはみんな若者です。
自衛官だって、恋もすれば愛も語るよ。
最初の作品からユニークなセリフを抜き出してみましょうか。
-------
「それでは後は若い人同士で」
その合図で仲人の上官夫妻も彼女の親たちも腰を上げて部屋を出ていった。
ああ、本当にその台詞は言うのか。テレビドラマなどでよく聞く台詞だが、本当に聞いたのは初めてである。
-------
そもそも戦闘糧食の中に沢庵があるということを何故この娘が知っているのか。
「父が一度、自衛隊の非常食にも沢庵がある、と持って帰ってきたことがありまして。缶の中に縦に切った沢庵がぎっしり詰まっていたのがたいへん衝撃的でした。私や母の常識の中には存在しない切り方でしたので」
-------
なかなかユニークな語り口で、有川浩の作品で、自衛隊へのしこり・こだわりが溶けていってしまっています。

かっては、わたしも護憲派、9条擁護派でしたが、今は、すっかり転びました。改憲派です。
いろんなことを総合して、考え方が違ってきたのですが
理論・分析の理性ばっかりじゃなく、有川浩の感覚が大きく後押ししたのは間違いありません。

2008年12月13日 (土)

ギフト

「ギフト」日明恩 双葉社
日明恩とは、たちもりめぐみ、と読みます。性別は女性。
ずいぶんと寡作なひとで、警官ものの「それでも、警官は微笑う」「そして、警官は奔る」消防署員ものの「鎮火報」「埋み火」これ以外の作品を見たことがありません。
警官ものといい、消防ものといい、制服にかかわるストーリーはなんと面白いことなんでしょうね。
これは、その警官ものの、スピンアウトしたような作品です。

今は、レンタルビデオ店でパート勤務していますが、もとは警官、容疑者を過剰に追いかけて、交通事故で死なせた過去を持っています。
中学生と知り合いましたが、その子は死者が見えるのです。
彼の体に触れると、男にも死者が見えてきます。
手を離せば、見えない。
最初は、オカルトものかい、幽霊ものかい、他愛もないお話しだ、と思っていましたが、意外にも、引き込まれてしまいました。
男と中学生は、いわば、狂言回し、主役は死者のほうにあります。
○交通事故で脳漿がこぼれて手足がぶらぶらの老女が見える。
どうして交通事故にあったのか。
その事情経過が遺族に伝わって、老女はやっとあの世へ行く。
○男の足許に虐待されて息も絶え絶えの犬が見える。中学生には見える。
男はいっぺんは犬を連れて散歩したかったなぁ。
その思いに引き寄せられて、犬が男のところに現れたのだ。
○少女が現れるのだが、児童ポルノ、もっとひどい話なのでこれ以上書きたくない。
少女がこの世に残した思いは解消されて、あの世へ渡っていきます。
○うそつき女、この女の場合、自分にまでうそをついて、うそで固めているので、どこまでも未明をさまよっています、あの世へは行けない。
○男が容疑者として追いかけた少年が現れる。
追いかけられて自動車にはねられるのを、エンドレスにいつまでも繰り返している。
これも明るい解決があります。
題名の「ギフト」はどういう意味なのか。よくわからない。
最初は、興味ももひとつだなと投げやりに読み始めました。
なかなか、ひとの真実の裏側が見える、そういうお話で、引き込まれました。

新三河物語

「新三河物語」宮城谷昌光 新潮社
大久保彦左衛門の著述に三河物語がありますが、その本を底にして書いたものです。
大久保彦左衛門は一心太助とコンビということで、頑固もの、ひょうきんもの、そんなイメージがありますが、どうもそれとは違うらしい。
基本は、大久保家の氏の興隆、いっぱい大久保家のひとびとが出てくるのですよ。
巻頭の氏系図を見ながらでないと、いま話しに出ている大久保なにがしは誰のこと?しょっちゅう、巻頭の系図を見なきゃわけが判りません。

上巻、桶狭間で今川義元が死んで、ここから松平家、徳川家の国づくりが始まります。
中身はあらかた一向一揆、いかに一揆を鎮めて三河武士をまとめたか、ということ。

中巻、武田信玄との戦い、織田信長が本能寺で死ぬところまで。
信玄との戦で、三河遠江の小さな城をやった取ったというお話しで、あまりにローカルすぎて、巻頭の地図を何度も眺めながら読み進めていきます。

下巻、前半は、武田滅亡後、信濃の攻略、ここもローカルだよぉ。
後半は、大久保家の衰微。
家康の長男、信康が織田信長の命令で切腹させられます。
大久保何々が信長に呼びつけられて、信康の行状を詰問されますが、抗弁しようもありません。
上巻、中巻では、大久保家を重用して戦で大いに働きますが、家康は、息子を見殺しにした大久保一族を許さなかった。
家康晩年になって、恨みを晴らした、仕返しをした、こういうことのようです。
大久保一族で、身を全うしたのは大久保彦左衛門だけ、信康が切腹するとき、身の世話をしたことで、ひとり免れたようです。

大久保彦左衛門、講談や伝説では武のひとですが、書物を読み、生き方の指針を漢書や曽我物語に求め、剛直なひとだと書いております。
そういやそうだ、三河物語の著述を書き残したのだもの、単純な武のひとであるわけがない。

宮城谷昌光て、苦手だったのですよ。
漢や唐などの中国の武将のお話しが多い。
漢字がいっぱいで、みてくれは、ページ全体が真っ黒、読みにくいだろうな、と思っていましたが
あんがい、読めるもんです、ついていけるもんです。
晦渋、難渋な文章ではありますが、面白く読めました。

2008年12月 7日 (日)

小説会計監査

「小説会計監査」細野康弘 東洋経済新報社
小説と銘打ってはありますが、ケーススタディ、理論研究のようなもので、論証をはぶいて読みやすくしてあります。
税理士が脱税に関与しても、罰則はあるんでしょうか。
行政罰はあっても、裁判で刑事罰があるとは聞いたことがありません。
公認会計士は、有価証券報告書の作成に関与するわけで、ミスリードした場合は、刑法上の罪に問われることになります。
第1章 ムトーボウ事件
第2章 ABC銀行消滅
第3章 大日本郵便公社民営化
第3章 月光証券会計不正スキャンダル
ムトーボウとはカネボウを指し、ABC銀行とはUFJ銀行、郵便公社とは即ちあれだし、月光証券とは日興証券を指す。
金融庁の指揮監督は会計基準を無視したもので、国家権力で恣意に基準を曲げている、と指摘している。経験を語っている。
ここでの監査法人はセントラル監査法人となっているが、中央青山監査法人が実在する。
日本の旧来からの会計基準が国際化して、アメリカの基準に飲み込まれていく経過がよくわかる。
会計基準をアメリカ化したのは、小泉・竹中の私利私欲のためだと言っているが、それはどうだろうか。
著者は、中央青山監査法人のトップにまで登り詰めたひとだが、内容を全部信用することなく、批判的に読むことをお勧めします。

2008年12月 6日 (土)

ひかりの剣

「ひかりの剣」海堂尊 文芸春秋
チームバチスタ以来の医者が主役の小説のシリーズを知ってますか。
田口・白鳥のコンビが活躍しますが、この作品「ひかりの剣」では、田口はほんのちょろっとだけ登場します。
速水が主役ですが、速見とは馴染みがないなぁ。
そうでした、「ジェネラル・ルージュの凱旋」に出てくるのですが、これはまだわたしは読んでいないのだ。

医鷲旗の覇権を争って、大学医学部での剣道のお話です。
桜宮・東城大学の主将速見と東京・帝華大学の主将清川が対抗するお話しです。
なかなか清々しい青春小説、スポーツ小説で、気持ちよく読み進んでいけます。

剣道部顧問の高階は大学に赴任したばかりですが、チームバチスタでは、院長として姿をあらわしています。
医学生のころ、病院医のころ、時代があっちこっちしますので戸惑いますが、こんなのがあります。
「海堂尊著作集・人物相関図 @wiki - 登場人物」
http://www42.atwiki.jp/teambatista/pages/17.html
このURLは、田口の略歴ですが、クリックすると、速見、高階の略歴もわかります。

2008年12月 5日 (金)

北京大学てなもんや留学記

「北京大学てなもんや留学記」谷崎光 文春文庫
台湾への飛行機のなかで読んでいて、うっかり座席に置き去りにしてしまいました。
半分程度まで読んでいて、残りが読みたいので、アマゾンに注文してお取り寄せしたものです。
谷崎光を再発見したのはネット
「谷崎光ブログ 中国てなもんや日記」
http://blog.goo.ne.jp/tanizakihikari
中国・北京に在住なのに、遠慮会釈無く中国をえぐっております。
まぁ、愛情あればこその辛口なのでしょうが、公安当局から逮捕監禁されはしないかと心配しています。
もともとは、ざっと20年前、「中国てなもんや商社」と言う本で作者を発見しました。
理念やお題目ではなく、アパレル業界にいて、中国人と接して、ドタバタを書いてあって、ほんまの日中とはこんなもんだろうな、と感じたものでした。
あれから20年
谷崎光は物書き稼業、コンサルタント稼業に入って、日中間を渡って歩いていました。
あらためて中国に留学して、3年の中国留学です。
その時期は、小泉内閣のころと重なっています。
ほんのこの前のことじゃないか。
靖国参拝とか、サーズ(鳥インフルエンザ)の問題とか、これは渡り合うネタには困らないね。
学生一般と、ざっと20歳の年齢差があります。
この経験値があるから、かの地で渡り合っていけたのでしょうね。
現在もなお、北京在住で、文筆業、コンサルタント業にいそしんでいます。
そうそう
雑誌プレジデントのネット版に、月2回の連載もあります。
今の中国をあからさまに描いております。
連載初めからの記事が読めますからオススメです。
http://www.president.co.jp/pre/

2008年11月30日 (日)

ベイジン

「ベイジン」真山仁 東洋経済新報社
ハゲタカで世に出た真山仁です。
NHKがテレビドラマにする前に先に見つけて本を読んだのが自慢です。
北京オリンピックの開催に向けて、大連郊外に巨大な原子力発電所を建設します。
その建設にあたって
技術顧問として赴任した日本人技術者と、党から建設をサポートするように命じられた中国共産党中級官僚のお話です。
ふたりは、反発したり、心を通わせたり、こんなことで、普通なら、党官僚に感情移入することもないはずなのに、共感して応援してしまいます。
原発建設をサポートするだけではなく、大連市長や地方財閥の汚職癒着をあばく、こんなことも指令のうちに入っています。
どれだけ統制し、訓練をしても、原発の技術にはまだまだ及びません。
フル運転で稼動を始めてすぐ、原発はブラックアウトしてしまいます。
メルトダウンにまで至るのか、その手前で筆を止めています。
希望について、何度も触れているので、最悪の事態からは脱却できるのだろうと思うのですが

上下巻の大部の小説ですが、面白く一気に読めてしまいました。
これはテレビドラマにはならないでしょう。
原発の工事現場、完成過程のセットを組まなくてはならないので、費用がかかりすぎてドラマ化は無理です。

2008年11月24日 (月)

噺まみれ三楽亭仙朝

「噺まみれ三楽亭仙朝」和田はつ子 小学館
時代はいつとは明らかにしていませんが
奉行所の同心が出てくるので、江戸時代のことです。
三楽亭仙朝と弟子の三楽亭小仙治がコンビで出てきます。
話しの展開は、盗賊の一味、鬼百合、この一味が仕掛けを失敗して次々と死んでいきます。
いや、ええんです、鬼百合は話しの接ぎ穂、たいしたことじゃありません。
仙朝と弟子の小仙治、亡くなった仙朝の師匠の遊仙とのやりとり、兄弟弟子の遊太との関係など、寄席の芸人の日常が伝わってくればそれでええのです。
明治になって、三遊亭円朝が有名になってきました。
あぁ、これは、円朝を頭に置いて、仙朝を書いているな。
円朝は知りませんが、若い頃の円朝はこんなふうだったのだろうな、と目の前に浮かんできます。

2008年11月21日 (金)

いのちのパレード

「いのちのパレード」恩田陸 実業之日本社
短編集なんですがね、ちょっと参りました。
長編一本なら、その世界は限定されているわけです。
短編集ですと、ひとつ読み終えて、次のを読み始めるまでに気分転換が必要です。
この作業をしなければならない。
「怪奇と幻想」これを主眼に集めた作品集のようです。
二本目、三本目まではなんとか一緒に進みました。
ギブアップ、なんぼ恩田陸が好きでも、ちょっと食傷しました。
あと半分ありますが、ここで放棄します。
となり町戦争で名高い三崎亜記がいます。
短編集を読んで、へとへとになりながらページを最後まで追ったのを思い出します。

2008年11月18日 (火)

三次市、南の半分 その2

自転車で走り回って、合併後の三次市の北の半分、南の半分
北の半分は回ったが、南の半分はその半分しか回れていません。
その残りの半分を走ってきました。

http://sherpaland.net/bike/2008/bike-081117-mys_e/bike-081117-mys_e.htm

2008年11月17日 (月)

夏のくじら

「夏のくじら」大崎梢 文芸春秋
大崎梢て、片耳うさぎの印象が強い。
成風堂書店事件メモのシリーズでのミステリー作家と世間は見ていますがね。
中学生のころ、篤史はよさこい祭りで踊ることになった。
父母と一緒に東京に住んでいるが、夏休みにはじいちゃんばあちゃんのもとで過ごすのが通例になっている。
よさこい祭りで、強く印象に残るおねえさんに出会った。
大学受験で、高知大学に受かって高知に来た。じいちゃんばあちゃんの家に住むことになる。
いとこの多郎に強くすすめられて、鯨江町のよさこいくじら組に参加することになる。
一緒にやってみようという気になったのは、中学生のとき祭りの最中に不意に姿を消したおねえさんを探そうと思ったからだ。
8月の祭りにむかって練り上げて稽古を積んでいきます。
代表のキャラクターも豪快で素敵だし、サブ代表が裏方をしっかり掌握して、スケジュールの進行を追っているのも素晴らしい。
何よりキャラが立っているのが、踊りをコーチするカジ、不幸な生い立ちなのだが、その不幸がキャラに辛味を効かせている。
祭り本番の当日、そりゃもう血沸き肉踊る祭りの興奮ですよ。
よさこいとはこんな風に運営されているのかい。
踊り手はこんな風に楽しみ、見物人は見巧者で楽しんでいる。
当然、探していた女性は見つかります。
劇的に見つかります。

青春小説なんです。恋愛小説ではない。
どの人物も、真っ直ぐ真っ直ぐな人物で、いやらしいものがない。
目を背けることなく素直に読んでいけるお話で、ぜったいお奨めです。

プラチナタウン

「プラチナタウン」楡周平 祥伝社
大手の総合商社に勤める主人公は、上司の機嫌を損ねてしまいます。
部長職を解かれて、子会社に行くしか道はなくなります。
ちょうどそのとき、小学校からの同級生が訪ねてきます。
町長になってくれんかい。
今の町長が放漫で、不必要な投資を繰り返し、財政再建団体寸前の状態になっているというのです。
同級生は町役場に勤めているのです。
話しを端折ると、結局、町長に立候補し、無投票で就任します。
町長についてみると、聞いた以上に財政は危うい、財源もままならない。
ここからは一気にビジネス小説の展開となります。
工場誘致にと、造成した空閑地が3万坪ほど寝ています。
20年以上にわたって寝たままです。
ここへ老人健保施設を誘致しよう、土地は無償で提供しよう。
足腰が丈夫なうちは通常の生活を過ごしてもらおう。
寝付いたり、具合がわるくなったら、介護の手を差し出そう。
在職していた総合商社に話しを持ち込んで、興味をもたれた。
一挙に進展して
-------
「ということはマックス7450人もの入居者になる可能性があるということですね」
「理論的にはそうなります」
「これだけの施設を建設しても、土地はまだ埋まりませんね」
「勤務者の居住施設を整えなければならないでしょ。今回建設する施設は介護付有料老人ホームなんです。これには厳密に基準が決められていますからね」
「確か、生活相談員、介護・看護職員、機能訓練指導員、計画作成担当者、管理者を置かなければならなかったんでしたよね」
「生活相談員は常勤一人以上で、利用者に対する割合は百対一ですから、最大七十五人。看護・介護職員は、要介護利用者三人に対して一人ですから、三百五十人。看護職は五十人以上の施設で一人プラス利用者に対して五十対一ですから百五十人。機能訓練指導員は一人以上ですが、これほどの規模なら最低二十人はいるでしょう。計画作成担当者は百対一ですから七十五人。管理者は事務も含めてやはり二十人はいります。これを総計すると六百九十人」
-------
利用者とサポーターを合わせて八千人以上の人口が膨らんで、小学校中学校でクラスを増やさねばなななくなる、町の商店の売り上げは増える、ええことばっかりです。

「Cの福音」でのあの悪い悪い朝倉恭介はどこへ行ったのやら。
国際サスペンスで売り出したのじゃなかったのかしら。
がらっと変わった作風で、ハッピーハッピーな将来明るいお話ですが、こういうの、好きですよ。
みじめで絶望的なお話しを拡げてくれても困ります。
このように明るい未来がある、と歌い上げてくれるものがあると、安心できます。

2008年11月16日 (日)

For You

「For You」五十嵐貴久 祥伝社
映画雑誌の女性の編集者で、駆け出しからちょっとは任せてもらえるほどにはなった。
韓流スターのインタビューを任されて、準備に切り切り舞いしているとき、おばさんが亡くなった。
おばさんの青春時代のお話しが挟み込まれます。
このおばさんの高校生の時代のお話しがええんだ。
感覚的には、わたしと同世代の高校生活を送ったものと思えます。
すっかり感情移入してしまうし、サブのヒロインと思いきや、本当のヒロインはこのおばさんではなかろうか。
学園祭のお話し、受験を絞り込んでいくお話し、同級生との他愛のないお話し
どれもこれもわたしと重なる思い出で、わたしにとっても甘美な思い出です。
ネタばれになるので、多くを語りませんが、最後に、ヒロインとサブのヒロインとの関係が明らかになります。

五十嵐貴久は、「交渉人」「TJV」などのサスペンスもの、「安政五年の大脱走」「相棒」などの時代もの
この「For You」も、サスペンスものだろうと読み始めて、あれれ、傾向が今までとまったく違うじゃないか。
ジャンル分けすると、恋愛もの純愛ものになるのだろうな。
そんなジャンルのお話しなのに、夢中で読み続けてしまいました。

2008年11月15日 (土)

エンド・ゲーム

「エンド・ゲーム常野物語」恩田陸 集英社
蒲公英草紙常野物語が前作にあります。
主人公は継承しては居ませんが、不思議なちからを持つ常野(とこの)一族のお話しです。
裏返したり、裏返されたり、包んだり、洗濯したり
不思議なちからを持つグループと対抗するグループがいます。
裏返されると、記憶を失い、別の人格に変わってしまいます。
ひとをまるごと包むと、生きたまま保管するのが簡単
洗濯するちからを持つひともいます。
恩田陸の作品は、重層的で話しと話しが入り組んでわけわからないままページをめくることが多いですが
この常野物語のシリーズはそれほど込み入ったお話ではない
そんなお話しです。

2008年11月 9日 (日)

忍びの国

「忍びの国」和田竜 新潮社
「のぼうの城」で新発見した和田竜の作品です。
伊勢の北畠家に養子入りした織田信雄、北畠の一家親族を皆殺しして、北畠信雄と名乗ります。
これは、伊賀と北畠信雄の戦いのお話です。
伊賀の忍者の組織は、こんなものなんだそうです。
十二家評定衆がそれぞれの一家を統率する。
下人は親方の意のままに動く、奴隷の身分です。
それは建前、戦が負け戦になればその限りにあらず、統制から離脱します。
伊賀と織田家の戦いなのだが、親方と下人の戦いでもある、このあたりの戦のありかたは面白いねぇ。
伊賀と北畠信雄の戦いは伊賀の勝利、このままではすみませんよね。
織田信長の怒涛の進撃で伊賀の忍者組織は木端微塵になってしまいます。
終章で、どっちが主人公なのかよくわからない、下人同士の一騎打ちがあるのですが、どっちが勝ったのか、そこまでは書かずに打ち切りにしてあります。
次作で、この続編が登場するのかしら。

2008年11月 6日 (木)

蒲公英草紙 常野物語

「蒲公英草紙 常野物語」恩田陸 集英社
時代は日清戦争が過ぎて、日露戦争が迫るころのお話しです。
時代を色を出すためか、ひとびとをじゅうぶんに紹介するためか
お話しが動き出すのは三分の一ぐらい過ぎてからです。
お屋敷に親子四人が泊まりにきます。
常野(とこの)のひと、このひとたちは先に起きることが読めるし、「しまう」こと、「ひびく」ことが出来るのです。
どうやら、ひとびとの一生を感じ取ること、場合によっては、それを自在に展開すること、どうやらそういうことのようです。
最初は、野のひと放浪の民のことを語っているのだろうと思っていましたが、違うのかもしれない。
見て触ってはいるが、実在しないひとびとなのかもしれない。
われわれの断片が集まった仮の姿なのかもしれない。
草紙、物語、とあるように、地の文はゆったりした語りの口調なんです。
現代ではない、明治の頃を設定したのは話の舞台としてええ時期かもしれないなぁ。
恩田陸の作品としては、珍しく単層的で、離しを複雑にしていません。

2008年11月 3日 (月)

ユージニア

「ユージニア」恩田陸 角川書店
時代背景に触れておきますね。
戦後、帝銀事件というのがありました。
同様な大量毒殺事件に名張毒ぶどう酒事件がありました。
設定を北陸の都市に変えて、このお話しは始まっています。
腕がよく人柄もよい医者がいます。
当主の還暦の祝い、おばあちゃんの喜寿の祝いで、親戚近所がやってきて、にぎやかにごったかえしています。
そこへ、酒屋の配達が来て、お祝いのお届け物、この酒ジュースを飲んだものは毒にやられて大勢の死者がでます。
黒澤明の羅生門、生きる、それぞれの立場で映像が展開して、へぇぇ、真実はどこにあるんだろうね、と混乱する作品です。
インタビューだったり、モノローグだったり、ひとり語りで次々に人物が入れ替わっていきます。
犯人と思える人物は遺書を残して自殺しています。
その当時、近所のこどもだったのが、今は女子大学生で、インタビューし、問いただしたことが本になっています。
その当時のインタビューの当事者は彼女であるのは当然です。
さらに年月が経過して、もう何十年も後のことですが、狂言回しがだれだか知らないが、まだまだインタビュー、モノローグは続きます。
犯人はだれだったんでしょうね。
犯人は犯行をつぶやきますが、動機がちょっと理解しがたい。
えらく重層的なお話しなんですよ。
語り口は滑らかなんですが、必死にしがみついていかないと、お話しの展開から置き去りにされそうで、読みにくいお話しといってもええでしょうね。

2008年10月30日 (木)

ネクロポリス

「ネクロポリス」恩田陸 朝日新聞社
PCゲームのストーリーを見ているような、あるいは、ハリー・ポッターと似たようなお話しを読んでるような
現実感のないとらえないどころがお話しです。
時代は、現代なのか、未来のことなのか、死者が通う道筋にアナザー・ヒルはあります。
ここは海のなかの島で、ヒガンの時期に亡くなった肉親に会いにひとびとが集まってきます。
読み始めには、あまりにとらえどころがないので、醒めた目で読んでいました。
だんだんと、虚構の世界に浸っていき、面白くて、ページを閉じるのが惜しくなってきます。
ダイジェストし難いお話しだし、登場人物と共感できるほどの共通点はない
それでも面白くてたまらないのは、ストーリーを操る作者のちからなんでしょうね。

2008年10月23日 (木)

自転車の本 2冊

「自転車のある生活を楽しむ」 技術評論社
サブタイトルに
「定年前から始める男の自由時間」
「いつかはセンチュリーライドを走りたい」
写真がいっぱいの、ぺらっぺらっぺらっとページをめくって眺める本です。
センチュリーライドとは、ホノルルセンチュリーライド
100マイル=160キロ、へぇぇ、そんな単位があるのかい。

「大人のための自転車入門」 日本経済新聞社
50kmなら、時速10キロで走れば5時間、スポーツサイクルなら時速20キロは無理のないスピードで、これなら2時間半
アメリカでは、センチュリーライドで100マイル=160キロ、一日にこれだけ走れたら一人前のサイクリスト
日本に置き換えるなら100キロを大きな区切りにしてもよいと思う。

2冊とも、拾い読み、めくり読みにしましたが
中国4県の県境を一回りして97キロは走ったことがあります。
あれは、峠越え峠越えの連続で息も絶え絶えだった。
ふぅむ、100キロ目標、可能なら160キロが目標なのか。
日本で平地で160キロ、そんな平地はありはしない、北海道で十勝地方にでも行かなきゃムリ
100キロでも、海岸を行けば信号でつかえるし、信号のない山岳を行くと峠でこたえる
なるほどねぇ、と感じるものがありました。

2008年10月17日 (金)

クライマーズ・ハイ

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫 文芸春秋
日航機は御巣鷹山に墜落した事件、群馬の新聞社に勤める主人公はその事件を追って、事件デスクとして指揮します。
一方、17年後、事件の日、一緒に登るはずだった友人の息子と谷川岳・衝立岩に登ります。
日航機の事件のいきさつはよくわかります。
地方新聞社で、あちこちで横槍が入って、計算とねたみをかいくぐって避けていくのはよくわかります。
妥協に妥協を重ね、ずるずる下がっていくのは歯がゆい。
歯がゆくて本を閉じて、しばらく読み続けるのを止めたのも何度かあります。
クライマーズ・ハイ、事件を追うことも、岩を登ることの同じこと、まぁ、そういうテーマなんでしょうが
同じなのかねぇ、そうだそうだとは、よぅ賛成できません。

2008年10月10日 (金)

千両花嫁

「千両花嫁」山本兼一 文芸春秋
山本兼一の作品は武将ものが多いという印象でした。
地味というか、華がないというか、続けて読んでみようという引き付け力がないんですよ。
とびきり屋見立て帳、というサブタイトルがあります。
古道具屋のお話しです。
捨て子が店の主人に拾われて、育ててもらって、丁稚から二番番頭にまで出世して、お嬢さんに惚れて嫁にほしいと申し出ます。
一年のうちに、四間間口の店を持って、千両の結納金を持って来たら、嫁にやろうやないか。
やりました。全部叶えて、千両箱を持って嫁にもらいに行きました。
断られて、駆け落ちです。許しなくても、手に手をとって自分の店で二人だけで祝言をあげました。
一章一章のお話しは、目利きのお話しなんです。
刀剣の虎徹のお話しだったり、茶道具の目利きだったり、あるいは、どっちが強いかの腕の目利きだったり。
同じ山本で山本一力がいます。
非常に似た路線になってきました。
武将ものから商売ものに移ったら、華が出てきました、賑わいが出てきました。
この先、目を離せないな、と目利きしておきます。

2008年10月 9日 (木)

おれたちの街

「おれたちの街」逢坂剛 集英社
御茶ノ水警察署を舞台に、小学校の同級生なんだが、警部補とひらという関係で、上司下僚なのに、ためぐちをききあうという距離感なんですね。
そこへ、女性だが巡査部長という肩書きの警官が挟まっています。
今回は、キャリアで警部補なのだが、現場のオケイコということで、呼び捨てにできる新人が絡まっています。
生活安全課、マル暴担当や強行犯担当より、けっこう面白い担当なんですね。
警備、これは公安警察のことですが、これは別格として、面白い。
どうやら、警察で一番面白くないのは会計課かも、ここでは遺失物、わすれものを担当する部署です。
風俗や薬物を扱う部署なので、そんなに手に汗を握るようなお話しはありません。
上司下僚の緊張感と同級生というゆるさが同居して、どたばたのお話しが展開して行きます。
悪徳警官の禿鷹シリーズやコードネーム百舌の公安シリーズでの緊張感とはまったく違う、御茶ノ水警察シリーズは推薦です。

2008年10月 8日 (水)

鼓笛隊の襲来

「鼓笛隊の襲来」三崎亜記 光文社
「となり町戦争」が出世作の作家です。
薄い本なんですがね、10本の作品が収録されています。
一作一作が、ショートショートよりは長く、通常の短編小説より短いのです。
原稿料が、原稿用紙一枚に付きなんぼなんぼ、こんな計算なら、ずいぶんと割の合わない作業です。

鼓笛隊の襲来
台風が来ますよね、来るのは台風ではなく鼓笛隊が風に乗って襲来します。
コースに当たるところでは、避難するか、厳重に耳を塞いで通過を待ちます。
鼓笛隊を防ぐには、大勢の楽隊で迎え撃って、音量で勝てば襲来の勢いは消えていきます。
負ければ、鼓笛隊に吸収されて、さらに大きな勢力となってコースを押し渡って行きます。

ほかの作品も紹介したいのですが、やめておきます。
一本一本に着想を込めて、それぞれ別の着想ということは、感覚の視野がよっぽど広くないとできることじゃありません。

あんまりな名前

「あんまりな名前」藤井青銅 扶桑社
見開き2ページ、右側に戯文、左に挿絵、きわめてゆるゆるのお話しです。
クイズ、雑学の類いですね。

目次から抜書きすると
植物学会に告ぐ!ママコノシリヌグイ
国土地理院の地図にも掲載、馬鹿川
国のお墨付き、貧乏山
ネズミ+キツネ+サルの三種混合!?ネズミキツネザル
ほんとうに存在する地名です、南あわじ市市市
ほんとうに存在する地名です、東京都西東京市東
山梨県甲○市、この○の中に入る漢字は?甲斐市・甲州市・甲府市
いずれにしてもヒトに感染する病気です、ブルセラ症
そのほかいろいろ

最後のぶんだけ種明かししておくと
ブルマーやセーラー服にうつつを抜かす症状ではなくて
デビット・ブルースが発見した病気、セラとは細胞のことなんだそうです。

2008年10月 7日 (火)

あの夏、風の街に消えた

「あの夏、風の街に消えた」香納諒一 角川書店
奥付のプロフィールに、正統派の冒険小説・ハードボイルドの旗手である、とあったのでソソラレました。
前に読んだ「血の冠」では感心しなかった。
精神異常が動機であり、犯行の展開なのです。
精神異常をネタにすれば、どんな飛び越えたお話しでも展開できる。
今度のは
なるほど、ハードボイルド
父親が怪しげな不動産ブローカーで、巻き添えになるかも、ということで、姿を隠すようにいわれます。
言われた通り、新宿の古いホテルに身を隠します。
ハードボイルドの真骨頂は、狙いを付けて動くことじゃない、なすがまま、展開に沿って対応しながら泳いでいくことです。
そりゃもう、いろんな材料があって面白い。
新宿の下水道にはワニが棲息しています。
天安門事件のアジテーターが潜んでいます。
地下に広い空間があって、ホームレスが暮らしています。
この作家、面白そう、これからは目をかけておくことにします。

2008年10月 5日 (日)

血の冠

「血の冠」香納諒一 祥伝社
連続殺人事件があって、頭蓋骨を鋸で切り取られ、ぐるっと傷口の周囲に釘を差し込んだ状態で発見されます。
青森県警弘前中央署、東京から応援に来た警視正は会計課の係長を補助に指名した。
小学校の同級で、転校で別れたが、かたや、キャリア、肩や、ノンキャリア。
着実に捜査を追い込んでいく警察小説だろうと読み進んでいったが
なにやら読みづらい、最後になると、おどろおどろしい伝奇小説になって、とても感情移入できるお話しではない。
タイトルの「血の冠」、文字通り、血の冠の事件が起きるんだが、最初、読み起こすのがなにやら気が進まなかった。
現実離れしたお話だから、読むのはパスしたほうがええですよ。

2008年9月23日 (火)

特命

「特命」麻生幾 幻冬舎
エスピオナージ=スパイ小説に特化している作家です。
洞爺湖サミットを警備するのですが、成田のイミグレーションで不審がられた男がとうとう息を引き取った。
拷問でさんざん痛めつけられて、やっと飛行機で逃げてきたわけです。
お話しはここから始まります。
警察の警備部門と言うと、日本警備保障(SECOM)や綜合警備保障(ALSOK)の用語と同じと考えちゃぁいけません。
国家の安全を統括するスパイ部門を抱えております。
この警備部門のキャリアの中堅が特命を与えられた。
成田で男が死んだが、その背景を探れ。
調査が進むと、ベイルートに原因がある。
ベイルートで連合赤軍を捕獲するため、重要な情報源を運営していた。
調べるうちに、命じた局長や長官が関わっていることが見えてきます。
この、調べていく経過がこのお話しのエエトコなんですよ。
なんだか意味はよく解らないが、読んでいると、これは国家機密の重要部分を、わたしは触っているのじゃないか。
この警察官僚に自分でも感情移入して読み進んで行きます。
さて、この中堅官僚と局長とが直接対決します。
これ、どっちが勝ったのかというと、中堅官僚は逮捕されてしまうのですよ。
どうやら、局長と長官の不始末をぬぐうために特命が下ったのじゃないだろか。
悪がのさばる、こんなお話しなのに、読後感は悪くないのですよ。
なんぼ主人公に感情移入しても、所詮よそごとというか、将棋の駒の動きと同じで、離れたところで見ているからなんでしょうね。
エスピオナージの世界には何でもある、何があっても不思議じゃない、そんな前提条件があるからでしょうかね。

2008年9月20日 (土)

ハナシがはずむ!

「ハナシがはずむ!」田中啓文 集英社
笑酔亭梅寿謎解噺3 とうとうシリーズ3冊目までとなりました。
謎解きは1冊目だけなんですね。2冊目からは謎解きにこだわっているわけじゃありません。
竜二、笑酔亭梅駆(ばいく)はまだ笑酔亭梅寿の内弟子です。
内弟子なのに、上方落語の大看板、星の家柿鐘を襲名するお話しが舞い込んできます。
もちろん、すんなり話しが進むはずもありません。
大ドタバタが展開するのは当たり前です。
ちょっと、章立てを列挙しておきましょうか。
「動物園」「日和ちがい」「あくびの稽古」「蛸芝居」「浮かれの屑選り」「佐々木裁き」「はてなの茶碗」「くやみ」
どれもこれも、落語の題・筋です。
落語の内容にあわせて、それにちなんだドタバタが繰り広げられます。
ところで、一番弟子から順番に名前を挙げていきましょうか。
笑酔亭梅々、笑酔亭梅二郎、笑酔亭梅漫、笑酔亭梅菌愚、笑酔亭しん寿、笑酔亭羅々梅、笑酔亭寿亭夢、笑酔亭梅春、笑酔亭梅駆
ばいばい、ばいまん、ばいきんぐ、しんじゅ、ららばい、じゅていむ、ほんとはばいしゅんなのだがそれはあんまりだとうめはる、ばいく

2008年9月19日 (金)

ハナシにならん!

「ハナシにならん!」田中啓文 集英社
笑酔亭梅寿謎解噺2とサブタイトルにあります。
最初の「笑酔亭梅寿謎解噺」が受けたので、続編が出たのだと思います。
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笑酔亭梅駆(ばいく)こと星祭竜二は、両親が早逝して、天涯孤独の身のうえである。
高校を中退して、暴走族に入ったり、ロックバンドを組んだりしてふらふらしているところを
かっての担任であり、元噺家の笑酔亭梅林狩(ばいりんがる)こと古屋吉太郎によってむりやり梅寿の内弟子にさせられてから、まだ一年しかたっていない。
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お話しの設定はこんなところです。
第一作では、謎があって、それを解き明かす、これが流れでしたが
第二作では、謎解きは重視していません。
ハナシになるか、ならないか
梅寿一門が松茸芸能から締め出されてしまいます。
行き違いで、梅駆も師匠から破門されてしまいます。
梅駆にはスポンサーが付いて、独演会を開くところまで漕ぎ付けました。
ハナシになったんですね。
破門が解けて、再度、入門、シリーズが終わることなく、続編へと続く予感で巻末となります。

2008年9月16日 (火)

笑酔亭梅寿謎解噺

「笑酔亭梅寿謎解噺」田中啓文 集英社
カライお話しよりユルイお話しのほうが好きです。
絶好のシリーズを見つけました。
笑酔亭梅寿、上方落語笑酔亭一門の師匠です。
この師匠、どう見ても笑福亭松鶴と瓜二つで、笑福亭松鶴をモデルにはめこんでお話しを組み立てたんだろうな。
無理やり弟子入りさせられた竜二、芸名をもらって笑酔亭梅駆がほんとの主人公です。
謎解噺、ささいな事件が起きるんですよ。
高座での鳴り物の三味線の糸が切れる、これは何かのたたりか、そんなことだったり
東京から客演しただらしない落語家が楽屋で殺されたり
初老の漫才コンビ、かたくなにテレビに出るのを断る、そのわけは

どれもこれも、師匠の笑酔亭梅寿が解き明かす段取りなんですが
話すのも面倒じゃ、竜二、お前説明せぇ
それはこれこれこんなわけで。ねぇ、師匠、おっしゃりたいのはこういうことですね。

落語の世界がほんのりと見えて、なかなかええもんです。
キリキリとからくてきつい世界のお話しはかないません、こんなゆるいお話しがええなぁ。

2008年9月15日 (月)

八月のマルクス

「八月のマルクス」新野剛志 講談社
新野剛志には「あぽやん」で始めて出会ったのですが
ゆるいお話しが本線かと思っていました。
違った、「あぽやん」のほうが突然変異のようなもんでした。
女子高生をレイプしたと報道されて、芸能界を引退して五年になります。
漫才をやっていましたが、不意に元のアイカタが訪問してきます。
癌に侵されて余命がそんなにないと伝えます。
翌日、警視庁の捜査員が来ます。
芸能ライターが殺されて、五年前のレイプ事件は誤報で、動機はある、アリバイ確認です。
元のアイカタに会っているのでアリバイはあります。

こんなところから始まって、お話しの筋が集中してきます。
マルクスとは資本論のマルクスじゃないのです。無声映画時代のコメディアン、マルクス兄弟のことです。
江戸川乱歩賞の受賞作です。
江戸川乱歩賞というと、本格ミステリー、怪奇ミステリーを想像していました。
違うね、ハードボイルドだ。
探偵役が動き回って、動くことで反応を引き出して、解決へ持っていく、そんなお話しです。
どろどろとしたものや、目を覆う描写はないので、さらさらすらすら読める上質のお話しです。

2008年9月 6日 (土)

あぽやん

「あぽやん」新野剛志 文芸春秋
あぽやんとは聞きなれない言葉だが、アポイントメントのアポ取り、そんなものかしら、と思って手に取りました。
APO、エアポートの略称で、そこで働く健気なオノコをあぽやんと言うのだそうです。
航空会社で一番とはいえないが二番の会社で、その関連会社で旅行代理店で二番めのラインの名前を名乗っているいるわけです。
旅行代理店の花形は営業で、上司に盾突いてしまったんですね。
干されて、空港でのお客の送り出し業務を命じられました。
ここは最前線で、条件不備のお客、どんな事態が起きるかわかりません。
事が起きたら、飛行機が飛び立つまでに処理しなければなりません。
それがセンダーという業務
指揮して働いてくれるのは、同じラインの名前の会社でも別会社、○○エアポートサービス、派遣の契約だから恐ろしく給料が安い。
その中で、マネージャークラスが数名で、シフトを変えながら統率しているわけです。
あいつは所詮あぽやんだ、と見下される場合が普通だが
さすがはあぽやん、おかげで助かった、と感謝される場合もあります。
○ブラジルからの出稼ぎで、ポスポートに日本でのイミグレーションの入国印がない、このまま出国すると、日本に再入国できない
○ヤクザの団体のお客がいる、営業が空港でのアテンドを押し付ける
○テレビの検証であたった海外旅行、子供のパスポートを忘れてしまった、あろうことか、子供をおいて夫婦で行ってしまう、ばあちゃんが引き取りに来るから、それまで預かっといてね
ほか三篇、要約するのも複雑な込み入ったお話しが展開します

業界話し、好きなんですよ。
どんな業界でも、臭い立つような、地を這うようなお話は大好きです。

2008年9月 5日 (金)

ポジ・スパイラル

「ポジ・スパイラル」服部真澄 光文社
服部真澄は「龍の契り」「鷲の驕り」で出発して、スパイ小説でジャンルを確立したと思っていました。
違った、「海国記」平清盛のお話し、「最勝王」空海のお話し、「エクサバイト」2025年の頃のこと、記憶媒体を体内に埋め込んで、それから始まるゴタゴタのお話し
取材対象は作品が変わればまったく大違いの世界です。

ネガ・スパイラル、というのがありますね、螺旋状にどんどん落ち込んで行く、悪化していく状態
ポジ・スパイラルとはその反対です。ものみなすべてええ方向へ進んで行くこと。
提言を小説のかたちで示しております。
日本の海岸には自然の海岸はすごく減っています。
埋め立てて護岸で区切って海洋と断ち切っています。
港湾を集約して集中しよう。余った護岸は壊して遠浅の砂浜に回復しよう。
有明海諫早湾の水門で閉ざされた水域、当然ここもお話の展開に出てきます。
浅い海、汽水域で菱の実を栽培すること
ホンダワラなどの海藻を栽培すること
これらでバイオ燃料を作り出します。

とまぁこんな内容を詰め込んだお話し
なんだかカッタルそう、面白くないんじゃない?
いいえ、なかなか面白い、小説宝石に連載の作品なんだそうです。

2008年8月25日 (月)

サイン会はいかが?

「サイン会はいかが?」大崎梢 東京創元社
「肩耳うさぎ」で大崎梢を知りました。
出世作が本屋シリーズで、本屋に起こるさまざまな事件が登場します。
そのシリーズのなかの一冊を見つけました。
「成風堂書店事件メモ」とサブタイトルにあります。
なるほどねぇ、本屋の中のほんまに取るに足りない小さな事件です。
客からの注文が偽物で、繰り返して偽の注文があったり
小学生の社会見学で、小学生に気に入られて入り浸るようになったり
バイト君が高校生のころ、女子高校生に雑誌の付録をプレゼントされて戸惑ったり
そのほか
事件そのものはささやかなものです。
バイトの大学生の女の子がそれを解き明かす、そんな流れです。

著者は本屋でバイトしていた時期があったのだそうです。
神は細部に宿りたもう。
隅々まできっちり描いてこそ全体がくっきりとしてくる。
客の立場で本屋を眺めるばかりじゃなく、店の側の立場で眺めると、些細な事柄が光ってきます。
そんなのありか、と業界事情が透けて見えて面白いもんです。

2008年8月24日 (日)

早刷り岩次郎

「早刷り岩次郎」山本一力 朝日新聞出版
深川で、刷り物の店をやっていた釜田屋岩次郎は、地震で店が倒壊して、再起するのに、瓦版に仕事を変えると決心する。
早刷りを看板に、毎日朝四つ(午前10時)に売り出す方針を決定する。
創刊号を出すまでに人集め、ネタ集め、このへんが山本一力の白眉ですね。
もちろん、古くからの瓦版業者はおります。
妨害工作もいろいろあります。
競争相手はつぶしちゃならねぇ。
せめて競争相手は他に2軒はいなくちゃならねぇ。
丸勝ちで総取りすると、おごりが起きて始めの志が曲がってしまう。
この小説は週刊朝日に連載していたんですよ。
読売瓦版も今の新聞も同じことなんだねぇ。
「がってんでさ」
このフレーズが何度も出てくる。職人が声をそろえて心を一にする場面が何度もあります。
山本一力の世界には、「がってんでさ」の雄叫びが必ず出てくるもんです。
山本一力ワールドにひたると、抜け出すことができません。
夜中、11時ごろから読み始めたのだが、3時過ぎまで読み続けて、とうとう読み終えてしまった。
ページを閉じて立ち上がるのがなかなか出来ないんですよ。

2008年8月22日 (金)

こっちへお入り

「こっちへお入り」平安寿子 祥伝社
こっちへお入り、とは、大家さんの言葉、店子が大家ん家の前でもじもじしている時などに、店子にかける言葉です。
どういうわけだか、市民講座のなかの落語教室を受講するおうになってしいます。
受講生はおばさんが多いなぁ。落語を稽古して、春と秋の二回、舞台でご披露するわけです。
入門者の最初は「寿限無」と決まっております。
おいおい、気に入ったお題を稽古すればええ。
何が気に入るかは、受講生の人生経験、どんな落語家がひいきなのかなどで、人様々です。

やっぱり長屋話しが共感できるよねぇ。廓話しなどはやる気が起きないわねぇ。
与太郎も人気なんだが、古今亭志ん朝と柳家小三冶とはやりかたが違うなぁ。
ほぅ、あなたは桂枝雀が好きで、そのコピーでやりたい。

市民講座で落語をおべんきょしましょう、こういうお話しだから悪い人間は出てきません。
はらはらどきどきのストレスは全然ありません。
章が変わるごとに、落語のお題の中身について、思いがけない深い考察を聞くことになります。

2008年8月20日 (水)

あなたにもできる悪いこと

「あなたにもできる悪いこと」平安寿子 講談社
訪問販売のセールスマンをして、あちこちの会社を渡り歩いております。
某会社のセールスマンとして入社、社長が雲隠れして、残ったOLの勧めで恐喝に手を染めることになります。
手始めは、老人が強姦に及んだと、それをネタに子供夫婦にかけあって成功。
次は、市民運動のNOPの代表から資金を横取りしていると強請り、成功。
次々とネタを見つけては成功。

こうして並べると、悪徳きわまりない悪漢にみえるでしょ。
そうでもないんですよ。脅されるほうが悪くて、脅すほうに共感してしまうのですよ。

本筋とか関係ない小道具でこんなのがありました。
「ナイジェリアからのメール」
ナイジェリアで汚職で貯めた金があります。摘発されそうなので国外に避難しようと思います。
つきましては、口座番号を教えてください。充分な謝礼はいたします。
欲にかられて、口座番号を教えると、不正アクセスされて、残高そっくり抜かれてしまう。

本筋の詐欺恐喝も面白いが、脇道のお話しも、そこそこ面白いものがあります。

2008年8月17日 (日)

のぼうの城

「のぼうの城」和田竜 小学館
豊臣秀吉の小田原攻めです。
北条に服していた忍城へ石田光成の軍勢が押し寄せてきます。
ここでの主人公は、城主のいとこの成田長親、のぼう様、のぼう、と呼ばれております。
どういう意味かと判らなかったが、でくのぼう、この言葉の省略なのだそうな。
体がでかくて、動作がのろくて、さむらい仕事より百章仕事のほうが好きで、押しかけて手伝いたがる。
ただし、出来栄えがへたくそで、手伝ってくれないほうがええ、こんな状態です。
のぼうと呼ばれても怒るでもなく、笑っている、こんな男です。
城主は北条の小田原城へ城詰めを命じられて、人質状態です。
城主は、策をめぐらせて秀吉軍と通じて、降伏する段取りを図っております。
軍使に、石田光成の与力の長束正家が来て、居丈高な態度・降伏条件に、のぼうは戦で応じると回答します。
<のぼう>を城代に戴いて、秀吉軍と篭城戦が始まります。
将たるもの、智力胆力優れていて、士卒を引っ張って行くもの
でくのぼうなのだが、そこにいるだけで士卒の芯になるもの
優れた将のお話しはいろいろ見てきました。
でくのぼうの将を戴いて勝ったお話しは見たことがないなぁ。
いやぁ、面白い。一気に一晩で読んでしまいました。

2008年8月15日 (金)

あなたの余命教えます

「あなたの余命教えます」幸田真音 講談社
某電器会社の部長代理のサラリーマンで、56歳、同級生がロンドンで急死したということでショックを受けております。
ネットで「あなたの余命教えます」というサイトを見つけて、自分の余命を知りたくなった。
そのサイトの会社につくと、受付で5人まとまった段階でレクチャーが始まった。
かなり深くプライバシーを詮索されて、申し込み料金が250万円
金額が金額なので、申し込むにはなかなか踏み切れない。
彼は自分の余命が知りたい。
夫婦ものは老母の余命が知りたい。
若いむすめはパパ、どうやら肉親ではなく援助してくれるパパ、の余命を知りたい。
中年の女は誰の余命を知りたいのか明かさない。
こんな状態でお話しは始まります。

コンピューターでのデータマイニングとか、DNA分析とか、そういうことで人間の余命は分析できる、こんな会社があるのです。(これはお話しの設定、実際あったら怖いことです)
実際に、それぞれに余命なにがし、と伝えられると、ひとはどんな反応行動を起こすか。
5人それぞれの反応行動を語ります。

幸田真音の小説には、それぞれのビジネスモデルがあって、金の論理、資本の論理が軸になって語られことが多いのですが
たしかにビジネスモデルは提示されている、しかし、そこで語られているのは生命の恐れです。
近い将来、このようなビジネスモデルが実際に誕生するかもしれませんが、そんなビジネスが繁盛するなら怖いことです。

2008年8月13日 (水)

自転車少年記

「自転車少年記」竹内真 新潮社
真っ直ぐなお話しで、読んだ後、清々しい気持ちになります。
章立ての目次を順に
1.坂道の向こう側 昇平4歳
2.特訓山の冒険 昇平6歳
3.潮風の道 草太10歳
4.二つの坂道 昇平13歳
5.海辺の少年 昇平15歳
6.笹山高校自転車部 草太16歳
7.リタイアの日 昇平18歳
8.旅立ちの道
9.三〇〇キロの助走距離 草太20歳
10.スプリングボード 奏21歳
11.いくつかの再会 昇平20歳
12.八海(はっかい)ラリー 草太24歳
13.ノブオコーナー 伸男26歳
14.飛び立つ瞬間 昇平29歳
15.道の行方
幼児が小学校、中学校、高校、大学(専門学校)、社会人とそれぞれの時期を成長していくお話しです。
12章の八海ラリーとは、自転車でチームを組んで、八王子から山梨長野を経由して新潟の日本海まで300キロを一日で駆け抜けるイベントのことです。
幼児期、小学校、中学校では、うむうむ、そんなんあるあると共感することが多いですが
高校になると、自転車競技のお話が出てくる。
へぇぇ、自転車部とはそんなものなのかい、自転車競技とはそのようにやるのかい、と知らないとこをずいぶん教えてくれます。
終章では、主人公たちに子供が生まれて、ふたたび、その子が繰り返す予感を与えてくれます。
著者の作品では他に「じーさん武勇伝」を読みました。
ハチャメチャ奇想天外な語りで、著者の作風はハチャメチャ系だと思っていました。
いいえ、真っ直ぐな語りに本来のものがあるようです。
この作品は、新潮ケーター文庫で配信されたものなのだそうです。
こんな長編を、ケータイの小さなモニターで2年半にもわたって読み続けるとは、書くほうも大変だし、読むほうも大変なことなのじゃないかしら。
悪人は出て来ないし、どろどろとした揉め事などありません。
オススメの読み物です。

2008年8月10日 (日)

平成お徒歩日記

「平成お徒歩日記」宮部みゆき 新潮社
本人が文中でお断りを入れているように、おかちにっきと読んでください、おとほにっきとは読まないように。
江戸時代の通りを現代の道で歩いてみる、というお話しです。
壱、真夏の忠臣蔵
弐、罪人は季節を選べぬ引廻し
参、関所破りで七曲り
四、桜田門は遠かった
伍、流人暮らしでアロハオエ
六、七不思議で七転八倒
七、神仏混交で大団円
一番目の赤穂浪士の吉良邸討ち入り後、藩主の葬られた泉岳寺までの道を歩いてみよう、こういうことです。
○なぜわたしは心配するのをやめて真夏の炎天下に両国から高輪まで歩くことにしたのか?
○回向院から永代橋までーーー本所深川は「江戸」ではないというお話
○鉄砲洲の浅野屋敷はごこだ?包丁人中村氏気の早い寺坂吉右衛門になるのくだり
○銀座第一ホテルで沈没寸前、第一京浜死の彷徨
決行翌朝は各藩主が江戸城への登城日なんですって。
駕籠先をはばかって、表通りを進まず、裏の道を進んだのだそうな。
それを、できるだけ忠実に進んで行くという企画なんですね。
二番目は、獄門磔の引廻し、伝馬町の牢屋から、北へ進めば小塚原(南千住)、南に向かえば鈴が森(大井町大森)、なかなか結構な道のりです。
三番目は、箱根の関所越え
四番目は、江戸城をぐるっと一回り
五番目は八丈島、六番目は本所七不思議、七番目は善光寺と伊勢神宮
うれしいことに文章が会話体なんですよ。
話しかけの丁寧言葉とぞんざい言葉がない交ぜで、うれしいねぇ、こんな文体はだれかさんの文体にもあるよねぇ。
「しぇるぱ散らし踏み」
ここにもあるよ、と付け加えておきます。

2008年8月 6日 (水)

ヤクザのマル裏経済学

「ヤクザのマル裏経済学」北芝健 日本文芸社
サブタイトルに、元刑事が明かすワルの錬金術
まぁ、これを読んでヤクザの実態を探ろうなんて思わないことです。
たとえば、第3章、ヤクザマネーとヤクザの錬金術
闇金を廃業するヤクザが増えた
フロント企業とは何か
ヤクザマネーに沈んだ新興企業たち
巧妙化する近年のマネーロンダリング
身近にあるヤクザと一般企業の癒着
うまみのあるシノギ、風俗マネーの実態
産廃利権とヤクザ
次々と出現する驚きの新手シノギ
自治体、公共機関への恐喝
警察の新たな対応
ひとつひとつはとても興味が湧いてくるでしょ。
読んでみると表面的で具体的なことは書いてません。
警察小説のほうが深くえぐって書いていますよねぇ。
ひまつぶしとして読むなら、そういうことでしょう。
どこで読むのを止めてもかまいません。
最後まで読まなきゃ論旨がわからない、そんなもんじゃありません。

2008年7月30日 (水)

川漁師神々しき奥義

「川漁師神々しき奥義」斉藤邦明 講談社+α新書
最近よくみる聞き書きをそのまま書き起こしたかっこうです。
シジミ掻き漁 徳島県吉野川
モクズガニのモジリ漁 静岡県川津川
ドジョウの踏み網漁 関東一円の農業用水
ざざ虫漁 静岡県天竜川
アマゴの郡上釣り 岐阜県吉田川
ゴリのガラ引き漁 高知県四万十川
サクラマスの居ぐり網漁 新潟県三面川
ヤツメウナギ漁 山形県最上川
サンショウウオ漁 会津地方檜枝岐水系見通川
サツキマスのトロ流し網漁 岐阜県長良川
アユ刺し網漁 島根県江の川
ナマズ・ウナギの網ウケ漁 群馬県谷田川

2008年7月25日 (金)

後継者

「後継者」安土敏 ダイヤモンド社
ごく普通の地域の食品スーパーマーケットのお話しです。
社長が急死します。
息子はゴルフに夢中で、仕事にはもひとつ本気ではありません。
つなぎとして、番頭を社長とすることにしました。
提携していたのが大手の全国的なスーパーですが、取り込み吸収を企ててきます。
テナントとして入っていた衣料品部門を撤退させるぞ
店舗の近くに出店して競争をしかけるぞ
いろんな脅しがありますが、跳ね返して、提携を切り捨てて、独立独歩の路線を宣言します。
社長に退任を命じると、大手スーパーの傘下で新しい食品スーパーを起こします。
そこで乱戦が始まって、勝利するわけです。
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地域の問題ではありません。
管理職が転職を考える際の理想をご存知ですか。
「年収800万円で1年に2回の海外出張」だそうです。
夢の年収800万円を得てさえ、税金を引いてエンゲル係数によって計算すると、食費には年間120万円程度。
普通の家庭では、80万円からせいぜい100万円です。
1日あたりにすると、普通の家庭は2500円、働き手が管理職であってさえ3500円。
それで、どうやって100グラム2000円の和牛が食べられるのでしょうか。
1万5000円の尾頭付きの鯛を買えますか。
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高級スーパー・デパ地下路線と、普通の食品スーパーの違いを端的に言ったものです。
なるほどねぇ。
食品スーパーは周辺の客5000人が対象なんだそうです。
大手スーパーはその10倍の客を集めないと店が維持できないのだそうな。
大手スーパーの食品部門は、全体効果で、努力せずとも集客できる。
その違いをこの本は語ってくれております。
著者は、某スーパーマーケットの社長会長を務めた経歴があります。
「小説スーパーマーケット」が前作で、伊丹十三監督の「スーパーの女」の原作です。
引用した箇所をもういちど読んでみてください。
なるほどなぁ、と納得する部分があるでしょ。

2008年7月22日 (火)

片耳うさぎ

「片耳うさぎ」大崎梢 光文社
主人公は小学校六年生の女の子で、主人公のあいかたは中学生の女の子です。
父が経営する会社が倒産して、父のいなかの旧家へ引っ越してきます。
父は仕事を求めて海外へ、母は実家のおじいちゃんの看病で、大きな屋敷にひとりで取り残されてしまいます。
この旧家、そんじょそこらの旧家の域を超えていて、家の中に中庭を取り込んで、部屋数が数十室、使っていない部屋がなんぼでもあります。
同級生の男の子から同情されて、お姉ちゃんが応援に来てくれることになります。
このお姉ちゃんが探検好きで、屋敷の中を探るのに熱中しております。
屋根裏に上がれる隠し階段を見つけて探検したり
それは真夜中のこと、だれかが暗闇に潜んでいるのを感じたり
屋根裏に置き忘れたはずのカーディガンが返されて、片耳を切られたうさぎのぬいぐるみが部屋に置いてあったり
ちょっとぞぞっとする光景が続きます。
うさぎについて、この旧家には伝説があります。
傷ついたうさぎを家に入れてやったところ、その夜、もののけを引き込んで惨殺がはじまった。
主人公、サブ主人公が少女であるように、このお話は子供むけに語られています。
年齢を引き上げてもヤングアダルトまででしょう。
この年齢むけのお話しにはええことがあります。
どんなにどきどきする怖いお話しでも、そこには悪意のある人間は出てこないことです。
恋愛がらみの、お金がらみのどろどろ・怨念・そういうものが書かれてない世界というのはよろしいなぁ。
単なるホラーのお話しを楽しみました。

2008年7月20日 (日)

辰巳屋疑獄

「辰巳屋疑獄」松井今朝子 筑摩書房
松井今朝子にしては珍しく芝居に関係しないお話しです。
大阪の豪商のお話なんですがね
婿入りして、一代で商家の世帯を豪商にまで押し上げた。
相続の段取りが未済のまま大旦那はなくなったので、問題を残しました。
息子が二人いて、相続争いのお話です。
長男が病弱で子供は女の子しか残さずに死んだ。
婿入りしたが、大旦那の実家はある。そこへ次男を養子に入れてちゃんとしたつもり。
お話しの背景は、丁稚が手代になり、番頭に昇格し、押しも押されぬ大番頭に出世する縦糸があります。
相続の争いに割り込んで、出世の思惑も絡んで、どっちの筋を引っ張るかで、この先の未来は違ってきます。
役人に賄賂を贈り、付け届けをこんなふうにする、その細々した段取りは、よく知った段取りです。
読みながら、どこが疑惑なんだろ、商家の相続に疑獄もへったくれもないもんだ。
ところが、大阪奉行所の中だけの賄賂、付け届けが江戸にまで注進されました。
ここで、もう老年の大岡越前守の出番です。
商家の賄賂のやりくちで、武家の緊張がゆるんでしまう、これが根回しの根本です。
賄賂を撒いた一方が相続に負けた、そういう裁決になりました。

後世の田沼の時代はもうすぐですよ。
賄賂は当たり前の世界になるじゃないか。
「越後屋、おぬしもワルよのぉ」
こんなせりふが当たり前の世界がやってきます。
へぇぇ、このような綱紀粛正の時代もあったみたいです。

2008年7月 8日 (火)

果ての花火

「果ての花火」松井今朝子 新潮社
「銀座開化事件帳」の続き、シリーズです。
登場人物の設定は前作の通り、そのまま引き継いでいます。
江戸の頃なら長屋、店先でのお話し
文明開化の御世なので、銀座の煉瓦造りの家に住まうわけです。
ちょっと常識合わせをしときましょうか。
この時代は、西郷隆盛が下野して西南戦争前夜の時代
法制的には、太政官政府の時代です。
徳川幕府の大政奉還で始まった制度で、太政大臣がいて、右大臣、左大臣、参議で構成する政府です。
明治18年、内閣制度が確立し、内閣総理大臣がいて、各大臣が補佐する、現在の内閣制度へ移行するわけです。
そんな時代で、旧秩序が崩れ、潮流に乗るもの流されるもの、さまざまです。
おおむね、市井のあれこれがお話しのタネです。
裏テーマに、幕末の官軍の将の理不尽に怒り、討ち果たすのを一生のテーマにしている幕府御家人が主人公です。
最後の対決は2冊目でも出てきません。
どこまで引っ張るんだろうね。

2008年7月 4日 (金)

銀座開化事件帖

「銀座開化事件帖」松井今朝子 新潮社
汐留から横浜まで汽車が開通し、ガス灯が銀座に灯ったころのお話です。
どうも事態が把握できないのだが、火事のあと、銀座は表通りはずらっと煉瓦造りの建物に一変したんだそうです。
その表通りは一等煉瓦、裏通りには二等煉瓦、三等煉瓦の建物が並んでいたのだそうな。
敷地いっぱいに詰め詰めに建てるのではなく、けっこう透き透き疎らに建っているのだそうな。
現在の銀座を思うので、当時の有様が浮かんでこないのですよ。
住んでるひとびと
昔は殿様だった次男坊が経営している洋品店
奉行所の与力だったが、今は耶蘇教の本屋
士族が出資して自由民権の新聞を出そうと企てているやから
薩摩から出てきたポリスの権卒
どんな稼ぎで食っているのかわからないやから(これが主人公)
明治の市井のどさくさ、猥雑が中篇連作で書かれてあります。
幕末のころ、上野彰義隊の残党を切り刻んでいる薩摩の頭分に、俺も幕臣のひとり、と切り結んだことがあります。
その頭分は出世して、市政裁判所判事、さらに出世してなんとかの役目
ことごとく悪事に遭遇するので、こいつは退治せねばなるまい。
まてまて、ひとりで行くな。加勢するぜ。
助太刀が勢ぞろいしたところで、巻きの終わりになっております。
どうするんだろう。
この連作は再開するのかしら。明治初期のどさくさを書くのが目的で、悪党退治はお話しの梃子に使っただけなのかしら。
もひとつ消化不良のお話しでした。

2008年6月30日 (月)

犯人に告ぐ

「犯人に告ぐ」雫井脩介 双葉社
なんだかこのお話し、すでに読んでるよな気がしていました。
そうではなかった。
去年だったかな、映画化されて、テレビコマーシャルでさんざん予告編を見ていたので、もう読んだような、そんな気がしていたものでした。
お話しは、前振りとほんぺんと、ふたつが絡み合っています。
児童誘拐事件が起きました。子供が殺され、犯人を取り逃がす、という最悪の結果となりました。
現場責任者のヒーローは、記者会見で、上司のまずい指揮を言い訳にかわすわけにもいかず、質問・糾弾が次々と続いて、ついに切れて反論反発してしまいます。
僻地へ転勤が決定です。
6年後、まずい指揮を執ったキャリアが凱旋して、県警本部長として帰ってきました。
学童連続殺人事件があって、手詰まりとなり、迷宮入りの様相を呈していました。
ここは、県警本部長として光るところを見せねば。
僻地のヒーローを呼び戻し、捜査責任者が捜査の実態をテレビニュースで公開する、このような劇場型捜査を命じました。
これが本筋ですが、裏筋もあります。
上司の課長はキャリアです。
大学の同級生に振られたことがあります。彼女はテレビのニュース番組のサブ・キャスターになっております。
捜査の内容は全部わかります。
女の気を引くために、捜査の内容を小出しに伝えます。
裏番組では、県警の捜査官が番組に出て、捜査の内容を伝えるのですから、勝負になりません。
視聴率は引き離されていきます。
視聴率の回復に女キャスターはそのリークを利用することにします。
結末は予定調和で勧善懲悪で終わりますが、警察小説て、なんて面白いのでしょうね。
犯人と戦いながら、同時に警察内部で戦っている、ダブルでハラハラするところがええのでしょうね。

2008年6月28日 (土)

ブラックペアン1988

「ブラックペアン1988」海堂尊 講談社
ペアンとは、止血鉗子で鋏のような形状のものです。
ブラックペアンとは、おっとっと、これは物語を決めるキーワードですから、触れないでおきますね。
1988とは1988年、田口、白鳥コンビが活躍する前の時代だと示しております。
世良は医師免許を得て、大学病院での修行が始まります。
1988年当時ですから、今の研修医制度ではなく、インターンの時代だと認識しておいてくださいね。
いやぁ、外科手術が何例も出てきます。
さすがに、現役の医者が書いただけに臨場性、雰囲気、血の臭いまで感じられるようです。
バチスタシリーズでの田口医師は、ここでは大学医学部の学生として顔を出します。
そういえば、ここの主人公の世良医師はその後どこかの作品で顔を出すことがあるのかしら。

2008年6月26日 (木)

三世相

「三世相」松井今朝子 角川春樹事務所
サブタイトルに「並木拍子郎種取帳」
並木拍子郎とは、奉行所の町方同心の弟で、芝居小屋の町に居ついて身過ぎ世過ぎをしています。
師匠は芝居小屋の座付き作者で、その手先として、芝居に仕立てる、世間の荒事和事のネタを拾ってくるのが仕事です。
中篇集で、5篇を集めたものです。
題名の「三世相」とは、暦・占の本で、毎年出版されるもの、今でも高島易断のパンフレットが出ていますが、あんなもんです。
占のパンフレットはお話しの出だしのちりばめネタです。
本筋は、占い師、よく当たる占い師、客は困って占いに顔を出すのだから、掻き回して、金儲けの材料にするのは簡単。
そんなこんなのお話しです。
松井今朝子は、歌舞伎、芝居の業界に詳しい、へぇぇ、と驚き感心するネタがいっぱいで、瑣末な情報のひとつひとつが面白いです。

2008年6月22日 (日)

総理殉職

「総理殉職」杉田望 大和書房
サブタイトルに「四十日抗争で急逝した大平正芳」
三角大福、というフレーズを知っている年代はだいぶ少なくなりました。
三木、角栄、大平、福田、この四人です。
吉田茂以降の順番をたどると、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳
三角大福とは、総理就任の順番ではありません。
この中で、三木の場合だけ、椎名裁定で無選挙、ほかはいずれも激しい総裁選挙が実施されています。
大福は同盟を組み、共同で動くことが多かったが
福田と田中大平は肌合いが違い、対立関係にいます。
三木は田中大平と組めば不利になるので、思想肌合いが違っても福田と連合する方向を選択します。
一番極端だったのは、総選挙後の首班指名選挙で、同じ自民党から大平、福田、ふたりが首班指名に立候補するという前代未聞の事態が起きます。
時の総理は大平総理、首班指名選挙に大平は福田に負けてしまいます。
福田三木の思惑では、大平は退陣して政権を渡すだろうと見込んでいましたが
再び解散総選挙、衆参同時選挙に突入します。
選挙戦の最中、大平は心筋梗塞で亡くなってしまいます。
総理殉職です。
その後の歴代総理は
鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登、宇野宗佑、海部俊樹、宮沢喜一、細川護煕、羽田孜、村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安部晋三、福田康夫
ひとそれぞれ、自分と同時代の総理はいるもんです。
あなたの場合はだれでしょう。

三角大福に匹敵する現在の政治家はいますかねぇ。
麻垣康三などのフレーズがあったが、三角大福の時代ほどには血みどろとは思えない。
遠慮の無い対立は、民主党のほうは目立っているのかもしれません。

2008年6月16日 (月)

巡査物語

「巡査物語」徳留新一郎 東洋出版
目次の一部
巡査の一日はどのようにして始まるのか
巡査と巡査部長
交番の毎日
巡査はどうやって泥棒を捕まえるのか
制服警察官と私服警察官
巡査の立場から見た警察と一般市民との関係
残りは省略
警察小説のジャンルが確立して、警察官が主人公でも敬遠されることはなくなりました。
ただね、どれも捜査の鬼、あるいは悪とすれすれ、こういうストーリーが多くて、一般市民とはかなり離れています。
そのなかで、乃南アサの「ボクの町」「駆けこみ交番」など、交番勤務の若い巡査を主人公にしたものは、ほのぼのとして好きです。
著者は巡査の経験があるのか、ないのか、そこのところはどうなんでしょうね。
たとえ、経験がなくても、内部にいなければ解らない雰囲気・空気をよく伝えています。

2008年6月 5日 (木)

そろそろ旅に

「そろそろ旅に」松井今朝子 講談社
弥次さん北さんのコンビについてはわりと知ってはいても、十返舎一九については知るところは少なかったなぁ。
正伝ではどうなのかは知りませんよ、どこからどこまでが松井今朝子の創作かはわからない。
十返舎一九はもともとは武士だった、ここから出発しております。
重田与七郎は駿河駿府の町奉行所の与力の息子だった。
新しい駿府町奉行のもとへ出仕したが、奉行所で使われるより、奉行の使い走りに使われるようになった。
奉行は町奉行を終え、新しい任地へ去っていった。
与七郎は先妻の子で、後妻の子の弟に家督を譲って家を出ることにした。
奉行の新しい任地の大阪東奉行所へ行き、奉行所の与力ではなく、奉行の家来として仕えることになった。
浄瑠璃に興味を持ったんですね。役目の付き合いで芝居小屋に出入りするようになり、浄瑠璃の愁嘆場とさび場を繋ぐちゃり場を仕立てて評判になりました。
さる材木屋のお嬢さんに気に入られました。
田沼の治世から白河候の執政に変わります。役目は面白くないことが続き、材木屋に婿入りすることを承知します。
若旦那はすることはなにもありません。浄瑠璃の台本を書くことを引き続きやることにします。
芝居小屋でのつきあいやもろもろで、遊郭びたりが続きます。
放蕩が過ぎて、よめさんからも材木屋の旦那からも愛想をつかされ、離縁されてしまいます。
浄瑠璃が出版されて本になっております。紹介状をもらって、版元を頼って江戸へ出て行きます。
版元の周辺には、山東京伝、滝沢馬琴、式亭三馬、歌川豊国、葛飾北斎などが出入りしております。
最初は山東京伝の亜流で始めました。
またまた婿入りのお話しが起き、質屋の娘のところへ婿養子に入ります。
題名の「そろそろ旅に」、定住するのがむずかしいひとなんですね。
結局は、ここでも婿の座を降りて、旅に出る。
これが東海道中膝栗毛のシリーズで大当たりしたわけです。

2008年5月28日 (水)

相棒

「相棒」五十嵐貴久 PHP
今、流行りのテレビでの水谷豊、寺脇康文の「相棒」ではありませんよ。
徳川慶喜の駕籠が銃で狙撃された。
大政奉還について西郷吉之助と会談するため、薩摩藩邸へ向かう途中のことだった。
誰が狙撃したかを究明するため、幕府は土方歳三と坂本竜馬を呼び出して、二人で共同して探索するように命じた。
土方歳三は新撰組だから、役目柄しょうがなく、坂本竜馬は大政奉還のプロモーター、プロデューサーだから、大政奉還を推進するため、こっちもしょうがなく、共同で行動することにした。
勤皇派では、薩摩藩、隠密行動の長州藩、こっちに当たるには、竜馬が主となり、土方は海援隊の小者として頭を下げなきゃならない。
佐幕派では、会津藩、新撰組分派の御陵衛士、こっちは土方が担当し、竜馬は新撰組の下僕として扱われる。
二日間、転げまわるように京の各所を訪ね回るのだが、そのことで、勤皇佐幕の機微のありようが浮かび上がってくる。
それで解ったこと、新撰組分派の御陵衛士、高台寺党と名乗って、薩摩の庇護を受けている。
彼らが勝手に薩摩の意図を汲み取って、暴発して徳川慶喜の駕籠を襲ったものだった。
ここで斬り合いが始まる、そんなところへ幕府高官が駆け込んで、待て待て待て
上様は大政奉還を受託なさった、ここで襲撃があったことが漏れると、話は振り出しに戻ってしまう。
一同、無かったことにせぇ。襲撃もなかった、探索もなかった、よいな。
ほどなく、坂本竜馬は襲撃されて死んでしまう。
犯人は、新撰組だろう、会津見廻組だろう、世間の見方はもっぱらこうですが、いいえ、御陵衛士、高台寺党の仕業でした。
ここまでが8割がた読み進めたところ、このあとは触れないでおきます。
土方歳三と坂本竜馬が一緒に行動する、こんなシチュエーションを考えた、よぅまぁ考えた。
なかなか面白いお話でした。

2008年5月19日 (月)

震度0

「震度0」横山秀夫 朝日新聞社
某県での県警本部の上層部のお話です。
ちょうど神戸淡路地震のとき、出動に備えて待機しているときです。
警務課長が登庁してこない、何か不祥事が? 幹部は腹の探り合いをはじめます。
本部長 県警のトップ
警務部長 管理部門、総務・経理・厚生、なかでも人事を掌握している
警備部長 公安・機動隊担当
刑事部長 名前のとおり刑事事件を担当
生活安全部長 少年問題、パチンコ・風俗営業認可、シャブ麻薬担当
交通部長 交通担当
キャリアとノンキャリア、準キャリアというのもあるんですね。
キャリア、ノンキャリアの面子と意地の張り合いがお話を引き締めます。
天下り権益はこんな風に維持されるのかと目をみはるものがあります。

実は、ずっと前に読んだことがありました。
文庫本で新刊されたので、新しい本と錯覚してしまいました。

警察の部の立て方がよくわかります。
別の本ですが
佐々木譲の「警官の血」で、息子が公安にリクルートされ、孫が警備にリクルートされる。
それぞれの時代時代の主流・ちからの置き方がわかります。
「震度0」警察小説のガイダンス、オリエンテーリングにぴったりです。

2008年5月12日 (月)

警官の血

「警官の血」佐々木譲 新潮社
父、子、孫の三代にわたる警官のお話しです。
戦後の、自治体警察での大量採用からこのお話しは始まります。
軍隊から復員後、住居事情から駐在所勤務を希望して、何度かの表彰を重ねて、無事、駐在所勤務の希望が叶います。
駐在所の巡査には捜査は管轄外です。
そのなかで、昔の事件、上野公園での男娼殺人事件、駐在所管内の国鉄組合員殺人事件では、独自の視点で真実に迫ろうとしています。
駐在所の隣りの寺の五重塔が焼失したとき、持ち場を離れたところで死んでいたのを、自殺を疑われ、殉職とは認められませんでした。
亡くなった当時、小学生だった息子は、父のあとをついで、警官になります。
頭脳優秀ということで、公安からスカウトがあって、警官在職のまま北大に合格します。
そこでの任務は過激派の公安スパイでした。
卒業後、神経を病み、公安から離れ、駐在所勤務を希望し、父の任地の駐在所に赴任します。
父が何かを探っていたのを手繰りだし、着実に真相に近づいていきます。
人質立て篭もり事件が発生し、飛び込んでいって、人質は救出したが、撃たれて殉職してしまいます。
きっかけがあって、かっての神経障害が再発し、恐怖心を失ってピストルを構える犯人の前に飛び出したわけです。
その子も警官を希望し、採用されます。
警務から手が回り、通常任務と同時に、裏の任務につくように強要され、上司の汚職、癒着を警務に逐一報告するよう命じられます。
警務とは、警察内部の監査・統制の役割りです。
以下省略
当然、祖父、父が密かに調べていたことは、彼の手で全部明らかになります。
もちろん、時効の壁は越えることはできませんが、祖父の疑問、父の努力は、ここで報われることになります。

2008年5月 2日 (金)

亜玖夢博士の経済入門

「亜玖夢博士の経済入門」橘玲 文芸春秋
橘玲というと、「マネーロンダリング」が出世作で経済犯罪の世界を得意にしております。
第一講行動経済学
第二講囚人のジレンマ
第三講ネットワーク経済学
第四講社会心理学
第五講ゲ-デルの不完全性定理
第一講は、サラ金を借りまくって自己破産してちゃらにするお話し
第二講は、シャブのマーケットを独占するお話し
第三講は、小学生のイジメのお話し
第四講は、ネズミ講、マルチ商法のお話し
第五講は、株式の先物取引、空売り、買い戻しで儲けるお話し
亜玖夢博士とは、新宿歌舞伎町の風俗ビルに事務所を構え、「相談無料、地獄を見たら亜玖夢へ」こんなビラを配って客を待っております。
どのお話しを見ても報酬は得ていませんが、ま、これは狂言回し、客の犯罪性、いかがわしさを引き出すにはこんな設定にしたほうが便利ですものね。
感銘とか感動などを求めてこの本を開いてはいけません。
情報を得ること、社会の機微に触れること、これが収穫なんです。
オススメとまでは言わないが、読んでみて読まなきゃよかったと悔やむことは決してありません。

2008年4月30日 (水)

むかしのはなし

「むかしのはなし」三浦しをん 幻冬社
短編集なんですね。
主人公は別々だし、要するに、短編集なんだろうな- - -
と思いのほか、どうやら同じ状況のもとでさまざまなお話しが展開しているんですね。
3ヵ月後、地球は大きな隕石と衝突する、脱出できる人数は一千万人まで程度、優先的に順位を優遇されるひとがいて、他に、一般人は抽選で割り当てられる、という極端な状況です。
短編集の最初のお話し、ラブレス、を解剖してみましょうか。
前書きに昔話があります。この場合はかぐや姫、ごく普通の昔話です。
次に、現代のお話し
ホストクラブのホストが主人公です。
何人ものお客を手玉に取る、ま、そんなお話しです。
手玉に取ってさまざまに貢物を勝ち取る、お金だったり、車だったり。
ひとつシクジッてしまった、お客のひとりがこどもが出来たと言って来た。
ふざけるな、と跳ね返したが、生憎、その女はヤクザの大幹部の女だとわかった。
逃げる、逃げる、今は海岸の倉庫に隠れているが、次々に扉が開けられて、ヤクザの手下が迫ってくる。

かぐや姫は求婚者に無理難題を求めるのです。
ホストクラブのホストは、無理難題でもないね、お客は易々と応じるのだからね。
しかし、結果、跳ね返ってくるんですよ。もらった物品は盗品だったり、お客の旦那が自殺したり、お客の会社(女経営者)が行き詰って不渡りを出したり。
かぐや姫の無理難題と似たようなものかな。

ま、こんなお話しが次々と繰り出されます。

2008年4月26日 (土)

エクサバイト

「エクサバイト」服部真澄 角川書店
ギガバイトだのテラバイトだの、メモリーの容量を示す単位がありますよね。
もっと巨大な単位がエクサバイトです。
時代は2025年のころ、額に小型カメラを埋め込んで、視野に入るもの、聞こえるものをすべて記録する、こんなことができるようになりました。
記録の容量は一生分です。だからエクサバイト。
そのメモリーは歴史を傍証するもの、大勢のメモリーを照合すると、歴史の真実がみえてくる、とりわけ、政治家、軍人、文化人のメモリーを集めると、効果的に歴史の真実に触れることができる
こんな観点で、メモリーを集めて事業化する事業家が現れました。
ナカジは招待されて、事業に参加するよう要請されます。
こりゃぁ事業になると気が付いて、メモリーの製造業者が敵対的に事業家を始めました。
あとは、両者の事業での対決、商談、提携、ビジネスでのお話しです。
面白いのは
メモリーを譲渡しても、メモリーを読めるのは死後100年経過後だとの取り決めがあったり
メモリー製造業者にだけしか読めない回路があって、死後速やかに死体からメモリーを回収するシカケがあったり
読み手としては、事態を把握できないまま、とりあえず読み進めていく部分は大いにあります。
何よりええのがね、この本で読みやすいのは、決定的な悪人が出てこないこと
男と女でやきもきしたり、憎たらしいやつが陵辱殺傷を繰り返す、こんなお話しとは無縁です。
きわめて理性的にお話しは進んで行くのですが、ついていけなくても、そのうち意味づけを明かしてくれるので、ページをめくっていれば納得できます。

2008年4月24日 (木)

バスジャック

「バスジャック」三崎亜記 集英社
短編集です。
○二階扉をつけてください
誰もが二階に扉をつけているんですね。
なぜあんたのとこではつけないの、近所から苦情がきて、二階扉をつけることにしました。
○しあわせな光
丘の上から自分の家が見えます。
日が暮れて、そこから自分の家をみてみたら
○二人の記憶
二人は恋人どうしなんだが、会話がかみ合わないことがある。
同じ日に一緒に行動を行動をしているはずなのに、それぞれの相手が別と思っている。
○バスジャック
バスジャックが流行になってくる。バスジャックするのに様式美が求められるようになる。
ルーティンが定められてはいるが、新しい手順の開発も求められている。
○雨降る夜に
我が家を図書館と間違えて訪問者がやってくる。
訪問者があるのは、決まって雨の降る夜です。
○動物園
檻の中で動物に扮する、そんなビジネスがある。
ただ檻の中にいるだけなのに、観客には動物が見えている。
檻の中の人間が観客をだましている=幻を見させているのだ。
○送りの夏
ごめん、どのように要約してええものやら、不思議感、ゾワゾワ感は伝えられません。

「となり町戦争」「失われた町」で発見した三崎亜記です。
女だろうと思っていましたが、男でした。
このひと、普通では思いつかないところから話を繰り出します。
あるはずのない状況なんですね。不条理の世界です。
こんなことばかり考えていると、頭がはじけて別世界に行ってしまうのではないかと気がかりです。
福岡県の地方公務員を兼職しているのだそうです。
現実の些細なことにこまごまと取り組んでいるから、ありえない別世界に浸っていても、バランスが取れるのかもしれません。

2008年4月14日 (月)

再生巨流

「再生巨流」楡周平 新潮文庫
スバル運輸に勤務している。
スバル運輸と表現されているが、佐川急便をイメージして書いているな。
新しい辞令が発令された。
従来の営業部の次長から、新規事業開発部部長へ
かたちは栄転のようで、実はラインを外されて干されたのだ。
年間四億の売り上げを稼げということだ。
試行錯誤の末、文具通販に目をつけた。
小説ではプロンプトと表現されてはいるが、アスクルのことに違いない。
プロンプト(アスクル)に対抗して、文具業界の下位を対象に、通販を立ち上げようと企画する。
カタログには文具だけではない、ラーメンから電化製品、なまもの以外のドライグロッサリーは全部カタログに収録してしまおうというもの
電話ファックスで得たオーダーを翌日配達、オーダー情報ははスバル運輸も共有する、ということ
スバル運輸が各地に倉庫を用意し、拠点間輸送はスバル運輸が独占する
ユーザーへの配達は地域の家電店、電器屋さんが行うということ
データを共有することで、これで、スバル運輸はただの運輸会社か新しい販売チャンネルに生まれ変わることになります。
お話しのクライマックスはどこなんでしょうね。
直接の上司の常務に嫌われております。稟議書はそこでストップしてしまいます。
京都に創業者の社主がいます。そこへ直訴します。
タイトルの再生巨流、町の電器屋さん、量販店に負けてはいますが、息を吹き返せば大きな販売チャンネル、こんな意味でしょうか。
会社の主事業が運輸から販売チャンネルへ、こういう意味でしょうか。
もひとつ内容に沿っている題名とは思えないね。
新規事業開発部部長、このタイトルのほうが内容と一致しているように見えます。
楡周平は、Cの福音から始まる、国際犯罪のストーリーテリングに長けております。
その線の作者だと思っていました。
企業小説、ビジネス小説、なかなかいけます。
読み始めて夜中の3時過ぎ、読み終わらなきゃ寝られない。
昨夜の睡眠時間は3時間半、ちょっと体がだるいが、ええもん読んだ、と満足感が尾を引いております。

2008年4月12日 (土)

失われた町

「失われた町」三崎亜記 集英社
「となり町戦争」に続いて、三崎亜記です。
へぇぇ、すごい才能です。とんでもないシチュエーションをよくまぁ考え出すもんです。
30年に一度、町がそっくり消えてしまう。
町は残っていますよ、町の住人が消えてしまう。
その後、町に町名の入った書類、郵便物、領収証、預金通帳、電話帳が残っていれば、名前が載っている人はつぎつぎと消えてしまう(んだったよな)
うかうかと町に入れば、最初に目に障害が起き、体のあちこちに障害が起きる。
これを珪化と表現していたな。
町には意思が残っていて、関係するひとびとを珪化させようとしている。
そこで、政府の対策として、管理局から指定された人間が回収して歩くことになる。
ヒロインは、回収する若いおんななんだろうな。
ちがった、それはエピソード1でのヒロインだった。
エピソード2からは、管理局の係員、桂子さんがヒロインだろう。
気が付くと、地の文でも、桂子でなく桂子さんとなっている。
今、消えようとして町は月ヶ瀬町、桂子さんは30年前に消えた倉辻町の生き残りなのだ。
回収作業を続けているうち、人が消えた月ヶ瀬町で、幼児が生きて寝ているのを発見する。
エピソード4からは、その幼児が成長して高校生になった由佳がヒロイン。
町のひと全部が消えたのに、その子だけ消えなかった消滅耐性を調べるため、管理局に通う。
桂子さんが担当者。
エピソード7まで全部をおさらいするのは止めとこうね。
最後には、登場した人物がすべて出て、関連、意味合いは全部明らかになるんですがね。

町が消える。いや、町は残っているが町の人が消える。
町は意思を持っていて、町を懐かしむもの、町に入るものを消し去っていく。
たまたま、町が消えた日に、外出、他出していて消えなかったひとがいる。
懐かしんだり、悲しんだりすると、破滅が襲ってくる。
世間のひとは、その生き残りを汚染されたものとして、差別し、接触したがらない。
本の装丁が異様なんですよ。
表紙裏表紙には、通りのイラストがあって、家々が書いてある。
透明なビニールカバーがかけてあって、それには人の姿が欠いてある。
ビニールカバーを外すと、人の姿は消えて、無人の町の姿です。
異様なおはなし、不思議なおはなしを三崎亜記は語りだしております。

2008年4月 8日 (火)

となり町戦争

「となり町戦争」三崎亜記 集英社
うわぁ、とんでもない着想で、お話しを繰り出しております。
町役場から、公文書が来たら驚きますよね。
舞坂町役場総務課となり町戦争係から、戦時特別偵察業務従事者に任命する、というおしらせ
要するに、通勤途中でとなり町を通過する、そのときにとなり町を観察する、という業務なんですね。
役場からの広報まいさかを読むと、小さく告知が載っている。
------
となり町との戦争のお知らせ
開戦日 9月1日
終戦日 3月31日(予定日)
開催地 町内各所
内 容 拠点防衛 夜間攻撃 敵地偵察 白兵戦
お問い合わせ 総務課となり町戦争係
------
どこで戦争をやっているか、そんな気配物音はしないのですがね
広報まいさかによると、毎月戦死者が十数人から何十人と増加している。
再び、役場から任命書が来て、今度は、戦時拠点偵察業務従事者
となり町戦争推進室分室勤務を命じる
つまり、敵地のとなり町のアパートに住め、ということです。
しかも、役場の戦争推進室の女性室員と結婚せえ、いや、結婚は便宜的なものなんだということ。
役場には、業務分担表と言うマニュアルがあり、その中に、性的な欲求処理の関する業務、というのがあります。
業務回数は週一回。
ちょっと飛ばして終わりのところ
------
「戦争が終わりました」
香西さんの言葉で、僕ははじめて戦争の終結を知った。
「より正確に言うならば、となり町との戦闘状態が終息しました。公的に戦争の終結、武装解除申請が受理されるのは予定通り、年度末の三月三十一日ですが」
「それで、どっちの町が勝ったんですか?」
僕の疑問は当然のものだったが、かえってきた言葉は、予想していたものとは違っていた。
------
その言葉はここで明かしてはいけないだろう。

もしも、役場から、このような召集令状が来たら、どう対処したらええものだろうね。

2008年4月 7日 (月)

悪果

「悪果」黒川博行 角川書店
黒川博行の作品はどれも好きですねぇ。
とりわけ、建設コンサルタントの二宮とやくざの桑原のコンビ、このシリーズが好きですねぇ。
この作品のコンビは刑事なんです。
B級警察署の今里署、このようにありそうななさそうな名前を警察署につけるところがええですね。
マル暴の刑事なんですよ。腕はええ。臭いを嗅ぎつけて獲物にする腕は達者なもんです。
捜査費用は自前なんですね。警察暮らしが長くなると、伝票請求するより、自前で調達するのが普通の感覚になってくる。
ヤクザと酒を飲んで情報を取っているうち、酒は上等のものになり、おねぇちゃんとねんごろになってくる、金を調達するのにシノギをかけるのが普通の状態になってくる。
これは刑事のシノギのお話しです。
結果だけ言うときましょうか。
コンビのかたっぽはシノギがばれて、監察に呼ばれて依願退職に追い込まれます。
もうかたっぽのほうは、ホステスの前のひもと揉めて、刃物で腹を刺されます。退職に追い込まれるでしょうね。
勧善懲悪なんですが、シノギで追い込んでいく過程では、こっちも入れ込んでしまって、なかなか途中で本を置くことができません。
明日は山に行くというのに、二時過ぎまでとっぷりと「悪果」に浸り込んでしまいました。
悪党のやることは、なんでこう爽快なんでしょうね。

2008年3月31日 (月)

中庭の出来事

「中庭の出来事」恩田陸 新潮社
ちょっと前に同じ作者の「チョコレートコスモス」を読みました。
えぇぇ、重なったお話しじゃないか、同じシチュエーションのお話しじゃないか、と混乱しました。
読んでいるうち
中庭にて、旅人たち、『中庭の出来事』
このみっつのお話しが、別々のお話しが語られているのだと理解できます。
とりわけ、『中庭の出来事』は戯曲、台本の形式なので、事態を飲み込むのに苦労します。
このあたりは、「チョコレートコスモス」と同じ手法です。
みっつのお話しが同時並行して進んで行くのだから、主人公が誰なのか、どこかポイントなのか、わけがわからなくなってきます。
中庭にて、ここでは脚本家が中庭で死ぬということが起こります。
『中庭の出来事』、ここは刑事の取調べが演劇として表現されていて、容疑者それぞれが演技をし、戯曲の格好で採録されております。
旅人たち、これがもひとつ理解できない。
廃墟を劇場として再利用しているものらしい。そこで、脚本家が死ぬ場面を演劇として再現するものらしい。
最後に、みっつのお話しを総合しての謎解きがあるが、はぁぁ、納得できるような、納得できないような
ゆめまぼろしのお話しを読んでいるようで、ページをめくりはするが、理解するのは放棄して、読んで積み重ねるのをやめました。
初出は、ケータイ小説なんだそうです。
本になっても理解はおぼろ、ケータイのあの小さなモニターでよくまぁ内容が理解できたもんだと感心しています。
お奨めかって?
嵌る人にはどんぴしゃりで嵌るでしょうが
万人向けとは言えないでしょうね。

2008年3月23日 (日)

TOKAGE(トカゲ)

「TOKAGE(トカゲ)」今野敏 朝日新聞社
いまや警察小説の巨匠になった今野敏の小説です。
副題に特殊遊撃捜査隊とあるように、題名のトカゲとは、警視庁本庁で特殊犯捜査係に所属し、大型バイクに乗って機動的に捜査追跡するのが職務となります。
誘拐があって身代金の要求がありました。
誘拐されたのは銀行員三名、十億円の身代金が銀行に要求されました。
銀行が対象ということは、過去の融資、貸しはがし、銀行内部の上下関係、いろんなところでちょろちょろと浮かんで出るものがあります。
オートバイを使う捜査員、そんな組織が存在するかどうか、そこは問わないことにします。
仮にあったとしたら、かなりリアリティをもって書き上げてあります。
マルボウや、シャブの取り締まり、おきまりのお話しから離れて、ここまでお話しを組み立てた腕に感服しました。

2008年3月21日 (金)

チョコレートコスモス

「チョコレートコスモス」恩田陸 毎日新聞社
題名のチョコレートコスモスは、お話しのキーワードではありません。
何か意味があるのかと構えて読む必要はありません。
端的に言ってしまうと、演劇のキャスティングをするのにオーディションをします。
そのオーディションの一部始終がお話しです。
第一次オーディションでは、サキの脚本
サキとは何者か、そんなの知らなくてもよろしい、サキに問題があるのではなく、その取り扱いにシカケがあるのです。
登場人物は3人、それを2人でやる。そこを役者がどう演じきるかでオーディションの当落が決まります。
そして、二次審査
テネシー・ウィリアムズの欲望という名の電車
この脚本の一部を演じるわけです。
ヒロインがひとり舞台にいる、そのヒロイン=ブランチの影を演じるように、これをどう演じるかでオーディションの勝ち抜きが決まります。
一次審査、二次審査、同じ場面が繰り返し出ますが、当然、オーディションを受ける役者は違うので、それぞれの解釈で舞台は違います。
同じ場面をこのように繰り返し繰り返ししながら別の解釈が繰り出せる、作者の腕に感服してしまいます。
だれがオーディションを勝ち抜いたか、それは止めときましょう。
サンデー毎日に連載の小説でした。
かなり高級の内容なんです。週刊誌の読者層とは相当高級なのだな、と認識をあらためました。
読み終えてすぐ、もう一度読み直してみたくなります。
事態が解っているうえでもう一度読みたい、こんな衝動が起きるものはなかなかあるもんじゃありませんよ。

2008年3月 5日 (水)

若冲の目

「若冲の目」黒川創 講談社
てっきり、若冲の史伝かだろうと手に取りましたが
心象風景のような作品で、面食らいました。
鶏の目、猫の目、文芸誌群像で発表された作品でした。
純文学かぁ。
歯が立たない対象と取り組んだらしい、そりゃ理解できんわ。
若冲とは、幕末手前の頃の京都の画家です。
奇怪な画風で有名です。
鶏の目のほうでは、若冲の家系図が問題にされます。
裕福な商家の旦那なのに、弟に店を譲って画業に専念します。
ふんふん、これは史伝だ、若冲の生涯を探るお話しかいなと思ったら
後年、若冲の生涯、家の過去帳を探ったひとがいたんですね。
興味は、その探ったひとのほうへ移って行きます。
飲み込みにくい話しなんだが、二つの家系があります。
養子に入って二つの家系が融合してしまいます。
それで、そのひとが先祖の若冲を探り始める、とこういうお話しの展開です。
で、猫の目、若冲について夏目漱石が触れているのだそうです。
我輩は猫であるの猫、若冲は鶏の絵はたくさん残してあるが、猫を画材にはしなかったようです。
で、ここに出る猫とは、漱石の猫なんですね。
漱石の日記などが挟み込まれているが、なんのことやら、ページをめくって読み飛ばしてしまいました。

もっと真っ直ぐに若冲を描いているだろう、いいえ、全然。
若冲を使って心象風景を書いているらしいのですが、何だろう、伝わってきません。

2008年2月25日 (月)

任侠学園

「任侠学園」今野敏 実業之日本社
警察小説で売り出しの今野敏です。
こんなジャンルも料理してしまうとはびっくりです。
少子化現象で私立高校の経営が危うくなってきました。
経営建て直しに理事総とっかえ、ヤクザの組長以下代貸手下そろって理事に就任します。
高校に入ってみれば、生徒は無気力だは、ガラスは破れているは、ゴミは散らかし放題だは
こりゃぁ潰れるのも間近だなぁ。
これじゃぁいけないっちゅうわけで
ヤクザ的に生徒を愛し、そう、その愛し方っちゅうのがヤクザの真骨頂なんですね。
ヤクザが正義派なんですよ。
展開がはちゃめちゃで、こんなゆるいお話しの運びは大好き
タイムパッシングには最適です。

Hello,CEO.

「Hello,CEO.」幸田真音 光文社
毎度毎度、ビジネス分野で新しい何物かを展開してくれるもんですが
今回は、ゆるく、たのしく、あんまり突き詰めないようにして読んでいきましょう。
アメックスとよく似たようなカード会社があります。
そこで、リストラが始まります。
最初に機構改革で部長連中を排除します。
次は、希望退職募集で、優秀な人材が去っていきます。
去ったメンバーが集まって何かできることはないか。
ここからがメッコつけるところなんですが
ベンチャービジネスはこのようにして興すのだよ
いったん火が付いたベンチャービジネスはこれほど燃え盛っていくのだよ
新しいカード会社を興そう
大学の研究をビジネス化するのに資金を提供するファンドを取り持とう
とんとん拍子に進んで行く事業のお話しというのは気持ちのええもんですねぇ。
悪人がいない、苦境に陥る局面がない
ハッピーハッピーベリハッピーのお話しです。
よく、景気解説や株式の評論でひたすら上昇ムードの本があるでしょ
まぁ、そのテの解説書と似たり寄ったり、楽ぅに読めます。
気分が落ち込んでいるひとが読むと、人生に希望が持てますよ、なんちゃって

あしたはドロミテを歩こう

「あしたはドロミテを歩こう」角田光代 岩波書店
サブタイトルがイタリア・アルプス・トレッキング
NHKのBS放送にトレッキングエッセイ紀行ちゅうのがありました。
番組を見ていたのを思い出します。
道が滝の裏にある写真、これを見てTVでも見ていたぞ、と思い出しました。
○ハワイでのトレッキング、こんなロングコースがあるのかと驚きました。
○アメリカのグランドキャニオン、スタートから底へ降りて登って来るコースでした。
○バリ島キンタマーニ高原、体力不足でついに登れずの結末。
○台湾の玉山、行きたい山だから真剣に見ていました。
ほかにもあるが、忘れてしまいました。
NHKと岩波書店のタイアップちゅうか、コラボレーションちゅうか、山と渓谷社ならともかく、こんな組み合わせには面食らいます。
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晴れていれば小屋からトレ・チーメが見える。
私にはグロテスクで、ひどく奇妙に見えた岩峰を、毎日見てるってどんな気分なんだろう。そう訊くと
「毎年、毎日見ても全然飽きない。きれいだなあと思うんだ」
とさりげなく答えた。
「ここに住んで五年になるけど、五年間ずっと思っているよ。きれいだなあって」
「山には登ったりもするんですか」私は訊いた。
「もちろん。去年は犬を連れていったよ」
と、部屋の隅にうずくまる犬を指してサンドロさんは言う。
「犬も?犬も喜んで山に登るんですか」
山好きの主人だと、犬も山好きになるんだろうか。しかし、サンドロさんは苦笑した。
「そりゃあ喜んじゃいないよ。でも連れていかれたら、行くしかないよ、犬としては」
私は犬に親近感を覚えた。そうそう、そうなんだよねえ、連れていかれたらいくしかないんだよねえ、帰るにはひたすら歩くしかないんだよね、犬は四肢を伸ばして眠っている。
よかった、あんたも帰ってこられて。
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ここからの登り道は、とたんに険しく、歩きにくくなる。
入り組んだ岩のあいだを、体をねじこむようにして歩き、右手に岩がなくなったと思いきや、断崖絶壁である。
ところどころ道は消え、マリオさんがいくつも足跡をつけ道を作ってくれる。
道のない岩場が続き、ロッククライミングのごとく、両手両足で岩を手さぐりでつかみ、よじのぼる道にさしかかったときは、「これはひょっとして帰れないかもしれない」と内々で思った。
それは一日目に感じた恐怖とまったく違う。
一日目は、「歩かなくてはどうしょうもない」という恐怖だったが、この山は、「歩くと災難が待ちかまえているのでは」という生々しい恐怖である。
-----------
このNHKの番組の企画では、ベテランが歩くのではないのですよ。
ずぶの素人がトレッキングをする、筆が達者である、これが条件なんです。
おかげで、ドロミテがどんなところか、伝わってくるし、いつかは自分でも歩いてみたくなる、そんな気分になってきます。

2008年2月24日 (日)

我的中国

「我的中国」リービ英雄 岩波書店
われてきちゅうごく、とフリガナの本なんです。
著者について、なんとなく、日系二世三世かハーフなんだろうと思い込んでいました。
読み進むうち、違うぞ、これは。
ネット検索で、東欧系のアメリカ人の息子で、父親が外交官なので日本中国に多く赴任し、日本語北京語に馴染んでいて、今は日本に居住し、日本の大学教授で、日本語で小説を書く、そんな人物だとわかりました。
これは1990年代、本人の年齢は50代、子供のころから一足飛びに時代をおいて、中国の各地を歩くお話しです。
西安、洛陽、開封、現代の都市を歩いているのだが、歴史の栄華の時代を探して歩く。
延安を歩くと、毛沢東の生活を偲んでいる。
北京の胡同(フートン)を歩いて、子供の頃のそれと、数年前のそれと、変化する姿に驚く。
読んでいてまごつくのは、著者の話では、日本語で観察し考えている、そう言っているのです。
2001年9月11日にニューヨークで起こったテロでは、カナダ経由でアメリカに向かう途中で、事件を知って、日本語ではものを考えられなかった、と書いてある。
ふぅむ、そういう人なんだ。
日本語で考え、北京語で受け答えができ、北京語が通用しない奥地を旅行する、ええなぁ、うらやましい。

2008年2月18日 (月)

乱調

「乱調」藤田宜永 講談社
ひょっとして、わたしの好みではないかも、と思っていましたが、案の定、あたり、この小説は好きではありません。
東京行きの往復で、暇つぶしに用意した本です。
子供が幼いころ離婚した、今はパリに住んでおります。
その息子は、成長して、ロッカーになって売れて、自殺した。
パリから東京へ出かけた折に、息子の自殺の原因を探すことにした。
息子が住んでいた部屋に、女子高校生が部屋を借りて住み着いている。
どうやら彼女と息子とは普通の関係ではなかったような。
成り行きで、その女の子と一線を越えてしまった。
こりゃぁこの先人生がメチャクチャになる話になるだろうな。
しばらくは、読み続ける気がしなくなってほったらかしにしていました。
まぁ、三分の二までは読んだのだから、なんとか最後まで読むとしようか。
ぐちゃぐちゃめちゃめちゃの終わりになります。
そもそも、こんな本は読まなきゃよかった。
上昇志向のお話しなら気持ちがええのだが、地下の暗闇へ降りて行くようなお話しなんです。

2008年2月11日 (月)

剣客同心

「剣客同心」鳥羽亮 角川春樹事務所
出世作が剣の道殺人事件、昔々読んだ本で、学校の剣道部での殺人事件だったのだろうと思います。
著者自身も剣道の達人なので、剣豪・剣客を題材にして、そっち方面が多くなるのは、ま、当然です。
お話しの筋立てをここで語ってもしょうがないでしょう。
剣客+同心、これでお話しの眼目は尽きています。
むちゃくちゃ強い暗殺者と向き合うことになります。
どうして勝つか、工夫を重ねて、対戦して、勝つまでの描写を味わうのがひとつ
奉行所には、与力、同心と位階があるのですね。
同心は一代抱えで、相続はできない。
相続はできないが、親が身を引くことで子を推挙してもらうようにできております。
剣豪小説と捕り物帳、両方のええとこが融合したもので、楽ぅに読んでいけばええお話しです。

2008年2月 9日 (土)

俳風三麗花

「俳風三麗花」三田完 文芸春秋
句会に集まるのは、中年から初老のおじさんばっかりなんですがね
三麗花とあるように、三人の若い女性が句会に参加するようになります。
良家のお嬢さん、女子医専の医学生、浅草の芸者、この三人です。
この三人の身辺雑記が章ごとに展開していきます。
--------------
「では、本日の席題を-------」
気分を変えるように先生がつぶやき、卓上の大硯に筆を浸した。
半紙にさらさらと楷書をしるす。
 席題 端居 守宮
 投句 各一句
 〆切 二時
 選句 三句(うち天一句)
暮憂先生は立ち上がって、半紙を襖の鴨居に鋲で刺した。
「端居」とは(はしい)、暑い季節に縁側で涼をとることである。
「守宮」とは(やもり)、よく家の壁にじっとはりついている爬虫類だ。
--------------
時代は昭和初期、満州国の建国を非難され、国際連盟を脱退した時代のお話なんです。
戦争の兆しはあっても、まだまだ、のんびりしたころのお話です。
ほれたはれたとか、だましただまされた、とか、殺すの叩くの、といった切迫した場面が全然出てこないのもええもんです。
--------------
つぎに句座は清記と呼ばれる作業に進む。
合計十四枚の短冊をトランプを切るように順不同にし、全句を清記の担当者があらためて半紙にかきうつす。
清記することによって、だれがどの句を作ったのか筆跡で判断できなくなる。
その上で清記された句を互選をしていくのである。
(中略)
三句のなかで一番傑作と思うものを<天>とする。
ちゑは迷わず「守宮いて------」の句の上に<天>と書き入れた。
(中略)
各人が選んだ句を読み上げることを披講という。
だれがどの句を選んだか、その句はだれの作品かが、この場ではじめて明らかになる。
暮憂庵の句会で朗々と披講をおこなうのは、男性の中で一番若くて声のいい政雄さんの役目である。
(中略)
「最初にわたくし、政雄の選からご披露申し上げます。
端居どき主ゐぬ部屋払う笑ひ声」
「銀渓」
すかさず大きな声で名乗りをあげた銀渓さんの声に一座の面々は各様の反応を見せる。
--------------
このあと、もう一句と天の句が披露される、こんな段取りです。
句会の様子など知らないので新鮮でした。
思えば、奈良県曽爾村の屏風岩で、句会の一行が吟行しているのに出会ったことを思い出します。
ははぁ、その後はこんな様子で、披講・選評したのだろうなと想像します。

2008年2月 6日 (水)

図書館革命

「図書館革命」有川浩 メディアワークス
まいどおなじみ、図書館シリーズの4冊目です。
「図書館戦争」「図書館内乱」「図書館危機」に続くものです。
この巻で完結して、もうこれ以上お話しは続かないようです。それは残念。
メディア良化委員会というのがあって、メディア言論の検閲をして、武装して強制しています。
対抗して、図書館防衛隊という組織が出来て、ここも武装して、検閲から著作を守る仕事をしております。
原子力発電所が襲撃される事件がありました。
原発を襲撃する小説があって、テロリストの教科書を出版したということで、執筆停止、拘束することを良化委員会は手配します。
憲法で既定されている表現の自由を守るため、図書館防衛隊は著者を護ることに懸命になります。
訴訟は、地裁で負け、高裁で負け、最高裁でも負けてしまいます。
亡命を試みて、防衛隊はその手助けをすることになります。
その攻防戦は、いやぁ、すごいのなんの。
結局、亡命は成功して、言論封殺のファシズムだと世界の非難を浴びます。
これにより、良化委員会は縮小し、対抗組織の防衛隊も縮小していきます。

お話しからは逸れることなんですが、なかのやりとりで
小説のスジを追うのが普通だろう
いいや、わたしはキャラを追いかけるの、スジはともかく、キャラがステキでその一瞬一瞬がきらめいていればいいの
なるほどね、そんな読み方もあるよねぇ。

焼刃のにおい

「焼刃のにおい」津本陽 光文社
やいばのにおい、と読むんです。
幕末の紀州藩で、寺の住職が浜の人足などの地下(じげ)の人間を集めて軍隊を組織した。
侍が頼りにならないから、別働隊を作ったわけです。
法福寺隊と呼ばれています。
塩田の人足の通称チャモ、長右衛門も応募して入隊します。
剣戟の稽古を繰り返しますが、このへんのお話しが大好きです。
上昇志向の若者が一生懸命になる姿はええもんですよね。
段々と腕を上げて、頭角を示してくるようになります。
こんなのんびりしたお話しがこの小説の眼目ではないのです。
紀州藩というと、徳川御三家、幕府を補佐する立場で、倒幕派に立ち向かって行かねばなりません。
長州征伐で働き、新撰組と共同作戦で浪士を狩り、隊の働きは血まみれになっていきます。
長崎へ軍艦を航海し、長崎の警備として船に乗り込みます。
途中で、衝突して相手の船が沈んでしまいます。
一方的に相手方に落ち度があるのに、難癖をつけて賠償を求めてきます。
相手方の船長は才谷梅太郎、坂本竜馬の変名です。
交渉に負けて賠償を約束しました。
坂本竜馬を暗殺しに京へ上ります。
暗殺に成功しました。
とまぁ、こんなお話し。
地稽古で強くなるお話し、戦場で鉄砲を撃ちあったり斬りあったり、こんなお話しは、若者の成長のお話しとして、笑顔で読んでいけるお話しです。
幕府を守るために、暗殺掃討を続ける、このあたりになると、文字は追ってはいますよ、同意同感して高揚感がある、それとはまったく反対のことを考えながら読んでおります。
紀州の人物は全員和歌山弁を使い、土佐、薩摩、それぞれ、お国の言葉で語っております。
それだけにねぇ、人物はひとりひとり粒だっているのにねぇ。

2008年2月 3日 (日)

膠着

「膠着」今野敏 中央公論新社
今野敏て、警察小説だけじゃなかったんだな。
糊のメーカーです。主人公は新入社員。
お話しの段取りは
開発中の新しい接着剤が失敗してしまいました。
折りしも、3Mらしき外国の巨大メーカーからTOBを仕掛けられてしまいます。
失敗したプロジェクトを救い出すため、限られたメンバーが招集され、対策会議に、もののはずみで、その新入社員も召集されます。
膠着とは、会議がまるで進展しない状態のことでもあり、糊のメーカーだから、商品の本質でもある、こういうことかな。
どう解決するか、したか、これは伝えてはいけないでしょうね。
映画評論なんかでも、どんでんがえしはゼッタイに伝えないものね。
今野敏の○○署××班などでは、話しの運びにキレがあって、スピーディなのに
このサラリーマンものでは、えらくゆるいのですよ。
サラリーマンもので、キレがあってギスギスしていれば、読み続ける気にもなりません。
逆に、水戸黄門のテレビドラマのように、予定調和で丸く収まってしまうのも、ノーストレスでええ方法かもしれません。
糊や接着剤に詳しすぎるぞ、今野敏、この業界でサラリーマンやっていたのかしら。
でも、○○署××班の流れで読んでくると、異色でヘン、別の作家のお話しみたい。

2008年1月30日 (水)

半夏生

「半夏生」今野敏 角川春樹事務所
サブタイトルに、東京臨海署安積班
やはり、今野敏は刑事ものでないと面白くない。
お台場の片隅で、アラブ人が倒れた。病院に収容されたあと、死亡した。
バイオテロに可能性があるということで、内閣総理大臣を頂点とするテロ対策本部が設置された。
臨海署には、現地本部が設置されて、公安からキャリアの警視が指揮を取りにきた。
今度は、人物像はちゃんと書き分けられているのですよ。
ひとりひとり、粒だっていて、それぞれの所作行動がちゃんとわかる。
---------------
「半分ですか?」
安積が言うと、岸辺はまた無邪気な笑顔を見せた。
「そう、私は半分は本音で行きたい。そう思っています。本当にこの国のことを思っているキャリアがいるということも、知っておいていただきたかった。今回も本音を話し合える人が必要だった。それが、あなただったのです」
「買いかぶりですよ」
「いえ、噂は嘘ではなかったと、私は確信しました。あなたは、評価に値すべき警察官です」
「評価すべきは、私ではありません」
安積は言った。「私の優秀な部下たちです」
岸辺は安積を見つめたまま言った。
「私も、そういうことを言ってみたいものです」
---------------
警察ものは、どろどろした展開のお話しが多いものだが、すがすがしいええお話しです。

2008年1月29日 (火)

パラレル

「パラレル」今野敏 中央公論新社
今野敏、警察ものを書いて、マル暴班のどろくさいお話しが多いので、そのシリーズと思いましたが
ちょっと毛色が違いました。
少年犯罪に怒り狂ったひとびとがいます。
少年法で保護されているので、直接、懲罰を与える、という手段をとるひとびとがいます。
そのへんの事情、動機は理解できなくもありません。
ところが
「亡者」を祓う「鬼道衆」と呼ばれるお祓い師
「外道」を祓う「奥州勢」と呼ばれるお祓い師
「役小角」が転生してきた高校生
こんな、なんでもこいのトランプのジョーカーのような助っ人が迎え撃つわけです。
犯罪者側は、強力な亡者で次々と引き込んで亡者に変えて、悪たれ少年どもを殺していきます。
こんな状況、場面設定では共感するもへちまもあったもんじゃありません。
劇画のシナリオ、アニメのシナリオのように、なんぼ荒唐無稽でもええ、繰り出す場面場面が目新しいか、目を惹くか、そこを頑張っております。
人物の書き分け、善玉と悪玉の区別はありますよ。
善玉のなかで、そのそれぞれがどうかっちゅうのははっきりしない。
ほれ込みたい人物が出てこないもの。

2008年1月26日 (土)

逆風の街

「逆風の街」今野敏 徳間書店
サブタイトル、横浜みなとみらい署暴力犯係
マル暴の刑事の班なんですがね
印刷屋へのキリトリ、借金の返済の催促でヤクザが絡んできた。
絡んだヤクザを追ううちに、そのヤクザは警察の潜入捜査官だと判ってきた。
ヤクザのやり口は許せないし、潜入捜査官を保護しない上層部のやり口はもっと腹が立つ。
すったもんだ、あれやこれやとありますが
どんなに緊迫しても、これ以上は読む続けられない、という切迫感はありません。
火曜サスペンス劇場、土曜ミステリーをテレビで見ているように、あっちの世界のお話として、筋立てを楽しんでいられます。
主人公に感情移入しすぎて、もうこれ以上読み続けられないと、本を閉じたことがなんべんあったことか。
とんとんとんと、スムーズに読み進むことができる、これもひとつの評価ポイントです。

2008年1月25日 (金)

遊戯

「遊戯」藤原伊織 講談社
短編の連作なんですよ。
男は人材派遣会社のスタッフ
女は最初と終わりでは職業が違ってきています。
そもそも、知り合ったのはネットでの通信ゲームなんですね。
チャットでの、言葉遣い息遣いで、信用できるところがあると、ネットからオフで会うことになります。
人材派遣に登録して働くこと
モデル登録してあって、CMのモデルとしてデビューすること
それぞれの両親に出来事があって、女の父親が再婚することになり、再婚の相手と対面すること
通行のすれ違いで恨みを買い、ネットに侵入されて、パスワードIDログを奪われ、ウィルスを仕掛けられること
短編のひとつひとつに、そんな事件がひとつづつ綴られています。
連作短編を5篇発表したところで、著者は死亡してしまいました。
主人公たちの周辺の事情が明らかになり、これから対立軸のストーカーの姿が明らかになる前に、この連作は未完に終わってしまいました。
布石が興味深いだけに、この先の展開がどうなるか、残念なことでした。

2008年1月 6日 (日)

君たちに明日はない

「君たちに明日はない」垣根涼介 新潮文庫
「ゆりかごで眠れ」で見つけた垣根涼介なんですが
そっちの路線とはずいぶんと離れた作品です。
首切りのお話しなんですよ
自社の人事部で首切りするのではなく、アウトソーシングして外部に首切りを委託する、こんなシカケでお話しは進みます。
5篇の中篇、それぞれの首切りのお話しがあります。
一番納得できるのは、高度成長期にはブルドーザのように業績をあげたが、景気が縮小してくると、今までの行け行けどんどんでは対応できない男
退職に応じたが、街頭で出あって拳をくらわす
こんな例はあるだろうなと身につまされるものがあります。
身につまされるのは首切られた側かい?
首切られたほうにも同情するが、首切り宣告する側にも感情移入してしまうよ。
もちろん、救いの場面もあります。
上司に嫌われて浮かばれない、首切りコースで流れるはずが、スカウトの手が伸びる場合があったり
退職する前にこの仕事だけは完成させておきたい、これが業界で好評で、業界団体の局長に迎えられたり
大部分は首切りのあと、どこかへ流れて行くんですよ。
同情したいひとが大部分なんだけど、そのひとびとはどうなるのでしょうね。
それは別のお話し、ここでは、首を切られるか、どう防ぐか、これがお話しの流れです。
暗いお話しなのに、読後感は爽やかなのです。
読まなきゃよかった、と沈殿物が残るような、数々の愚作とは別の代物です。

デフォルト

「デフォルト」相場英雄 角川文庫
デフォルトには副題があって、債務不履行、PC業界での意味の工場出荷状態とは違います。

東北地方に地方銀行があります。
乱脈経営で、倒産しそうになっております。
政治家に献金したり、不正融資したり、倒産時にそれがばれないように工作する必要があります。

これが裏事情です。
この流れのもとに、日本銀行と金融担当大臣と吸収を引き受ける大手銀行がスクラムを組んで偽装工作が始まります。
追求する新聞記者をデスクに上げてくち封じしたり、ファンドマネージャーに脅しをかけたり、証券エコノミストに子会社に転勤を命じたり、裏工作が行われます。
エコノミストは絶望のあまり、大臣宅前で自殺してしまいます。
ある酒場で呑み友達でした。
復讐を誓って、日本銀行を嵌めることにしました。
その地銀が行き詰って大手に吸収されるその日に、爆弾を仕掛けることにしました。
円やドル・ユーロなどの主要通貨は協定が結ばれていて、資金供給に漏れはありません。
目を付けたのが、フィリピンペソ、ちょうどその日が債権の償還日です。
事前にペソを掻き集めて、市中にペソ資金が枯渇している情勢を作りました。
なんぼ弱小単位のデフォルトでも、デフォルトを起こすことは中央銀行として世界に顔向けできないことです。
まんまと成功し、1000%の金利でも応じなければしょうがない状態に追い込みます。

これでは悪人が悪人どもの上前をはねる、というお話しに過ぎませんが
日銀OBにも正義の士はいます。
日銀OBのサジェスチョンがあってればこそ、破綻を取り繕う段取りが明らかになります。
彼を通じて、検察庁特捜部にスキーム一切が届けられます。
これにより、日銀、政界の悪事が明らかになり、天罰応報、それぞれに処分が下されます。

まぁ、そんなお話し、惚れた腫れたでどきどきしたり、そんなお話しはありませんが、お話しの段取りそのもので惹きつけていく、とても上等のストーリーテリングです。

2008年1月 5日 (土)

夢見る黄金地球儀

「夢見る黄金地球儀」海堂尊 東京創元社
この作者には惚れ込んでいるんですが、ちょっと評価が揺らぎました。
東城大学医学部付属病院での愚痴外来田口&厚生労働省の役人白鳥
このコンビのユニークさに踊らされたものかと考え直しています。

各市町村に一億円ばらまいて、町おこしをせい、という政策がありました。
一億円を金に替えて、地球儀に仕込んだ自治体がありました。
時を経て、その金を盗もうか、という話しが起き上がってきます。
対抗で、ガードシステムに町工場が当局から絡め取られていきます。

ここまでのお話しの展開に三分の二かかっております。
テンポがゆるいので、何度読むのを投げ出そうかと思ったことでした。
この後の展開は息も吐かせぬ早業です。
あれよあれよとどんでん返しが繰り広げられます。
どんなどんでん返し?
それを言っちゃぁルール違反でしょう。

盗もうと持ちかけられた町工場の専務に、当局からガードを依頼されるわけです。
よぅし、盗んでやる、証拠も残さないで、ガードし通したようにみせかけてやる。
無理があるところを、無理を無理でなくし通すのが筆のちからなんですねぇ。
状況の設定なんですねぇ。

ただね、主人公の魅力には欠ける、チーム・バチスタ手術の田口&白鳥ほどのコンビを越える主人公を造るのは並大抵のことではないね。
三分の二まではガマンして読んでちょうだい、残り三分の一で爽快なカタルシスが待っております。

2008年1月 3日 (木)

千人同心

「千人同心」もりたなるお 講談社
甲斐の武田家は国境の七つの入り口に警備の役目として小人(こびと)を置いていた。
武田家が滅亡してのち、八王子に武田家の小人を移して、警備の役目を与えた。
始めは500人規模、その後、拡大して1000人規模になった。
これが千人同心のいわれである。

これが史実、ここにお話しがからまってくるわけです。
信玄の側室の娘の松姫は武田家滅亡のさい、北條を頼って、八王子まで逃げ延びてきます。
そのさい、国境警備の小人、十太は姫を助けるように命じられて、一緒に八王子まで供をすることになります。
八王子には、大久保長安がいて、企みを練っております。
姫の一行の願いは武田家の再興
大久保長安は武田家の旧臣ではあるが、今は徳川家康に従属していて、金山奉行、関東奉行、街道奉行として、文治家としての才能を買われています。
腹の底は、徳川家に代わって幕府を支配するのが狙いです。
八王子に小人同心を置いたが、長安の私兵か幕府の軍制のなかか、あいまいなものがあります。
十太は、小人同心に組み込まれ、総支配の大久保長安の狙いと軍制が食い違っているのに気が付きます。
家康だって馬鹿ではありません、長安の能吏の部分だけ吸い出して、謀反にはじゅうぶんに備えております。

とまぁ、そんなこんなで、八王子の千人同心は幕末まで続きました。
形は屯田兵、半士半農、組頭は旗本でも、平同心は百姓と同じのようですね。

伝奇小説で、もっともっと虹と毒を吐けば面白かったのに、史実に負けて、大きな嘘がつけなかった。
へぇぇ、ほぉぉ、のトリビア度はもひとつ少ない。
家康の関東統治作戦などが見えて、そこそこに、なるほど、と頷く部分はあちこちにあります。

2008年1月 2日 (水)

ゆりかごで眠れ

「ゆりかごで眠れ」垣根涼介 中央公論新社
いやぁ、参ったな。小説のジャンルはピカレスクです。
ここはコロンビア、日系人の入植者の村なんですが
荘園の私兵に襲撃されて、両親とも亡くなってしまいます。
同じ村の寡婦に、畑も一緒に、ということで養ってもらうことになります。
何度も私兵の略奪があるので、村を棄て、街に出ることになります。
コロンビアはコカインの生産地、そのコカインで扱う新しいカルテルを結成することになります。
少年から青年の時代で、旧来のメデリン・カルテルやカリ・カルテルと接触しない、新しいコカインの組織を結成する、そのあたりのお話しが目新しいです。
販路である消費地の管理が大事になってきます。
旧カルテルの縄張りのアメリカやヨーロッパを避けると、新しい販路は日本です。
販路開拓に日本に何度も出かけることになります。
連合体の中でも、油断がならない。手下が警察に捕まります。
これは、カルテルのメンバー密告によるものです。
当然、粛清があります。
身内の面倒はとことん見る。警察から奪還を図ります。
大量の銃器、爆弾で、警察を襲撃し、留置場から奪還してしまいます。

ストーリーは、段取りとしてはこんなもんです。
人物設定がユニークです。
南米のラティーノなんだが、本質は日本人
幼いときに孤児になって、カルテルの抗争で、養い親も殺されてしまいます。
通りすがりのみなしごに、みなしごらしからぬ希望の芽をみつけて、成り行きで、養女にします。
刑事で、コカイン中毒になったやつも登場します。

基本的には、全部成功するのだが、足をすくわれることがあって、刃物で刺されて死んでしまうことになります。
ピカレスク小説なんだが、悪が栄えて万々歳ではまずいんでしょうね。
そこはバランスを取って、社会の規範に照らしている。

それでも、この悪人、とっても魅力的なんですよ。

2007年12月29日 (土)

塩の街(ハードカバー版)

「塩の街」(ハードカバー版) 有川浩 メディアワークス
以前、8月に電撃文庫版で読んだものです。
その後、その前後篇の雑誌連載があって、文庫版と融合してハードカバー版として世に出たものです。
あとがきを見ると面白い。
文庫版では、編集者からの要請があって、売らんがために人物の年齢を変えたり、ここは譲れないと抵抗したり、戦闘シーンを付け加えたり
いろいろあったんだそうです。
ハードカバー版で出すにあたって、本来の構想に戻して書き直し、前後のエピソードを融合させたものなのだそうです。
そのエピソードで、一番お気に入りは、武器の三曹と通信の三曹、武器が女で通信が男です。
ふたりが結ばれるいきさつが面白い。いや、いじらしい。
事件全体は、塩が宇宙から降って来る、という悲劇ですが
片隅の明るい未来を語っているので、ハッピ-エンドです。

2007年12月12日 (水)

大江戸人情花火

「大江戸人情花火」稲葉稔 講談社
打ち上げ花火をほめるのは、鍵屋、玉屋のかけ声と決まっています。
そこのところに注目して、花火師の世界のお話しを作ったものです。
鍵屋の手代で職人に、おまえ、暖簾分けしてやろう、事情があってねぇ、息のかかった花火屋がもう一軒ないと、お上から目を付けられるのだよ。
この降って湧いたお話しには裏があります。
さらに、その裏があります。
それはともかく、新しい店はなんとか頑張らなくちゃならない。
危うく潰れる寸前のところです。
ちょうどうまいことに大店を退職隠居した番頭が働いてくれることになりました。
そこから、店が盛り返し、隆盛になっていくところは、読んでいても気持ちがええ。
大店の旦那になると、浮気のムシが湧いてくるものなんですね。
このあたりは読んでも読みづらいし、おかみさんに同情が湧いて、ページを飛ばして、先へ進みたくなるところです。
子供に事故があって、浮気も終わり。
本家の鍵屋を越えて、玉屋の評判が上になっていきます。
玉屋が出火しました。
花火屋が火事を出しては、所払いの処分は止むを得ません。
ほんとは、玉屋の職人がねたんで、放火したものなのです。
そこは黙って処分を受ける、ま、そんな結末です。

似たようなお話しの運びに、山本一力の一連のシリーズがあります。
どう違うか、山本一力の作品には悲劇はないのです。
常に、終わりには、将来は洋々として希望を持って本をたたんで置けます。
これは悲劇で終わる。
歴史では、玉屋は鍵屋から分家して、出火して廃業する、その事実が残っているから、仕方が無いことです。
稲葉稔が悪いわけじゃない。
鍵屋は、今でも存続して、花火を作っているのだそうです。

2007年12月10日 (月)

エスピオナージ

「エスピオナージ」麻生幾 幻冬社
今まで読んだ中に、「ZERO」「CO」などがあります。
ひたすらスパイや公安の世界を書き続けるひとなんですね。
戦いを挑むのは警察公安部、ロシアが相手です。
お話しの発端、ロシアのスパイの情報交換現場を押さえました。
これが端緒、モスクワから大物がやってくると情報に接します。
当然、その大物スパイと公安部の丁々発止のやりとりを期待しますよね。
彼は出没を繰り返すだけで、運営している手先と接触する気配がありません。
これはダミーでした。
日本人パスポートを持っている人物、これがキーマンです。
この男、モスクワで佐官級で、スパイ組織のだいぶ高位にいるもののようです。
この男、最後まで姿を現すことがない。
ほんとは、日本人なんか、朝鮮人なのか、正体不明です。
どうやら、身寄りのない身体障害者を拉致して、殺して、成りすました気配が濃厚です。
幽霊のような人物だが、影を示すだけで姿を現すことが無い。
公安の対象は、その幽霊が運営しているスパイに向けられます。

こうして、お話しをなぞっているうちに、お話しの行方はどういうことだったかな。
公安はロシアのスパイ組織を摘発したのだろうか。
幽霊を確保していないのだから、またスパイ組織は再建されるのだろうか。

いやぁ、公安の勤務とは大変なものですね。
監視し、摘発に至るまでの、もろもろのどろどろは、いや、もう大変。
若いころ、街を歩いていて職務質問を受けたことがある。
えらく威圧的だったが、あれは粗暴すぎるね、公安の職質ではないだろうな。
シャブの生活安全部かヤクザ相手のマルボウ、その職質なんだろうが、シャブともヤクザとも関係おまへん、ただただびっくりする職務質問でした。

この本、分厚い本なのに、一挙に読めてしまいました。
当然、お話しが面白いから。
もうひとつ、理由があります。
香港のホテルに泊まりましたが、テレビが英語か中国語なんです。
去年も香港のホテルでテレビでは難儀したので、今回は、本をザックに詰めて行きました。
理解できないテレビと向き合うより、本を持っていったほうが、はるかに賢いです。

2007年12月 8日 (土)

漁師志願!

「漁師志願!」山下篤 新潮社
漁師が年取ったので、アルバイト募集をスポーツ新聞に掲載したんですよ。
反応はけっこうあって、若者ふたりが選考されました。
かたっぽ、アルバイトを転々として、競艇に入れ込んでいる若者
もうかたっぽ、寿司屋の職人だが、先輩のいじめで気分を変えるため魚を取るほうに回りたい若者
あまりやる気のないようにみえるが、けっこう、人生を見つめる転機に来ているのですね。
途中で、30台半ばで入り婿状態、家庭から袖にされそうなおっさんも転がり込んでくる
漁師といっても、仕事は養殖、鯛の養殖ですね。
頼りない若者、おっさんと馬鹿にしたもんでもないよ。
競艇狂いの若者は船舶免許を取ろうと志し
すし職人は、魚は天然ものが一番という職業上の信念がゆらいできて、養殖ものをなんとか寿司で扱えないものだろうかと考える。
漁師の親方は、あと3年で漁業権を漁業組合に売ろうと考えている。
ヨットマリーナを経営したい連中が、ヤクザを使って、漁業権を横取りしようとたくらんでいる。
そりゃぁヤクザが出るようなお話しだから、あれやこれやと怖い場面もあります。
基本的には、前向きなお話しですね。
3年後には、ひとりは船舶免許も取っているでしょう。
すし職人は寿司屋に帰っているでしょう。
あぁ、忘れていた、おっさんは家族から頼られて、戻ってくるよう願われて、だいぶ前に引き払っていました。
3年後、まだ養殖の筏がここにあるのか、それはわからないが、それぞれ、未来へのええ線を得ている、という明るいお話しです。

2007年11月29日 (木)

うさぎとトランペット

「うさぎとトランペット」 中沢けい 新潮文庫
これは小学校でのお話しです。
前作の「楽隊のうさぎ」では中学校のお話しでしたが、小学校のお話し、その子らがおとなの吹奏楽バンドにまじるお話しです。
文庫の帯に、ブラバン小説とあります。ほんまに、そんなジャンルの小説の世界が成立してしまうんですねぇ。
「楽隊のうさぎ」では中学生だったメンバーが高校生になっている。
当然、お世話、おひきずりで、中学校のコンクールの場面もあります。
---------
轟くティンパニーの後ろを追いかけてきたトランペットやトロンボーンの輝かしいきらめきが、宇佐子の耳の中に大波のように押し寄せてきた。金色の大波のしたをコントラバスの鯨がゆっくりと泳いでいく。コントラバスの鯨が泳いでいる大きな海の上に、ピッコロとフルートの風が吹き始める。宇佐子はもう耳を澄ましているのではない。宇佐子全体が耳になった。
---------
主人公は宇佐子、父親がうさぎと名付けたかったのを宇佐子にとどめたのだ。
小学校五年、転向してきた子はミキという。
孤独をものともしない性格で、避けられ、いじめに遭うが、宇佐子はミキと友達になる。
ミキはクラリネットを習っている。一緒に行った楽器店で、おとなの吹奏楽バンドを見学してみる。
はまり込んで、トランペットに興味を持つ。
---------
ある日の放課後、腰を屈めて靴を履いていた宇佐子は、楡の木のしたでにミキちゃんを見付けた。ミキちゃんに向かい合うようにして、何人かの女の子たちがいた。女のばかりではない、男の子も混じっていた。
中略
どうやらこの重苦しい沈黙はミキちゃんが雪の日に宇佐子を自分の家に連れ帰ったことをみんなで咎めているらしいと、宇佐子にも少しだけ事情が飲み込めてきた。
と、そのとたんにとんでもないドラ声が聞こえた。
ドラ声は楡の木の枝が震えるほど大きな声で歌っていた。
バカ
アホ
ドジ
マヌケ
ドラ声はモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の旋律で歌っていた。さらに歌は続いた。
ヘンタイ
ブス
ゴリラ
歌っているのはほかでもないミキちゃんだった。これにはみんな驚いてしまった。
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そう、いじめというか、排除というか、小学生の事件と、大人の吹奏楽の混じって演奏会に参加していくこどものお話しなんです。

2007年11月21日 (水)

蚊トンボ白鬚の冒険

「蚊トンボ白鬚の冒険」藤原伊織 講談社
配管工の若者が隅田川の白鬚橋のあたりを歩いていると、突然、頭の中で耳鳴りがした。
カラスが蚊トンボを襲って、緊急避難で、若者の頭の中へ逃げ込んだのだ。
それ以来、超能力で筋肉を極限にまで使えるようになった。
登場順に人物は
シラヒゲ、蚊トンボなんだが、非常に知性も高く、若者の身体能力をアシストするパワーを持っている。
アパートの隣りの部屋にデイトレーダー、もとはアメリカのファンドマネージャーで、やくざから逃れて場末に身を隠している。
工事施主のお嬢さん、男がつきまとうのを助けてから、それがきっかけで、男と女の関係になった。
やくざの若頭、隣りの部屋の男がやくざに襲撃される、その襲撃集団のもとじめ。
アメリカから渡ってきたプログラマー、そのやくざ集団に身を寄せている。経済やくざの中心になっている。
主な登場人物はこんなもんです。
蚊トンボが頭の中に寄生して、超能力が生まれた、かなりむちゃくちゃなお話しです。
配管工はまだ一人前じゃないようです。その身分を手元と呼ぶのだそうです。
仕事場には、野丁場、町場、判るでしょ、野外の仕事か、屋内の仕事か。
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「ふうん、転職して記者かよ。インテリなんだ」
「あ、その言い方、なんかひっかかるな」
「ひっかかる?なんでよ」
「インテリって、それ、人をバカにしてる表現じゃないの。いまの時代は」
「はじめて聞いたぜ、そんなこと。だったら、いつから言葉の値打ち、そんなふうにひっくりかえったんだよ」
「ふうん、きみ、なかなかユニークな表現するわね」
「ユニークな表現?」
「うん、それってなかなか鋭い指摘だもん。きみのほうが、そこらの半端なインテリよりよっぽど知的かもしれない。たしかに言葉の使われ方のほうが変わりすぎてる時代だもんね」
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達夫は昼間のことを思い出した。「そういや、やつらがいちばんていねいなんだぜ」
「ていねいって?」
「おれたちの扱い。あんた、職人のあしらいのこと、親方と話してたろ。でもさ。やくざっていちばん、そのへん気をつかってんだよ。どっかの親分の家の作業やったときにゃ、昼メシに幕の内でたもん。それもすげえ豪華なやつ。それに休憩んとき、どっこもちゃんとお盆に茶と茶菓子のっけてきたのにはビックリした」
「へえ、じゃ、われわれ一般人のほうが雑になっているんだ」
「雑かどうかは知らないけどさ。やくざって、おれたち職人だけに限っていや、いちばん威張っちゃいけない人種だな」
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お話しはずいぶんと跳んだお話しで終始しますが
なかなかに魅力的なフレーズがちりばめられています。
週刊現代の連載小説なんだそうです。

2007年11月16日 (金)

楽隊のうさぎ

「楽隊のうさぎ」中沢けい 新潮文庫
中学生の吹奏楽の二年間です。三年のお話しは別のお話しであるのかもしれない。
彼の頭のなかには左官屋が住み着いています。
嫌なことや意に染まぬことがあると、シャッターを閉めて頭の中で壁塗りを始めてしまいます。
ある日、公園で兎を見ました。
それ以来、頭の中で兎がはじけて、左官屋の出番が減ってきました。
成り行き、勢いで部活には吹奏楽に入ることになりました。
即座に、パートは打楽器を担当するよう向けられました。別に異存はありません。
それから、早朝から日暮れ、8時9時に及ぶ猛練習が続きます。
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有木の作り出した一筋の光のようなクラリネットの音を、藤尾さんのティンパニの連打が包み込むと同時に、構えていたマアが、ここぞと、銅鑼の音を響かせた。金管楽器の群れが楽曲の中に侵入してくる。
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何と言っても、制服と私服では、制服は負ける。同じ私服であったとしても、同い年の男の子女の子では、女の子に男の子は負ける。克久にしてみれば二重に負けたわけだ。
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今、思うに、高校生のころはほとんど大人と近い状態だ。中学生では、まだ小学校と半大人との中間なのだなぁ。
その未完成の集団が磨かれ、研ぎ澄まされ、階段を登って行く姿は、読んでいてええもんです。こっちも高揚してきます。
中学一年では、その年は県大会止まりでした。
二年生では全国大会、普門館、吹奏楽の甲子園、ここで心行くまで演奏して終わった。
お話しはここまで、成績がどうだったか、それは判りません。書いてない。
でも、成績、順位の問題じゃないね。
あさのあつこの「バッテリー」これも中学の野球のお話しです。
これに燃えてしまって、全6巻、文庫版で発売されると、次々に読んでしまいました。
この楽隊のお話し、嵌ってしまいそう。
文庫本で「うさぎとトランペット」というのがあるようです。
次に手を出すかもしれません。

2007年11月14日 (水)

いつも見ていた広島

「いつも見ていた広島」田家秀樹 小学館
副題が、小説吉田拓郎 ダウンタウンズ物語
実はねぇ、吉田拓郎とは親しくはないのですよ。
彼の曲がどうなのか、あまり知らない。わたしの青春のころ、吉田拓郎は知らなかったと言ってもええ。
高校時代から大学時代にかけての、バンド活動、最初はバチェラーズと名乗り、次にダウンタウンズ。
時に、東京まで出かけてメジャーデビューを狙うも、なかなかうまくいかない。
なんでしょうね、読んでいるうちは、次はどうなるか、とページをめくるのを期待するのだけれど
書きとめようとすると、どこをピックアップすればええのかしらね。
出来上がった吉田拓郎ではなく、青年吉田拓郎の青春記です。

2007年11月12日 (月)

銀閣建立

「銀閣建立」岩井三四二 講談社
やれやれ、また武将者のお話しかいな、とあまり期待せずに読み始めました。
違った、大工のお話しでした。当時は番匠(ばんじょう)と呼びました。
幕府出入りの番匠は三組でした。
公方御番匠と呼ばれ、あまた番匠の中でも、そりゃぁ権威なのです。
先の公方、今は隠居しても権勢は従来通りの足利義政からの下命です。
東山の山裾に東山山荘を建てる、その総合デザインが示されました。
場所は浄土寺、寺を壊し、墓地を潰して建てるということです。
常の御所、山上の庵、あれやこれやの建物をコンペにかけます。
番匠は三組でも、コンペに出る案がみっつとは限りません。
同じ組からふたつ、みっつと出してもかまいません。
番匠の競争は、組の内から他の組まで、腕をかけて争わなきゃなりません。
腕だけじゃない、申次衆から同胞衆まで、根回し、付け届けを欠かすわけにはいきません。
もともと、応仁の乱以後のことで、幕府の権威は地に落ちています。
そこへ、公方の趣味だけのための山荘を作ろうというのです。
資金はありません。
新しく諸国段銭をかけたり、新関を設けて関銭を取る、民草の恨みは深く、一揆が続発します。
山荘の最後の建物に観音堂を建てることになります。
コンペがあり、勝って、観音堂の番匠を命ぜられました。
もう、資金が尽きたので、安く建てることも条件に入っていました。
今は放棄された今出川御所に、祖父の建てた亭がある、この亭を解体して組み直す案で、採用されました。
この亭が完成する前に、公方は亡くなってしまいます。
出来上がった亭は、今では慈照寺の銀閣、通称、銀閣寺と呼ばれています。
銀閣寺の山の上に庵があったのか、銀閣は新築のものではなく中古品なのか、
そこは小説家の頭の中なのか、史実なのか、突き詰めることもないでしょう。
この時代のころから、槍鉋から台鉋に変わって行ったもののようです。
組内の元締めの番匠は、時々の一番腕のええ番匠が仕切ったようです。
元締めの息子が元締めとは限らないようです。
腕が悪ければ、腕のええのが代わって仕切る、そんな取り決めのようです。

2007年11月 9日 (金)

浪々を選びて候

「浪々を選びて候」岩井三四二 講談社
美濃の斉藤家の家臣で、奉行を務めるくらいの武将と理解しといてください。
ちょくちょく織田信長が攻めて来て、その都度、撃退していました。
なんだ、織田信長、弱いわい。そのくせ、調略で味方を切り崩して行く、卑怯なやつだ。
斉藤家の武将は調略で崩されて、大負けに負けてしまいます。
周囲の武将はみんな織田信長に仕官するのに、ふん、あんな戦下手、卑怯なやつに仕えるもんかい。
信長に対抗する大名ならと、今川家に仕えます。
ここも、武田家と徳川家の挟み撃ちになって滅んでしまいます。
歴史を知っている我々としては、なんで、なんで、わざわざここに仕官するかい。
次には近江の浅井家、けんかして退散して、伊勢の長島に逃げ込みます。
ここは一向宗一揆の城です。
ここでも、大攻めに攻められて、逃げ出す途中で捕らえられて、あろうことか、織田信長に仕えるように、強いられます。
馬回り衆として、信長親衛軍に所属していますが
用で他出しているうちに、本能寺の変
ここでも、主を失って浪人してしまいます。

こんなお話が続きます。
我々は歴史を知っている。今だから昔を知っている。
なんで、滅ぶ主に仕えるかね。ええ、じれったい。
歴史を泳ぐ本人にはそんなことが判るわけがない。
じれったくて、読み続けるのがつらくなって、本を放り出す。そんなことが何度も続きます。
で、あれからどうなった。
ははぁ、あり地獄を抜け出して、また別のあり地獄に嵌っているじゃないか。
なんぼひいきの岩井三四二でも、武将者では持ち味がいまいちでした。
やはり、民草の普通のひとのお話しのほうが面白いね。

2007年10月31日 (水)

のだめカンタービレ

「のだめカンタービレ」二ノ宮知子 講談社
女性漫画誌KISSで連載中の漫画のようで、全18巻
そのなかの13巻までを一気読みしました。
知ってる人は知っている、テレビでドラマ化されたものです。
あまりにばかばかしいドラマなので、ツボにはまって毎週見ていました。
ところが、何かの拍子に、最終回を見損ねてしまって、あのお話、どうなったんだろう、消化不良でした。
息子が引越ししたので、引越し荷物からこの漫画がこちらへやってきました。
半年くらい、放っておりましたが、読み始めると一挙でした。
漫画での言葉遣い息遣い、そっくりそのままテレビでもその通りにやっていたんですね。
絵もきれいだし、漫画としてはずいぶん高級なものじゃありませんか。
なにぶん、クラシックの世界にうとくて、曲や演奏や解釈については、ほとんどわかりません。
わからなくても、こんなもんだろうと誘導してくれるところが凄いとこです。
テレビでは、音大のなかのお話でヨーロッパに出たところまではなかった。
そのヨーロッパ篇なんですが、13巻で手持ちが終わったので、14巻から18巻までの様子がわからない。
ここでも消化不良は残ると思うでしょ。
ヨーロッパでの人と人のつながりがよく呑み込めないんですよ。
邪魔をする人と助けてくれる人の相互関係がよくわからない。
無理してでも、この先を知りたいという気にはなりません。
それでも、これは言える。
いやぁ、おもろかった、のだめワールド。

2007年10月29日 (月)

連歌師幽艶行

「連歌師幽艶行」岩井三四二 講談社
ここんとこ、お気に入りの岩井三四二ですが
ちょっと、この連歌師のお話しは付いて行くのがしんどかった。
連歌の世界とわたしとあまりに縁が遠すぎるのですよ。
連歌では宗祇が名高いが、その弟子の宗牧、その息子の無為と、宗牧の弟子の友軌、この三人の旅のお話です。
宗祇は実在の人物ですが、この三人は実在か架空か、そこはどうでしょうね。
戦国時代の前期、織田信長の父の信秀の時代、三河の松平がまだ今川に併呑されていない時代、今川義元が弟と争って政権を確立した時代
こんな騒乱の頃に、宮廷から文のお使い、礼状を各地の大名に配って歩くよう押し付けられます。
連歌師っちゅうのは人気商売なんですね。
各地の檀那、地方領主、大商人、寺の僧侶、どこかかしこにくらいついて連歌の興行をして、飯と酒と餞別を得て世の中を渡って行きます。
幽艶行の幽の部は、騒乱の時代ですもの、合戦に巻き込まれることもあります。ほとんど死に掛けのこともあります。
その当時、合戦が終われば、勝ったほうは略奪のし放題だったのですね。
NHKドラマ風林火山で、最初の頃、女取り、女をさらって強姦の上人買いに売ってしまう、こんなシーンがありましたが、これは普通だったんですね。
国内騒乱は明治維新が最後ですが、さすがにこの時代にはそんなお話しは聞いたことがない。
当時はまだまだ野蛮乱暴の時代なんです。
幽艶行の艶の部、あまりこれはお話しの展開がありません。
念仏踊りの興行、女が踊るのを見せるわけです。
時宗の踊りは、念仏を唱えながら足を高く上げて踏み鳴らす、そのとき、はらりと裾が開いて奥まで見えそうになる、そんな踊りなんだそうです。
興行であることは連歌師の世界と変わりが無い。
人気と評判は肝心なところです。
三人連れでも、主人公は弟子の友軌です。踊り子を巡ってピエロの役目を果たすことになります。
ちょっとこの三人には感情移入できなかったが
時代背景がよくわかって、眼からウロコでした。
その当時の領主・大名の合戦のお話しはよく読みますが
足軽の末端、村の寺の住職、旅する民衆についてはよく知りませんでした。
へぇぇ、そんなことなのかい、とデータ的に面白い箇所が随所にあります。

2007年10月21日 (日)

月ノ浦惣庄公事置書

「月ノ浦惣庄公事置書」岩井三四二 文芸春秋
「清佑、ただいま在庄」「村を助くは誰ぞ」に続いて、読み進んでおります。
浮浪児が成人したとおぼしめせ。
偶然のきっかけで土倉(中世での金貸しのこと)に雇われることになった。
その男が代官として高浦の庄にやってきた。
高浦の隣りの庄、月ノ浦に目をつけた。
難癖をつけ、乗っ取りに切り込みをかけたり、訴訟にも持ち込んだ。
支証(証拠)の古文書もあり、月ノ浦の勝訴と思われたが、土倉の金主からの圧力で敗訴になった。
荘園の中での訴訟では負けたが、室町幕府の剣断(法廷)に持ち込むことにしよう。
比叡山のちからを借りて、なんとか訴訟に持ち込む。
奉行が襲われたり、訴人が襲われたりで、なかなか判決が出るまで持ちこたえられない。
このへんからクライマックスになだれこみます。

底本は、琵琶湖の「菅浦文書」の「菅浦惣庄合戦注記」が下敷きあのだそうです。
へぇぇ、中世の頃はこんな具合だったのかい、と驚くこといろいろです。

2007年10月13日 (土)

ゆうゆう 第25号

「ゆうゆう」第25号 ゆうゆう会
久しぶりに、ほんまに久しぶりに、広島市内に出かける用があったので、紀伊国屋によってきました
山の本のコーナーで、「ゆうゆう」という雑誌を発見、こんな雑誌は今まで見たことがない
山と文化の総合誌、とあり、季刊で発行しているそうな、今回のが第25号、所在地は山口県周南市となっております
特集 奥出雲の山々 ということで、パラパラ見たところ、マイナーな山も紹介してある
東京の出版社の情報だけでは、なかなかマイナーな情報は入手できるもんじゃありません
発見し次第即購入、ためらうと、すぐに店頭から消えてしまうもんです
¥1470で、ページの割りにちょっと高いなとは思ったが、広告もないし、紙代印刷代でとんとんだろうな、自費出版のものだもの、そのへんの事情はしょうがないね
バックナンバーを見ると、かなり魅力的な特集があります
バックナンバーを注文するかどうかは、もうちょっと考えてから

2007年10月 8日 (月)

村を助くは誰ぞ

「村を助くは誰ぞ」岩井三四二 新人物往来社
このところ新発見の岩井三四二の作品です。
短編集ですが
「奇妙な密使」「天照大神宮に寄進奉る」 美濃の大名、斉藤道三から、伊勢神宮の御師、福島四郎右衛門あてに出した寄進状から想を得て、一本の手紙からふたつの作品を編み出しました。
「邦古屋小判金」 尾張美濃の国境で、織田斉藤双方の大名の間で、生き残るためにどっちに味方するか
太郎伯父は尾張に味方するように勧め、次郎伯父は美濃に味方するように勧める
困って、八郎伯父の相談すると、結果、思いもよらぬ悪い方向に誘導される
当時、小判には鋳造もとの刻印があるのが普通だった、礼物、報酬の姿で、領主が恩を示し寄りぅどは恩を受ける、それを明示するカタチだった
両方からの板ばさみに困り、思いも寄らぬ解決方法を思いつく
それは、念仏道場に領地全部を寄進すること、それで守護不入の地とし、今までの領主から代官として生きること
あらすじはそんなことです。この作品も古文書から編み出されたものです。
ほかの作品も、蔵や押入れの奥から出た書付が底になっております。

2007年10月 7日 (日)

清佑、ただいま在庄

「清佑、ただいま在庄」岩井三四二 集英社
産経新聞の書評にあったので手を出しました。
ここは逆巻庄という荘園、時は中世、鎌倉末期なのか室町期なのかそのあたりです。
周囲の公家の荘園は武士に横領されていますが、ここの荘園の主は京のさる大寺なので、仏罰を恐れてか、なんとか侵食されずにいます。
そこの代官に大寺から若い僧侶が派遣されました。
荘園の代官など始めての仕事です。その名を清佑、僧侶名そのままの名乗りです。
代官の仕事は基本は年貢の徴収ですが、几帳面に取り立ててばかりいては百姓が逃散して、荘園が空中分解してしまう。
そこは豊かな本百姓と水のみ百姓とでは、行政の手当ての加減が必要です。
裁判所の仕事も兼ねていて、検断=判決も仕事のうちに入っております。
訴陳=裁判 訴人(そにん)と論人(ろんにん)=原告と被告
こんな言葉で中世には使っていたのですね。

岩井三四二は中世近世の村文書、公家文書から物語をつむぎだすのを得意としています。
そういえば、武者の合戦などの正史は広く知られているが、暮らしそのもの、借金の証文、訴訟沙汰、そのへんについてはあまり知りませんねぇ。
そのへんにライトを当ててもらうと、なかなか大変なご時勢というのがわかります。

2007年10月 1日 (月)

栄光一途

「栄光一途」雫井脩介 新潮社
ヒロインはジャパン柔道の強化プロジェクトのメンタル・コーチ
柔道界にドーピングをしている選手がいると密告があり
それを調査することを命じられる
オリンピック選手を選定する時期です
ひとりではできないので、仲間を集める
--------------
「大丈夫よ。私が鬼平であんたが相模の彦十だとしたら、彼女は与力の佐嶋くらい信頼できるから」
何じゃそりゃ。
--------------
こんなくすぐりも混ぜながら、調査は進んで行く
--------------
「現在のドーピング検査で禁止、あるいは使用制限されている薬物は、大きく分けて四種類あります」
堀内絵津子は資料を見るでもなく、話し始めた。
「一番目が興奮剤。カフェインとかエフェドリンといった類で、よく風邪薬なんかを服用して引っかかるのがこの系統ですね。カフェインは尿中量が定められていて、それを超えるとアウトです。二番目は麻薬性鎮痛剤で、ヘロイン、モルヒネといったものです。三番目はタンパク同化剤。いわゆる筋肉増強剤といわれるもので、ドーピング問題の中心となる薬物です。四番目は利尿剤。これはタンパク同化剤を尿によって体外に排出させる効用があるので禁止されています。他にウェイトコントロールをするために利尿剤を使うケースもあります」
「その他にも血液ドーピングとかね、挙げたらきりがなけど柔道界の幹部数人が真っ青になるほどの問題が起きるとすれば、やっぱりタンパク同化剤じゃないかな。競技の性質から考えるてもね」
--------------
ふぅむ、ドーピングとはそんなものなのかい
強化コーチの仕事もあるし、オリンピック候補をしぼる選考会もあるし
その中でも、調査はだんだんと核心に進んで行く
柔道の試合の描写はたいしたものです
作者に柔道の心得がないと、あれは書けないな

わたしは柔道については全然知りません
マンガの「柔道部物語」小林まこと
ヒーローが三五十五(さんごじゅうご)で、岬商業高校、全国大会へ進出していくストーリーです
長編マンガだよ、そのマンガで柔道の技を知った程度
その程度の予備知識でも、柔道界の光と影がよくわかりました

テロリストのパラソル

「テロリストのパラソル」藤原伊織 角川文庫
全共闘の時代がありました
その時、爆弾の偶発事故がありました
あれから何十年、ふたたび爆弾が爆発しました
しがないアル中男が巻き添えを避けるため、理不尽を暴くため、動きに動きます
ヤクザに遭遇します
このヤクザがカッコエエんだ
現実のヤクザには出会いたくはないが、本の中ではヤクザとはなんとカッコエエものなんでしょうね
いえいえ、ヤクザはバイプレイヤー、いろどりだからそんなに本筋とは関係ありません
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「それは嘘だよ」私はいった。私をみつめる浅井の視線を見つめ返した。「それなら、望月が前職をやめた理由をいつわっていることになる。経歴詐称というほどのことではないかもしれない。あんまりかんたんな話なんで、さっきは聞き逃した。私は元陸自の人間と同じ職場にいたことがある。いろんな話を聞いた。陸自の機甲部隊が持つ装備の型番は、配備の制式化された年度が頭につくんだ。だから、九〇式戦車は九〇年か九一年に導入された。エアコンの話はだれかに聞いたのかもしれない。だが、少なくとも望月は九〇式に乗ったことだけはない」
浅井の表情が一変した。
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些細なことだが、このような職業なればこその話を聞くと興奮します
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殺(あや)むるときもかくなすらむかテロリスト蒼(あお)きパラソルくるくる回すよ
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テロリストのパラソル、一旦読み始めると、最後まで追いかけなきゃ気がすまなくなる、そんな魅力にあふれています

2007年9月30日 (日)

まほろ駅前多田便利軒

「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん 文芸春秋
三浦しをんは、「風が強く吹いている」で発見した作家なんですがね
この「まほろ駅前多田便利軒」が直木賞受賞作とは知らなかった
便利屋のお話なんですよ
便利屋という設定は便利がええよね、弁護士や探偵社のように、依頼者が変わればその都度お話しがくりだせる
その便利屋に、高校時代の同級生が転がり込んでくる
高校時代には言葉を交わしたこともないのに、負い目があるんですね、それで、転がり込むのを拒否できない
どのお話しも、欠損家庭のお話しなんですよ
欠損家庭だから希望がないような、最後には、希望を残しているような、書きようです
もともとは、別冊文芸春秋に連載されていたものだそうだが、あそこの土俵では書きよう文体が似つかわしくないような気がする
文体が乾いているんですよ、情感を込めないように叙述してあるんです
それなのに、書いているのは欠損家庭、こんな書きようのほうが合っているからかね

2007年9月26日 (水)

陰の声

「陰の声」逢坂剛 講談社
近藤重蔵始末の5巻目なんですがね
火付盗賊改方だったんですが、4巻目から長崎勤務
長崎奉行手付出役として、抜け荷、密貿易取締りで薩摩と渡り合います
この作品のヒーローなんですが、なぜか同感できない
男前は男前なんですよ、印象として巨漢みたい、お相撲ほども大きいのじゃないかな
ウィキペディアで近藤重蔵を検索してみたんですよ
蝦夷探検のあの男と履歴が似ている
このシリーズ、蝦夷地探検までお話しが延びるかもしれない
その後、出世を重ねたが、傍若無人が過ぎて、蟄居閉門
違和感があって遠目に読み続けているのだが
いまは颯爽とした捕り物のお話しなんですよ
どこまでもどこまでも、このシリーズは繰り広げて行けるもんでしょうかね

2007年9月25日 (火)

義元謀殺

「義元謀殺」鈴木英治 角川春樹事務所
今川義元は都に上る途中、桶狭間の合戦で討たれたのは史実です。
その前段階で、織田方から今川義元を仕物にかける(暗殺する)動きがあった、これがこのお話しのやりとりです。
普通は、仕掛ける側に感情移入して応援するものですよね。
迎え撃つ側に肩入れしているから不思議です。
織田方には、忍者、性格異常者などがいて、著者としても、扱いに愛情が乏しいのは見てとれます。
今川方には、忍者などの用意はなく、普通の武士が意を砕いて防戦に努めます。
著者の出身が沼津なので、なるほど、郷土愛なのかと納得できる部分でもあります。
尋常の戦いで、両軍は遭遇し、合戦は織田方の勝利に終わった
これが史実ですが、その前々の暗殺が伏線で、これがもとで今川義元は討ち取られた。
ま、時代小説は史伝じゃありません。
どれだけ中身に、嘘を、ファンタジーを、盛り込めるか。
いやぁ、なかなかのもんでした。

2007年9月18日 (火)

血の城

「血の城」鈴木英治 角川春樹事務所
高天神城が舞台です。
徳川家康が高天神城に肉薄して、ここが落城すると、武田勝頼は一気に威勢を失うことになります。
お話しの展開は城の攻防ではありません。
攻防の合戦はお話しの一部ではあるが、本筋は徳川家、武田家の城内での出方、カードの切り方にあります。
お話しの傍流に、野武士の群れ、武田の忍び、ではなくて諏訪の忍び、旧今川の忍び、ちょっと油断すると、今出ている○兵衛は何物だったかな。
お話しを離れて、新しく発見したこと
高天神城とは、三川遠江信濃の接点にある山岳の城だと思い込んでいました。
大間違い
静岡と浜松の中間で、東名高速道路東海道新幹線よりも南の、遠州灘の海岸に近い位置にある城でした。
それじゃぁ、徳川にとっては武田の出城が間近でこの上なく邪魔、武田にとっては駿河から京へ登る重要拠点というのはよく理解できます。
やっと納得、城の攻防に血道をあげるのも当然だ。
歴史は勝者敗者がはっきりしています。
その中で、ふむ、そんなこともあるかもしない、そんな虚構を語るのが時代小説です。
あるわけないじゃん、その抵抗をねじふせて、語り通しました。

2007年9月16日 (日)

影絵の騎士

「影絵の騎士」大沢在昌 集英社
時代は2048年、日本は多民族国家になって、不法滞在した外国人から生まれた子どもがあふれています。
東京はトーキョーという名前に変わり、スラム、ゲットーに変わってしまいます。
東京湾に埋め立てた巨大島に映画スタジオが建設され、原発と同居して、原発を守る警察があり、映画スタジオは自治組織になり、警備を担当するSS、この両者で人工島の秩序が維持されることになります。
ここまでがマエフリで、こんな状況なんだと覚えてください。
主人公は元調査員、引退していたのに、引き出されて、映画スタジオの犯罪の調査を依頼されます。
もひとつ、この主人公に感情移入できないんですよ。
もともと、この未来状況がのみこめない。
トーキョウー、本土側にはネットワークがあります。テレビ局のことですね。
視聴率を取るために、犯罪を中継して、あるいは、犯罪を企画して、その投稿ビデオと称して放映します。
いっぽう
人工島の映画スタジオでは、ロシア人チェチェン人などのファミリーがマネーロンダリングで映画を作製しています。
そこで、両者が結びついて、なんだかんだ、ああだこうだ。
もひとつ、とっぴ過ぎて気分が乗っていけません。
大沢在昌は名うてのストーリテラーですが、なんだかなぁ、存在感が乏しいので共感できない。
仮面ライダーや赤レンジャー黄レンジャーのおはなしを読んでいるような気がしてきます。

2007年9月12日 (水)

にこにこ貧乏

「にこにこ貧乏」山本一力 文芸春秋
週刊文春連載の短文の集まりです。
週刊誌で見開き2ページ分だから短い、そこがええんですね。
身辺雑記、たいがいが同時平行の身内話が大部分です。
たまに生まれ故郷の高知の話が出てくるが、そこはほんの少し
にこにこ貧乏の本質は子供時代にあるのだが、読んでいるほうとしては、必ずしもにこにことしながら読み続けられるわけでもない。
貧乏から脱却した現在の身辺雑記のほうがにこにこできるというものです。
取材や現地調査で地方に行った話では
なるほど、あの小説のことで行ったのか、と楽屋話を聞く思いです。

2007年9月 6日 (木)

江戸は心意気

「江戸は心意気」山本一力 朝日新聞社
短文ばっかりのエッセイ集です。
江戸時代のお話が主だと思ったら、違った、高知県から東京での育成記が主でした。
講演の書き起こしが収録されていますが、これが一番面白い。
江戸下町に学ぶ生きる知恵、これが講演のタイトルです。
ネタのメモを少々
奉公の始まりは8歳~12歳くらいの丁稚小僧
小僧時代は無給、奉公の代わりに、読み書き算盤をしっかり学んだ
お店奉公が出来るのは優れたこどもなればこそ
15歳になると手代に取り立てられた
手代はまだ住み込みだが、給金がでる
店のお仕着せ(制服)を着ている者ならなんでも答えられる、一人前の手代なのだ

2007年9月 2日 (日)

当確への布石

「当確への布石」高山聖史 宝島社
なんだ、選挙ものか、どれも似たようはお話しだろ。
へぇ、「このミステリーがすごい!」大賞の優秀作かい。
それなら、文句なしにチョイスだね。この大賞のシリーズでハズレの作品はないものね。
衆議院議員の補欠選挙、立候補を決めたところへ、怪しげな勝手連から推薦状がとどく。
凶悪犯罪抑止連合会、略称抑止連
怪しげな気配を感じて、候補者は知人の警官に操作を依頼する。
お話しの筋立て
○選挙戦はどのように行われていくか
○警官、退職していて元警官は抑止連にどう捜査を迫っていくか
○候補者の政策は、犯罪被害者の権利を保護し生活を安定させること
選挙戦のことは、まぁええでしょう、普通の選挙小説とそんなに離れたもんじゃありません。
ただし、無所属で、政党に属していない選挙、みんなボランティアだから、選挙戦自体を自由に書ける用に設定してありますわね。
抑止連のこと、もっと爆弾がすごいのかと期待していましたが、あんがいの小爆発で肩透かしでした。
犯罪被害者、これが結構大きなテーマ、被害のなかには心の傷も残っていて、心療内科の診療はこのようにやる、へぇぇ、そうなのかい、驚きがありました。
候補者自身、中学生時代に性犯罪の被害者、そのトラウマは今でも残っております。
まぁ、このようなネタ配りでお話しは進んで行きます。
で、結果どうなるか、それは胃ってはいかんでしょう。
そうそう、なんぼ選挙のお話しでも、これはミステリーの分野でのことなんです。

2007年9月 1日 (土)

吉原手引草

「吉原手引草」松井今朝子 幻冬社
直木賞受賞作の本ですね。
珍しいスタイル、客がね、吉原の帳場から、軒下から、いろんなところを聞き込んで回る、という筋書きなんですよ。
だから
書いてあるのは、全部、聞き込み相手の語りばっかり。
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信濃屋茂兵衛の弁
ええっ、吉原の話が聞きたい?あなたちょっと困りますよ。店先でいきなりそんんことを、大きな声でいったりしちゃぁ。店の者が変な顔でこっちをみるじゃありませんか。付き馬だかなんだか知らないけど、あたしゃ吉原なんか行った覚えもないんだからね。お門違いもいいところさ。
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舞鶴屋見世番寅吉の弁
へい、わっちになんぞご用で?----はぁ?そこで何をしてるんだって。フフ、お前さん、妙にからんでくるねぇ。こう見たところは、やくざな地回りのようでもなし。おおかた暇をもてあます道楽息子という格だが、まあこっちも暇ついでだ、相手になろうじゃないか。
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さんざんいろんな人に聞き込んで、このひと、何を知りたいんだろ、花魁葛城について訊ね回っているが、花魁葛城が何をしたっていうんだろ。
聞き込んでいるうちに、花魁葛城の生い立ち、癖、身のこなしがだんだんと明らかになってきます。
芥川龍之介の藪の中、黒澤明の羅生門、このスタイルと同じなんですよ。
聞き込む本人は登場することはない、聞き込む相手の語りだけでお話が展開していきます。
で、花魁葛城の何を知りたくて聞きまわっているのかって?
うぅん、それはナイショ

2007年8月28日 (火)

雪が降る

「雪が降る」藤原伊織 講談社
藤原伊織を発見したので、追いかけているんですがね
これは短編集です
長編では、えてして、組織のゆがみとか、会社内での抗争とか、そういうことに流されて展開がひろがる、こんな話しが多いもんです
短編では、個人の心のゆがみとか、思いと行動のずれなど、ちょっとしたことを切り取る、こんなことかな
幸い、この短編集は男と女の間で揺れ動く、こんな展開はでてきません
安心して読めるなぁ
でも、人間、どこかで爆発する瞬間があるんです
台風:ビリヤードをやるジャズピアニスト
雪が降る:酒依存症のサラリーマン
銀の塩:不法滞在のベンガル人と逃亡中のの犯罪者
トマト:政治家秘書
紅の樹:足抜けしたヤクザ
ダリアの夏:デパートの荷物配達人
それぞれ、過去があって、ひきがねを引く何かがあって爆発するわけです
ま、こんな世界です

2007年8月27日 (月)

塩の街

「塩の街」有川浩 メディアワークス
図書館戦争、図書館内乱、図書館危機、で発見し、大きく推奨している有川浩の作品です。
彼女は、もともとライトノベルのジャンルからの出発で
第10回電撃ゲーム小説大賞の受賞作がこれです。
文庫に収録してあって、電撃文庫というのですが、こんな文庫本は知らなかった。
そりゃそうです、メディアワークスは角川書店の系列ですが
本屋では、角川文庫と並んで置いてあるのじゃありません。
コミック本、ゲーム本、この近辺にあるのが普通です。
有川浩を知ってからは、電撃文庫を探して、あちこちの本屋をさまよいました。
やっと、どうにか手に入れたわけです。
で、お話しはどうかと言うと
宇宙から巨大な塩の塊が世界各地の大都市に降ってきます。
塩を見れば、見た人すべてが塩になってしまう。
東京に塩が降って、数日で数千万人が塩化してしまいます。
家族が塩化してしまった女子高生は、危ういところを若者に保護してもらいます。
若者だったかな、30のおっさんだったかな。
そのマッチョ、実は航空自衛隊の二尉なのです。
読み始めて、半分まで行って、珍しいね、制服ものではないのだね、と思っていた矢先
やっぱり自衛官・ユニフォームの世界でした。
お話しの内容紹介はしませんが、オモロイから読んでみて。
まず最初、本屋の本棚で、電撃文庫とはどこにあるんだろ
これを探すのから始めてください。

2007年8月21日 (火)

銀しゃり

「銀しゃり」山本一力 小学館
毎度おなじみ山本ワールドです。
主人公は押し寿司の職人店主、どれだけ働き者で、どれだけ思案を巡らすかがこの本のキモです。
山本一力の本は、どこを取っても深川で、いつでも善人が一生懸命に働いている世界です。
マンネリ、ええじゃないですか、心が洗われるおはなしを読みたいんだ。
働けば必ず報われる、ほんとに世の中、こうなってほしいよねぇ。

2007年8月18日 (土)

夏雲あがれ

「夏雲あがれ」宮本昌孝 集英社
NHKに木曜時代劇ちゅうのがあります。
そこで、TVドラマがあったのですが、木曜日というのはちょっと具合の悪い日、ほとんど見ることなくやり過ごしてしまいました。
というのも、すでにこの本を前に読んでいたからです。
どうドラマ化されるか興味があったのですが、見ていないのでは、比較のしようもありません。
宮本昌孝はストリーテリングの名手です。
藩主がいて、とって代わろうとする叔父がいて、クーデターが密かに企てられています。
そのへんの描き方、青年藩士はあくまで清く真っ直ぐで凛としています。
悪事を企てる側はどす黒く悪人面です。
勧善懲悪のお話しですが、まっすぐ正面向きに書かれていますので、興を削がれることはありません。
時代劇だから、このような扱いが可能なんですね。
お話しは、まえ、ええでしょう。
藩騒動、これをくつがえす青年藩士の活躍、こんなとこです。
二度目に読み返しましたが、それでも面白い。
途中で読むのを止めたくなるようなアザトサは全然ありません。

2007年8月16日 (木)

女たちの江戸開城

「女たちの江戸開城」植松三十里 双葉社
幕末のお話もいろいろあるが、将軍家の大奥からの視点で書かれたものはあまり見たことがありません。
朝廷から和宮が将軍家に嫁いできましたが、14代将軍家茂は亡くなってしまいます。
あとを継いだのが、十五代慶喜、鳥羽伏見の戦いで負けて、軍勢を残して、江戸に逃げてしまいます。
こんな情勢のもとで
和宮は、徳川家の存続を願って、朝廷に嘆願すると決めます。
京都から連れてきた女官に、嘆願書を託して京都に向かわせます。
ここからが大変、東海道は敗走する幕府軍と官軍の進撃でごったかえしています。
その中をかいくぐって進むのが面白いとこです。
配下に強い伊賀者がいたり、京都で公家衆に根回ししたり、このへんが波乱万丈でええとこです。
使者の役目は成功し、天皇のお墨付きをもらって江戸に帰ります。
江戸は上野の彰義隊などの暴発を図る過激派もいます。
ふたたび、官軍の総督に、幕府の暴発と官軍の暴発が衝突しないよう、調停を願う使者として向かうことになります。
和宮の女官と官軍総督が顔なじみ、縁者であることで、取り持ちを願うということになります。
江戸城で、勝海舟と西郷隆盛の会談がありましたが、裏には、そんな調停工作がありましたとさ、というお話し。
まぁ、こんな工作があったにせよ、なかったにせよ、幕末の雰囲気はこうだったろう、街道の情勢はこうだったろう、そんなものがうかがえる一篇です。
そうそう、著者の植松三十里、みどりと読んで、女流作家です。

2007年8月14日 (火)

オケピ!

「オケピ!」三谷幸喜 白水社
ミュージカル「オケピ!」の脚本です。偉そうにいえば、戯曲です。
ミュージカルの舞台の、その舞台の前に、オーケストラピットがあります。
そこが切り取られた舞台です。
その意味では、音楽はあるがダンスは無い、これはミュージカルではないかもしれない。
脚本を読むのに、わたしは、ある意味、慣れています。
青年のころ、演劇をかじっていたから。
でも、楽器を演奏し、歌で大事な内容を伝える、こればっかりは見なくてはわからないだろうな。
見たかったな、残念。
初演時の配役
真田広之(コンダクター) 松たか子(ハープ) 川平慈英(ギター) 戸田恵子(バイオリン) 伊原剛志(トランペット) 白井晃(サックス) 小日向文世(ピアノ) 北川潤(ファゴット) 山本耕史(パーカッション) 宮地雅子(チェロ) 小林隆(ビオラ) 菊池均也(ドラム) 布施明(オーボエ)

元就、そして女たち

「元就、そして女たち」永井路子 中央公論社
著者には「山霧」という毛利元就の生涯を書いた小説があります。
これを、もう一回リライトしたような読み物です。
婦人公論の雑誌連載で、エッセイと言うか、講演の原稿と言うか、小説仕立てからは離れたものです。
政略結婚とはこういうものなんだよ、というくだり
現代の政略結婚と、当時の政略結婚とは考え方が違います。
庶民層は別として、支配層では、家を維持し膨らませていくには、結婚を重ねて、安保同盟を結ぶのと同じ意味でした。
「セックスを伴う戦国の女性大使」こういうことなのだ、と説破しております。
嫁入りするとき、スタッフを大勢連れてきています。
彼らは女主人の指図で動き、主人の指揮に従うものではありません。
結婚しても、半分は婚家のために働き、残り半分は実家へ発言権、経済的権利を発揮しております。
親善とスパイと、両方を兼ね備えていたわけです。
元就は、妻はひとりが定説ですが、大方どのは複数おりました。側室ですね。
ただし、嫡流と庶流は峻別して、側室の子は臣下に組み入れておりました。
「山霧」とこの著作との間に10年経過しております。
その間に、元就の手紙が多数発見されております。
微細なところが明らかになったことで、「山霧」にない背景事情などを、この本で読むことができます。

2007年8月12日 (日)

シリウスの道

「シリウスの道」藤原伊織 文芸春秋
2007/07/03付けで、同じ作者の「ひまわりの祝祭」を呼んでいたく感銘を受けました、ということを発言しています。
著者は長く電通に勤務し、広告業界には堪能です。
その広告業界のお話しです。
男たるもの、サラリーマンたるもの、いや、サラリーマンなればこそ、かくあらねばならぬ、のセンスにあふれています。
そりゃぁね、かくあらねばならぬのは理解できるが、平凡な人間が同じ行動をしちゃぁいけません。危険だよ。
中学1年生のころ、ひとを殺すか殺さないか、修羅場をくぐったことで、人生の芯が出来たというもんです。
平凡な人間は、スーパーマンの行動・度胸に胸躍らせてカタルシスを得る、これでええんです。
藤原伊織は著書が少なく寡作です。
追いかけたい作家のひとりになりました。

2007年8月 3日 (金)

窓口職員奮闘記

「窓口職員奮闘記」関名ひろい 文芸社
苦情こそ我が人生、サブタイトルにこうあります。
某市役所を定年退職した地方公務員の述懐です。
中の一部を抜書きしてみると

火葬許可証:葬式のどさくさで火葬許可証を紛失してしまった。再発行は?
そんなに簡単に出るもんじゃありません。

実母に会いたい:戸籍謄本を初めて見て、自分が養女であることがわかった。大事にされて育ててくれたのは解っているが、それでも実母に会いたい。どうせればいいですか。
ここにあなたの生みのおかあさんの戸籍がかいてあります。そこからたどることができます。そこの市役所を訪ねたら、単刀直入に事情を明かしてしまうのが一番です。これなら、協力してくれるでしょう。

出生届と国民健康保険:本筋から逸れるお話しなんですが
淡々と語る男の前で、所長は頭を下げ続けしかなかった。窓口では、怒鳴り散らす住民のほうが概して扱いやすい。職員の非を細かくついて来るタイプこそ曲者なのだ。あとで必ず、本庁に出張所での一部始終を通報するのだ。男はひとしきりクレームを繰り返したあと、無言のままパンフレットが置かれている棚から”市長への手紙”の記入用紙を、鷲掴みにして立ち去った。

発行されなかった身分証明書:市役所で身分証明書が発行されるとは知らなかった。
本籍地と筆頭者を記入してくださいね。筆頭者はお父さんになりますね。貴方は未婚---ですよね。あと、”誰が必要ですか”の欄には貴方の名前を書いてください。
知らなかったんですが、市役所で身分証明書が出るんですか。
はい、本籍地のある役所で交付されます。身分証明書は、その人が社会的に法律行為ができますということを明らかにします。たとえば、銀行などからの借り入れの判断ができる能力があるかなどです。それには、三点の要件があります。それをクリアしなければなりません。ひとつは、"禁治産者や準禁治産者でない”こと。ふたつめは”破産者でない”こと。そしてみっつめが”後見人がついていない”ことです。

戸籍謄本附票の価値:いえね、息子の車のことなんだけどね。息子は転勤が多いだろう。それで、住所変更しないうちに車検になっちまったらしいんだ。いまの住民票じゃ車検を受けられないらしい。なんとかならないかなぁ。
住民票は転出すると除票となります。福岡の住所は、仙台住民票のの旧住所に、名古屋の住所は福岡の除住民票に記入されています。でも、取り寄せるのが大変ですねぇ。そうだ、戸籍の附票じゃだめですか。
なんなの、その附票って。
ええ、その人の住所変更の記録が記入されているんです。
へぇ、なるほどね、ディーラーに聞いてみるか。

へぇぇ、市役所の窓口業務とはけっこう大変な仕事なんだ。
それぞれが1ページから3ページ程度のエピソードで構成されています。

あとで気が付いたのだが、出版社が文芸社、わかっていれば手に取ることもなかったのだが。
自費出版で悪名高い出版社も数々あります。
ここがそうだとは言わないけれど、漏れ聞こえる噂はありますよねぇ。

2007年7月22日 (日)

螺鈿迷宮

「螺鈿迷宮」海堂尊 角川書店
「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」と出版順になっていますが
執筆の順番は「螺鈿迷宮」がその中間にあります。
「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」どっちにも、氷姫こと姫宮が噂話でしか登場しませんが、ここでは重要人物として活躍します。
愚痴外来の医師と厚生労働省の技官がセットとして行動するのが通例ですが、ここでは、愚痴外来の医師は登場せず、厚生労働省の技官だけが行動します。
彼の部下の氷姫こと姫宮が潜入捜査しているわけです。
たしかにね、病院というのは凶器はなんぼでもあるし、殺傷が普通にあるわけです。
メスで切り刻むのも医療行為だから当然ですが、それが医療行為と離れていれば大変です。
堂々と殺人が可能なわけです。
探偵役が厚生労働省の技官だから、医療行政の一端がぽろりぽろりとこぼれてきます。
患者側にいる読者としては、へぇぇ、そんな意図があるのかい、と行政の意味を知って驚くことがあります。
氷姫こと姫宮の動きかたは、とたとたと走る、と表現してあります。
これで、どんな容姿か想像できるでしょ、そんな人物です。

2007年7月18日 (水)

ナイチンゲールの沈黙

「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊 宝島社
「チーム・バチスタの栄光」からの2作目です。
前と同様、ワトソンとホームズは、愚痴外来の医師と厚生労働省の技官です。
かき混ぜ役に、警察庁キャリアの警視正殿も加わっています。
なんたって凄いのは、人が死ぬのは本の半ばになってからです。
ミステリーで殺人が起きなきゃ話しが始まらないはずでしょうが。
それまでは何やっているか
お仕事、お仕事、手術の段取りがあったり、術前カンファレンスがあったり
ルーティン、むだ話でずっと引っ張っているわけです。
神は細部に宿り給う、病院のあれやこれや、知らないこと、知りたいこと、これはもうむだ話ではないですね、ページを次々とめくりたくなるもんです。
ミステリーの中身?
ナイチンゲールと題名にあるように、看護師が対象です。
トリックに無理があるの、ないの、と言ってもしょうがない。
ストーリー・テリングの名手というべきか、内輪話のはめ込みが上手というべきか、後者のほうが、情報の量・質とも上等なので、光っております。
作者は本職が医者なので、そうそう、本の執筆に時間を割くことが難しいのが残念です。

2007年7月17日 (火)

バイアウト

「バイアウト」甲田真音 文芸春秋
副題が企業買収となっております。
エイベックスと思えるような音楽会社があります。
浜崎あゆみと思えるようなシンガーを抱えている会社です。
ドンキホーテと思えるような会社がTOBを仕掛けてきます。
どっかの外資ファンドと別のファンドが続いてTOBを宣言します。
経営陣は悩みぬいて焦土作戦を実行します。
以前から、密かに株を買い集めていたのが、村上ファンドを思わせるような会社です。
上手に売りぬけを図ります。
全部、ぺしゃんこになるようなどんでん返しがあります。
焦土作戦の内容とか、どんでん返しの内容は、ここでは明かさないことにします。
読んでみてください。へぇぇ、へぇぇ、そうなの、の連続になると思います。
登場人物の生い立ち・人間関係が複雑です。
情熱のキーになるのはそれなんですが、そこには触れないでおきます。

わたし、前々から思っています。
株式を公開上場した以上は、買占めとか乗っ取りにあうのはしょうがないのじゃないの。
嫌なら、非上場未公開のまま抱えておけばええのにね。

甲田真音の真音とは、彼女、外資の証券会社でトレーダーをしていたんですってね。
売った、買った、を、ユァズ、マイン、で遣り取りしていたんですってね。
ダン、で取引成立。
その当時のマインをペンネームに持って来た、そんなうわさですが、ええね、ぴったりの名前です。

2007年7月13日 (金)

ココデナイドコカ

「ココデナイドコカ」島村洋子 祥伝社
参りました。
この短編集も途中で放棄、です。
どれもこれも、結婚がテーマのようで、読み進めるとツラクなってしまいます。
最初に、家族善哉と言うゆるいお話に接したので、そんな傾向と思い込んでいました。
どうやら、守備分野はツライ・セツナイ系のようで、そっち方面が得意な読者に任せることにします。

2007年7月11日 (水)

あんたのバラード

「あんたのバラード」島村洋子 光文社
前に、家族善哉と言う作品を読んだことがあります。
かなりゆるかったので、そんなのだろうと「あんたのバラード」にとりかかりました。
ゆるくないよ、からいよ。
短編集で、悲しい色やね、アイ・ラブ・ユーOK、星屑のステージ、帰れない二人、少しは私に愛を下さい、大阪で生まれた女、いいわけ、あんたのバラード
おまけに、各章の頭に歌詞があるのですよ。
こりゃぁゆるいぞと、油断して読み始めるのが当たり前でしょう。
胃が痛くなって、これ以上読み続けられない。
少しは私に愛を下さい、のところでギブアップしました。
大阪で生まれた女、いいわけ、あんたのバラード
読み残したこのあたりでは、男と女の食い違い、行き違いが複雑なんでしょうね。そんなのはカンニン、もう読まんでもええ。

2007年7月 3日 (火)

ひまわりの祝祭

「ひまわりの祝祭」藤原伊織 講談社
相手をきみと呼び、じぶんをぼくと呼ぶ
おまえおれの世界ではなく、きみぼくの関係ちゅうのは硬質なもんですねぇ。
--------
彼女はバッグから封筒をとりだし、ちゃぶ台のうえにおいた。銀行の封筒だった。かなり分厚い。
「なんだい、これは」
「退職金」
「退職金?」
「どうやら私はもう用済みらしいわね。そのなかに百万円が入ってるって。そういってた」
「百万円?」
「あなた、単語だけのおうむ返しでしかしゃべれないの?」
--------
脇役の若い女性との会話ですがね。
なかなかに、にやりと頬がゆるむフレーズが出てきます。
ひまわりっちゅうのは、ゴッホのひまわりのことです。
現存するひまわりの他に、未発見のひまわりがあるというお話しです。
ゴッホではなく、正しくはヴァン・ゴッホと呼ばなければならない、という指摘もあります。へぇ、そうなの。
作者の藤原伊織は今年五月に亡くなりました。
亡くなったのをキッカケで手にとってみましたが
たぶん、このひとの作品を読むのは始めてです。

2007年6月29日 (金)

二人の勘助

「二人の勘助」江宮隆之 桐原書店
風林火山外伝というサブタイトルです。
讃岐生まれの山本勘介
駿河生まれの大林源助、別名、山本勘助
二人の勘助がいます。何度も出会い、振れ合いながら成長していきます。
基本的に、二人は別々に旅し、修行を重ねていきます。
時々、今読んでいるのは、どっちの勘助のことだろう、と訳が判らなくなることがあります。
今川氏の中で内紛が起きます。相続を懸けての争いです。
それぞれの勘助は別々の陣営に身を置くことになります。
片方の勘助が亡くなり、亡くなった勘助を生き残った勘助が受け継いでいくことになります。
ここまでで、ほぼ9割、この後は武田家に仕えることになりますが、ここからは正伝のままで、世に聞こえたことを繰り返して語っています。
やっぱり、前半から中盤の、これはどっちの勘助のことかいな、と面食らいながら読み進めて行ったあたりが一番面白い。
伝奇、ロマネスクの芯はそのへんにあるのでしょうね。

2007年6月28日 (木)

家族善哉

「家族善哉」島村洋子 講談社
ゆるぅいお話しが読みたいな。
この著者の略歴ラインアップを見たら、絶対、ゆるいお話しに違いない。
期待にたがわず、ゆるいお話でした。
高校一年生で妊娠してしまいました。
学校を止めて結婚しました。
娘が大きくなったころ、高校に行きたくなりました。
娘と母親が二年生で同じクラス、息子が一年生で同じ高校に通っています。
----------
「アホ。こんなキレイなお嬢さんに間違いがあったら困るから、父としてワシはここにおらしてもらう」
「間違いって、どういうやつやのん?俺は高校生やし、何しろ風邪ひいてパジャマ着て寝ててんで」
「アホ。よう考えてみぃ、オマエのお母ちゃんが将来の伴侶となる男と巡り合ったのは、オマエぐらいの年齢なんじゃ。年がナンボであっても何が起こるかわからへんのが男女の仲なんじゃ。お父ちゃんは責任ある保護者としてここにオマエを見張っているんじゃ」
「それ、お母ちゃんと巡り合った男ってジブンちゃうん?それ、ジブンが危なかった、って話ちゃうん?」
「そうや」
「その上に今のオマエたちのくらしがあり、このキレイなお嬢さんと知り合った今日のオマエがあるんじゃ。人生は縁やなぁ」
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一部引用しましたが、ゆるさの加減がわかるでしょ。
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「雨はひとりに降るものではない」とはよく言うけれど、ひとりだけに集中豪雨的に降る雨もあるのだ、と新哉は男らしくあきらめていたのである。
---------
ゆるいだけじゃないよ、哲学を語る場面もあるから面白いね。

2007年6月27日 (水)

離婚裁判

「離婚裁判」荘司雅彦 AmebaBooks
サブタイトルが、モラル・ハラスメントからの脱出
会社が左前になって、退職に追い込もうと猛烈に圧力をかけてきます。
典型的なパワー・ハラスメントですよね。
そんなこんながありまして、主人公は結婚して、今は離婚調停の場におります。
不利な離婚条件に追い込まれそうなとき、ある弁護士と知り合います。
これは、モラル・ハラスメントだ。裁判で戦いなさい。
モラル・ハラスメントとは、精神的な虐待で、真綿で首を絞めるようにじわじわと相手を支配下に置いていくことをいうのだそうです。
ここから裁判が始まって、丁々発止の応酬があります。

モラル・ハラスメントを世間に認知させようと、ブログから発信したんだそうです。
そういえば、アメーバブログちゅうのがあったな。アメーバブックスはその別働隊なんだな。
セクションなりブロックなり、ひとつの単位がえらく短いので読みやすいと思っていたが、ネットで読ませるにはちいさく単位を区切らないと振り向いてもらえない。
これで、離婚調停、離婚裁判の進行具合が見えるので、近々、離婚を考えているひとは読んでおくべきです。(これは冗談)

2007年6月24日 (日)

恋七夜

「恋七夜」安部龍太郎 集英社
安部龍太郎の作品は、大体において、戦国武将、皇室の帝(ミカド)などメリハリの効いた人物が主人公になるのが多いです。
これは、花街の太夫が主人公です。
北野天神に上七軒という花街があります。
祇園や島原などは話しに聞いていますが、あんな住宅街に花街があるのかいな。
上七軒と恋七軒を掛けた設定なんでしょうね。
花街のお話しかいな、ちまちまとかったるいお話やな。
最初は、気が乗らずにページを繰るのも間遠でした。
ちょっと展開が違ってきたぞ。
秀吉が北野天神で大掛かりな茶会を催すことになったそうな。
そこで、秀吉暗殺の動きがあるのだそうな。
やっぱり、お得意の英雄譚、歴史的イベントに持っていくのは安部龍太郎ですね。
最初は、途中で止めようかと思っていたのに、最後は安部龍太郎ワールドに巻き込んで夢中になりました。

2007年6月19日 (火)

職人ことばの「技と粋」

「職人ことばの「技と粋」」小関智弘 東京書籍
小関智弘は「粋な旋盤工」で小説にデビューしたのですが
工場や職工などのエッセイやインタビュー・ルポで見ることが多いです。
現役の機械工を続けながら、ものを書き続けてきたひとです。
この本は、エッセイというか、事典というか、そんなものです。
項目を、五項目毎に飛び飛びで並べておきますね。
【半竹】【二度学ぶ】【他人の飯を食う】【行儀】【お礼奉公】【暖簾分け】【粋なすり師】【揉む】【つかみぼくろ・器用ぼくろ】【下手の長糸・上手の小糸】【手筋】【手が枯れる】【捨鐘】【捨コン】【殺す】【刃先を殺す】【石が泣く・鉄が泣く】【オシャカ】【鉄の縄跳び】【鉋や鋸をあたためる】【雪隠大工】【運針一年、袖一年】【蝉は七年、木型は一生土の中】【一に芯、二に寸法で三に仕上げ】【炭焼百仕事】【かわりばんこ】【めっき】【治具】【カンピュータ】

2007年6月12日 (火)

日本のものづくりは世界一

「日本のものづくりは世界一」唐津一 PHP
くさくさする時、気分を高揚させようとすると、唐津一氏の本を読むことです。
マスコミにもの申す、これがサブタイトル
マスコミは勉強不足だぞ、もっと製造現場で学んで来い、とりわけ中小企業を訪問して来い、ということを言っているわけです。
教えてもらうと、凄いよ、これは

小型・極小ベアリング 北日本精機(世界シェア70%)
コンピュータ式自動イカ釣り機 東和電機製作所(世界シェア70%)
高感度発光検出装置 東北電子工業(世界シェア80%)
自動車エンジン用可変バルブ 秋田渥美工業(世界シェア80%)
分析用脱気装置 イーアールシー(世界シェア80%)
視覚障害者向け点字装置 ケージーエス(世界シェア70%)
精密サンドブラスト装置 不二製作所(世界シェア90%)
製鉄用ロータリーシリンダー 南武(世界シェア70%)
紙幣計算機用真空ポンプ 三津海製作所(世界シェア60%)
非放射性夜光塗料 根本特殊化学(世界シェア80%)
超極細注射針 岡野工業(世界シェア100%)
オシロスコープ用プローブ スタック電子(世界シェア70%)
インパルス巻線試験機 電子制御国際(世界シェア80%)
複写機用ヒンジ 加藤電機(世界シェア70%)
海洋計測装置 鶴見精機(世界シェア100%)
固体レーザー用波長変換素子 光学技研(世界シェア100%)
水晶デバイス用薄膜製造装置 昭和真空(世界シェア80%)
エレクトロケミカル材料 ナミックス(世界シェア80%)
カラーフィルター製造装置 クリーン・テクノロジー(世界シェア90%)
研究開発用単結晶製造装置 クリスタルシステム(世界シェア70%)
磁気塗料用フィルター ロキテクノ(世界シェア70%)
内視鏡用チェーン オリエンタルチェン工業(世界シェア70%)
手動変速機用鍛造歯車 大岡技研(世界シェア70%)
プリント配線板用特殊薬品 メック(世界シェア100%)
タンカー船の原油荷揚げ用ポンプ シンコー(世界シェア85%)
カニカマ製造装置 ヤナギヤ(世界シェア70%)
排水処理用乾燥機 西村鉄工所(世界シェア100%)
金属コイル巻取り用ベルト式張力付与装置 日本開発コンサルタント(世界シェア90%)
光ディスク研磨装置 エルム(世界シェア85%)

この中には、名高い中小企業もあるし、そもそも何の用途に使うんだろうと想像できない装置もあります。

2007年6月 7日 (木)

えっヘン

「えっヘン」藤田紘一郎 講談社
著者は、東京医科歯科大学の名誉教授で、腹の中にサナダムシを飼っていることで有名です。
寄生虫を駆逐したからアレルギーが起こるようになった、とか
清潔すぎるとアトピーが始まる、とか
にわかには賛成できない内容なのに、そうかもしれない、と納得してしまう自分があります。
エッセイで軽い体裁ですが、今の医学の現状、限界を伝えていて、唸ること再々です。

2007年5月17日 (木)

女信長

「女信長」佐藤賢一 毎日新聞社
信長は、じつは女だった、という設定です。
幼児のときから男として育てられて、そのまま、男として家督を相続した、とこういうことになっております。
序章  斉藤山城道三、富田の寺内正徳寺まで罷出づべく候間
第一章 御敵今川義元は四万五千引率し
第二章 江北浅井備前手の反覆の由
第三章 明智が者と見え申候
終章  徳川家康公、和泉の堺にて信長公御生害の由承り
信長伝記のポイントだけを章立てしてあります。
序章では、斉藤道三と、一章では、柴田勝家と、二章では、浅井長政と、三章では、明智光秀と
本来の女に帰って、女として男をたらしこむ
こんなことをやっております。
終章では、別の驚きを用意してあります。
メチャクチャな設定だが、うぅむ、有り得る、こんな状況ならこういう運びはあっても不思議ではない
説得力があるから不思議です。

かの英雄何某は実は男だった
これは飛び道具が過ぎて、そうそう何度も使えるもんじゃありません。
うまく設定を入れ替えて、説得力のある物語を組み立てた手腕に拍手です。

2007年5月14日 (月)

小説明恵

「小説明恵(みょうえ)」寺林峻 大法輪閣
源平争乱のころから鎌倉幕府初頭のころが時代背景です。
法然などの新しい宗教気運がきざし始める時代です。
明恵は華厳と密教を融合した厳密を極めようと志します。
華厳宗律宗などは戒律プロトコルを磨くのを主眼とし(しぇるぱの解釈)
密教は自己を高めることで、仏に近づこうとします。
名号、題目を唱えることで、仏のほうが近づいてくれる
新しい宗教理念が生まれて、明恵は宗論整理に懸命になります。
栂ノ尾の高山寺を創建し、ひとびとの帰依を集めました。

というようなことが、あれこれ、あれこれ
高僧伝というのは、落ち着いて読めるもんです。
悪人が出てこないし、恋愛や闘争など欠けらもない。
ただ、どこがクライマックスなのか、高揚した気分など味わうことなく、お話しは終わってしまいます。
明恵という高僧がいた。
わたしの解釈では、旧守派で、新潮流を作ることなく去っていったひと、こんなことでしょうか。
なにしろ、この本を読むまで、明恵という人物など知らなかったのですから。

2007年5月10日 (木)

天明の密偵

「天明の密偵」中津文彦 文芸春秋
小説・菅江真澄 というサブタイトルがあります。
菅江真澄というひとは丸で知りませんでしたが
東北では名高い民俗学者で、その考察・写生は価値が高い、ということです。
田沼意次と松平定信との政争があり、白井秀雄は松平定信側の密偵として蝦夷地に行くように勧められる、いや、強制される。
天明の頃のお話し、蝦夷地の松前藩はこんな行政を敷いていたのかい。
ロシアはこんなふうに南下していたのかい。
蝦夷びとは商人からこんな扱いを受けていたのかい。
密貿易・抜け荷が幕府に察知されたかもしれない。
松前藩、改易するならしてみろ、ロシアと連合して、幕府と戦うのも辞さない。
白井秀雄は、うまいこと、蝦夷地に潜り込みます。
うわさ見聞を師匠に手紙で送り続けます。
ばれました。寸前で逃亡して、夜の津軽海峡を小舟で漕いで渡ります。
その後、白井秀雄は菅江真澄という名前であらわれます。
菅江真澄は歴史上の人物、白井秀雄は架空の人物かもしれない。
そこは小説、お話しだもの、菅江真澄が東北の各地を旅した、ということで、松平定信側の密偵だったのだ、そういう設定に仕立てたんですね。
人物・主人公に共感も興味も湧きませんが、蝦夷地の歴史的条件はとてもよくわかりました。

2007年5月 5日 (土)

武家用心集

「武家用心集」乙川優三郎 集英社
短編集なんですが、てっきり、剣術のなにかのお話と思っていました。
違いました。
下級武士の世渡りの術、家庭のなかのとげとげをやり過ごすテグチ、これは現代でも通用するお話でした。
旗物奉行などのあまり聞くことの無い奉行名、組頭など、今で言うと、係長、主任程度で、扶持米は少ない役職なのだな、と身につまされました。

2007年5月 1日 (火)

芥子の花 金春屋ゴメス

「芥子の花 金春屋ゴメス」西條奈加 新潮社
頃は21世紀の中ごろ、日本の北関東あたりに、江戸というテリトリーがある、こんなことを丸呑みしてください。
時は21世紀でも、テリトリー内では、江戸なんです。江戸幕府の支配化にあるんです。
長崎奉行が金春屋ゴメス、馬込播磨守寿々、名前の一部を抜き出してゴメス、金春屋というのは屋敷の裏に副業の料理屋を経営していて、その屋号だと、そういうことです。
名前が寿々であるように、ゴメスは女なんです。
強力無双、容貌魁偉、巨大肉体、性格悪辣、ええもう、むちゃくちゃヒールの役回りです。
第一作の「金春屋ゴメス」これでファンタジーノベル大賞を獲得しました。
べらぼうな設定だな、東京に隣接して江戸があるのかい、ただし、江戸は鎖国していて、長崎奉行のもとに通商を制限している。
今回は、アヘンがお話しの中心です。
東京でアヘンが流通している。そのアヘンは江戸からもたらされたものらしい、ということで、長崎奉行の出番があるわけです。
何が何やら、お話しの運び方は自由自在、そりゃぁ、現代に時代劇を織り込んだら、どんなことだってできる。
これはけなしているんじゃありません。
ええ設定を考え出したな、とほめているのです。
目を白黒しながら、読み進めていってください。

2007年4月30日 (月)

空飛ぶタイヤ

「空飛ぶタイヤ」池井戸潤 実業之日本社
走行中、タイヤが外れて直撃し、若い母親が亡くなる、という事故が起きます。
事故の当事者は運送会社、客先は注文をくれなくなるし、銀行は融資を引き上げる。
運送会社の社長は、絶対整備不良ではないと、ホープ自動車に、欠陥自動車ではないかと糾明します。
あとは、めでたしめでたしの終わりなんですがね。
三菱ふそうで欠陥ハブの事件はありました。
リコール隠しした事実があります。
巻末に、本作品はフィクションで云々と但し書きがありますが、そりゃもう、そっちを連想してしまいます。
交差点で、隣りにトラックのタイヤと並んだら、三菱のトラックかい、と確かめましたし
追い越しのトラックに、三菱なら追い越させるままにしとこう
信用をとことん失いました。
トラック・バス部門を切り離しましたが、三菱自動車本体のリコール隠しは忘れるもんじゃありません。

2007年4月27日 (金)

ハゲタカ

「ハゲタカ」真山仁 ダイヤモンド社
NHKの土曜ドラマで、ごつい人気でした。見てなかった、しまったな。
本を読んで追いかけよう。
読み始めて、なるほど、こりゃぁハゲタカのほうに理があるわ。
債務超過、粉飾決算、私的流用、なんだかんだ、つぶれていってもこれはしょうがない。
外資が日本企業を食い物にしている、というが、同情できません。
ビジネスチャンスでリスクを取って踏み込むところに潔さを感じます。
橘玲のマネーロンダリング、永遠の旅行者で、金融モデルを見て舌を巻きましたが、これと同様、知らない世界というのは、輝いていてステキです。
上下巻の二冊ですが、あっという間に読んでしまいました。

2007年4月23日 (月)

風の墓碑銘

「風の墓碑銘」乃南アサ 新潮社
女刑事・音道貴子シリーズなんですがね
安心して読める、直木賞受賞作の「凍える牙」から続くシリーズの作品です。
離婚して、30過ぎていて、警察の男社会の中で突っ張っていて
ヒロインに感情移入して同化してしまいますよね。
相棒の警部補もええ。
定年間際で偏屈で、音道刑事を評価するのも彼特有のやり方があるんですね。
乃南アサには、都会ホラー物があるんですが
わたしは苦手です。
警察ものだけで満足しております。